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もぐもぐタイム

 俺は抱きかかえた人造人間ホムンクルスを見た。

 魔王としての印なのかルシルには頭部に二つの小さな角が生えている。もちろん魔王を封印する器となった俺の妹アリアには角なんて生えていない。魔王を宿してから盛り上がるようにして出てきたものだ。

 その角は人造人間ホムンクルスに無い。当然と言えば当然なのだが。


「それにしてもよく似ている……」


 この人造人間ホムンクルスはルシルの、というよりその器であるアリアの姿に瓜二つだった。

 ちなみに言うと、元々の魔王であるルシルはアリアと雰囲気は似ていたような気もするが当然別人だったしもっと大人だったのだが。


「な、なによ……」


 ルシルが何かを察知したのだろうか、人造人間ホムンクルスを抱きかかえている俺を見ていた。


「ほうほうほう、今のは速かったのう。儂でも追いつかなんだわ」


 マンティコアがドラゴンの翼を動かし始める。


「飛ばせはしない」


 俺は思いきり地を蹴り跳びかかった。マンティコアが飛翔するその前に魔法を帯びた剣を抜きもう一度超加速走駆ランブーストを使って間合いに入った。


「速っ……!」


 マンティコアは身体を横に跳ばして俺の突撃を躱そうとするが、俺はマンティコアの反応よりも速く剣を振るう。

 狙いが少しずれたものの左側の翼を斬り落とす事はできた。根元から斬り飛ばされた翼だけが宙に舞う。


「一撃で倒すつもりだったがまあいいだろう。これで空へ逃げることはできなくなったな」


 俺は剣、覚醒剣グラディエイトを構え直す。青白い光が刀身を包み込んでいる。


「ま、魔法の剣か……。流石は勇者様じゃ、いい物を持っておるのう……」


 痛みに耐えながらもマンティコアは俺をにらみつけてきた。


「餌に噛みつかれる事になろうとは、儂ももうろくしたもんじゃい」


 マンティコアを半ば囲むように、俺とピカトリス、ルシルが立っている。俺の後ろには人造人間ホムンクルスの少女、ルシルはユキネとグリコをかばうような形で魔法障壁マジックシールドを展開している。

 マンティコアが喉の奥で唸り声を鳴らす。


「来るぞ……」


 俺は身構えると同時に警告を発した。

 マンティコアはジグザグに駆け回り鋭い爪と牙で俺たちに襲いかかる。

 手負いの獣は自分の命が危険な状態に衣あることを知っているのだろう。全力で、まさに死を賭して襲いかかってくるのだ。


「まだまだよ、出ておいでゴーレムちゃんたち!」


 ピカトリスは印を結んでゴーレムを召喚する。マンティコアがピカトリスに牙を剝いて突進した。

 そしてマンティコアがピカトリスの脇を通り過ぎこちらへ振り返る。


「ほうほう」


 マンティコアが何かを咀嚼そしゃくしていた。


「ぐっ……やるわね……」


 ピカトリスの右腕が肘の辺りから無くなっていて、傷口からおびただしい血が噴き出す。


「ピカトリス!」


 俺は急いで重篤治癒グレートヒーリングをピカトリスにかける。


「傷口は塞ぐが腕が再生する訳ではないからな」

「判っているわよ、でもありがとうゼロ君」


 ピカトリスはうでの傷を押さえながらマンティコアに向き合う。


「どう、あたしの腕の味は」

「骨張って味も薄い、あまりいい物を食ろうておらんようじゃのう。じゃが久々の人の肉、悪くはないぞう」

「それは……どうも!」


 マンティコアの足下の土が盛り上がって巨大な手の形になり、マンティコアを下からつかみ上げる。


「ふぁっ!」


 マンティコアが身動き取れない状態になったところで、他のゴーレムたちがのしかかっていった。


「お代は高く付くわよん」

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