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少女サラサはホムンクルス

 人造人間ホムンクルスの少女が俺の血を飲んでから淡い暖かな光に包まれた。


「ゼロ、これって……」

「見ろ、頬のヒビが」


 かさかさして割れていた頬に潤いが戻ってくる。


「馬鹿な、こんなことは。いやあり得ないわ!」


 ピカトリスが動揺して駆け寄る。


「今までどうやっても生きながらえることができなかった。だから何度も造り出した。何度も! そして少しずつだけど生きる時間が長くなってきた……。それでもいつもの消える前の症状が出始めた。こうなってはもうおしまい、そう思っていたのに!」


 生気を取り戻してきた人造人間ホムンクルスにピカトリスが抱きつく。


「あたしの血では駄目だった。人間の血も。魔族の血も。輸血をしても、魔力を注いでも、長くは生きられなかった。でも!」


 ピカトリスは涙に濡れた顔で俺を見る。


「勇者の血は、飲ませていなかった……」


 俺はただ自分の魔力を注ぎ込むためにどうすればいいか考えて血液を与えようとしただけだが、それがこんな効力を持つとは思っていなかった。


「ゼロ君お願い。この子を、この子に生きる時間を与えて欲しいの。まだこの子は何も成していない、何も。この子にこれからを見せてあげたいの。お願い、ゼロ君……」


 ピカトリスが神妙な顔つきになって俺に懇願する。


「魔力の注入で済むなら協力する事は構わんが……」

「ゼロ」

「ゼロ君……」


 俺はもう一筋だけ人造人間ホムンクルスに俺の血を飲ませる。

 魔力が充填されその目に光が宿る気がした。


「よかった……。よかったわねぇ」


 ピカトリスが人造人間ホムンクルスを抱きしめる。言葉を発しない人造人間ホムンクルスの少女は、ゆっくりと目を閉じてピカトリスに身体を預けた。


「寝ちゃった……の?」


 自分に瓜二つな姿の少女が穏やかな寝息を立てる姿を見て、ルシルも安心した表情になる。


「お、おい……」


 俺は気が付いてしまった。

 ユキネも俺の顔を見てそれに気付く。


「この子……足が」


 足が細かい灰となってその形を留めていなかった。

 足の指先からかかと、足首、ふくらはぎと、灰化が進んでいき風に舞って散っていく。


「そんな」


 ルシルの目からも涙が流れた。


「えっ、なんで……どうして……ねぇ! ゼロ君! どうしてサラサが、この子が、勇者の魔力でも駄目なの!? これじゃあこの子の姉たちと一緒、この子も灰化の運命からは逃れられないというの!?」


 徐々に軽くなっていく身体を抱えてピカトリスがうめいた。

 そうしている間にもサラサと名付けられた人造人間ホムンクルスの少女は末端から灰になっていく。


「この子も、この子も駄目だったというの!」


 ピカトリスは涙ながら何かにすがるようにサラサをかき抱くが、その姿も徐々に小さく軽くなっていった。


「サラサ……」


 ピカトリスの目が大きく見開かれた。

 人造人間ホムンクルスの少女サラサがピカトリスに微笑みかけているように見える。


「えっ、だって人造人間ホムンクルスには心が……」


 サラサの口が小さく開く。


「……」

「サラサ……なあに」


 ピカトリスが優しく問いかける。それに応えるようにサラサの口が動く。


「っ……!」


 ピカトリスも俺も他の皆も、サラサの口から声にならない声を聴いた。



 ありがとう。



 サラサの身体は灰となって消えた。

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