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温泉の中で思わぬ事態

 俺もルシルと一緒に温泉へ向かった。露天風呂、と言うらしい。屋外に湯船があるものの外から見えないように柵で囲われている。夜空が頭上に広がって開放感に溢れる素晴らしい湯殿だ。

 一応入浴する場所は男女で異なるが、それでも場所を隔てているのは木の板で作られた壁だけだった。


「ふぁ~あ、湯に浸かるなんてどれくらいぶりだろうかな」


 温泉のお湯は少し熱い。外気が肌寒いくらいだから丁度いい感じだ。


「ルシル~、いるかぁ~?」


 いるのは知っているのだがなんとなく聴いてしまう。


「いるよ~。ゼロ、いいね~、うん、いいねぇ~」


 ため息交じりの返事が来る。あれだけはしゃいでいたのに、入った後のとろけてしまった声の落差が大きくてつい笑みがこぼれてしまう。


「このところ忙しくて大変だったからな、これくらいゆっくりできるのはありがたい……」


 何気なしに今まで起きたことなどを思い出していた。魔王討伐や帰還しての突然の解雇、そして逃亡劇。


「いろいろあったもんなあ」


 独り言が漏れる。


「大変でしたわね」

「へっ?」


 声の方を見ると、湯煙で霞んであまりよく見えないが……。


「シ、シルヴィアさん? な、ここは男湯じゃ」

「ふふっ、今は貸し切りですわよ」

「それは答えになってない……」


 貸し切りって、金か、金なのか。金持ち商人のやる事は判らん。


「どうしました、そんなに固くなって。温泉では身も心もほぐすものですよ」

「いやいやいや、そんな事言ってもですね」


 俺は慌てて後ろを向く。

 シルヴィアが湯船に入る音がして小さな波が俺に当たる。


「ここまで護衛していただいてありがとうございます。お陰で無事に商いをできますわ」

「そ、それはもう、仕事ですから……」


 俺がしどろもどろしていると、壁の向こうから声がした。


「ゼロ、どうしたのー、何かあったー?」

「い、いや、大丈夫だ、問題ない!」

「そっかぁー」


 何が大丈夫だ。振り向けば全裸のシルヴィアがいるこの状況で。


「同じ旅をしている仲間ですから、そんなに気にすることもありませんのに」


 見なくとも水の動きと音で判る。シルヴィアが俺に近づいてきたのだ。

 そっと俺の手に触れ引っ張る。背中のところで両手を組むような形になった。

 シルヴィアの手以外の何か柔らかい物に触れる。これは何だ、上に行けばあの豊かな膨らみだし、下に行けば秘密の場所か。


「そんなに焦らないで下さい」


 シルヴィアが俺の耳元で囁く。


「今は二人っきりなのですから……」


 不意に、親指をつねられたような、包まれたような感触があった。


「ほら、これで……」


 シルヴィアが立ち上がる音。だが親指の感覚は変わらない。


「あれ、シルヴィアさん……」


 親指が動かない。いや、親指同士が結ばれているのか手の自由が利かない。


「ちょっと、冗談はやめて下さいよシルヴィアさん」

「ゼロさん、これは冗談ではなくてよ」


 俺は振り向いてシルヴィアを見る。編み込んでいた銀髪が夜風に揺れた。月明かりに見えるシルヴィアの姿は美しいながらも何か禍々しさを感じさせる。

 シルヴィアが恥ずかしげもなく俺の前を通り湯船から上がると、近くに掛けてあったバスローブを羽織った。


「あなたが独りになる時を待っていましたの」


 その言葉を合図としたかのように入り口から数名の男たちが入ってくる。手に武器を持って。

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