ゴーレム軍団いっぱいいっぱい
ピカトリスが両手を前に出し何やら印を結ぶ。
「何やってんだ?」
「見て判らない、錬金術よ。ここには素材がいっぱいあるんだからん」
ピカトリスの気持ちの悪い女言葉を聞いて俺の身体に鳥肌が立つ。言葉の力だけで鳥肌が錬成させるなんてそれだけでも大したものだ。
「さあおいでなさい、可愛いゴーレムちゃんたち!」
ピカトリスが印を完成させる。
地面が盛り上がって出てきたのは土ゴーレム。倒れた木々から造られたのは木ゴーレム。そんな奴らが十体は現れた。
「ほうほうどうしてさっきはこれをやってくれなかったのじゃ?」
「馬鹿をお言いでないよ。フレッシュゴーレム造って魔力が尽きたに決まってるでしょ。あたしが回復すればこんなもんじゃ済ませないんだから!」
ピカトリスは返事をしながらも俺を見る。
「なんだよ恨めしそうに」
「べ~つ~に~」
「めんどくさい奴ね……」
俺とピカトリスのやりとりを見てルシルがあきれたようにため息をつく。
「そんなことよりいいの? あっちは」
ユキネがヒポグリフだった少女のグリコを抱きかかえるようにして俺たちの背後で様子を見ている。
ユキネの大きな胸がグリコの頭の上に乗っかっている状態だが、今は特に触れないことにしよう。
「ほうほう楽しそうじゃの、ほれ儂も混ぜんかいのう」
マンティコアが尻尾を振るう。その度に尻尾に生える棘が放たれてゴーレムに突き刺さる。
棘の刺さったゴーレムは粉々に砕けてしまう。
「なんて威力なの……あたしのゴーレムちゃんたち……」
「じゃがこれでは腹の足しにはならんのう、ほうほうほう」
「嫌味な笑い方、癇にさわるわねぇ!」
ピカトリスがまた印を結んでゴーレムを生成する。
「……つまらん。飽きたわい」
マンティコアは鋭い爪を持った前足を繰り出す。爪による引っ掻きだけでゴーレムたちが粉砕された。
「儂は肉が食いたいのじゃよ。こんな土や木じゃあ腹は満たされんからのう」
マンティコアの老人の顔が捕食者の表情に変わっていく。
「先ずは面倒なゴーレムを造り出すお前から食ろうてやろうかのう!」
一足跳びに襲ってくるマンティコアの標的はピカトリス。
「くっ、ゴーレムちゃん、あたしを守って!」
ピカトリスがゴーレムをマンティコアの前に突き出す。
「と、見せかけてじゃ!」
マンティコアが急に向きを変えて一人離れて立っていた少女、ルシルに瓜二つの人造人間へと向かっていった。
「ホムホムっ!」
ピカトリスが焦って叫ぶ。
だが動きのそれ程速くないゴーレムではこの動きについて行けない。
「ほうほう、いっただきま~す!」
マンティコアの口が開いて整列された牙が見える。
よだれが糸を引き、その奥で舌が小躍りするかのように動いていた。
「超加速走駆!」
マンティコアの口が閉じると、打ち合わされた牙によって金属のような甲高い音が響く。
突進してきたマンティコアは森の木々をなぎ倒して止まると俺の方を見る。
「余計な真似を……」
俺はマンティコアの顎が人造人間へ食らい付く前に、超加速走駆で人造人間を抱きかかえて突進を躱した。