表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

121/1000

魔獣の森の長

 幻影と器官転移を駆使する魔術師は炭化した物質となって転がっている。


「魔獣の森……か」


 奥に見えるヘイテイ山、そこに続いている広い森が目の前に広がる。

 草原へもヒポグリフがやってくるところからも、魔獣の森には複数の魔獣が棲んでいる可能性があった。


「まさかグリコが魔獣の森の長、という訳ではないだろうからな」


 グリコの頭をぐりぐりとなで回す。

 俺は裸に外套を羽織っただけではかわいそうだと思って、適当に見繕った袋を簡易的な貫頭衣にして着させている。目のやり場に困っているとかそういう事ではない。断じて。


「だがなあ、その魔獣とやらが出たとして、そいつらもグリコみたいな奴だったらどうするか……」

「え、どういうこと?」

「考えてもみろよ、全部が全部そうだとは言わないが元は人間でしたっていう奴ばかりだとしたら、グリコみたいに戻すのか?」


 別に俺たちは魔獣を解放しに来た訳ではないのだから。俺たちの目的は、人革じんかく魔導書グリモワールを持つピカトリスを捕まえて、動く死体(ゾンビ)化の呪いを解くことにあるのだ。

 呪いをかけられてベッドで寝ているカインを考えれば魔獣に関わっている暇はないのだが。


「ん~そうだねえ、全員を戻したりはないかなあ」


 ルシルは少し悩んだ様子で、でも即答だった。


「グリコちゃんだってこの姿になったから無力化しちゃった訳だし、危害を加えてこないなら私は別にどっちでもいいかなー」

「魔王としては人間だろうが魔獣だろうが関係ないだろうからな」

「そそ、そういう事」

「まあ確かに刃向かってこなければこちらとしても面倒事は避けたいし。助ける助けないはその時の気分でいいんじゃないか?」

「今までそうしてきたしねー」


 ユキネが俺たちの会話を聞いてどう思ったかは判らないが、特に表情も変えずに付いてきている。

 喰らう者(イーター)と自称しているがゾンビはゾンビだ。これもまた感覚としては人間とは別の物になっていると思った方がいいかもしれない。


「人間からすればこんないい加減な勇者だと幻滅もするのかもしれないけどな」

「そう? 私はゼロのこと好きだよ。こっちにだって考えや都合があるんだもん。正義って言っても皆が皆同じ内容って訳じゃないもんね」


 こんなことを話ながら俺たちは森へ足を踏み入れる。

 俺たちが森に入ってすぐの事だった。


「ほほう、それはそれは俗物的な勇者様じゃのう」


 森の奥、木々の上だろうか。老人の声が聞こえた。


「なんだ、俺のことを知っているのか?」

「ほほう。知っておるよ勇者様。王国を解雇されて返す刀でその王国を滅ぼしてしまった男。気にくわなければ国をも手にかけるその暴虐さ。儂は嫌いではないぞ」


 敵感知センスエネミーが発動して耳の奥に痛みが走る。

 痛みを感じる向きを調整し、聞き耳を立てるようにして声の主のいる方向を特定した。


豪炎の爆撃(グレーターボム)! 燃えてなくなれ!」


 俺の手から炎の塊が発射される。声の方向をめがけて飛んでいく炎の塊は、近くの木々を燃えるまもなく炭にして突き進んでいく。


「あんた何いきなりやってんのさ!」


 ユキネが俺の魔法発動をとがめる。


敵感知センスエネミーが強力に発動したんでな。俺に向けた殺意の強さからしてかなりのものだったし、それに……」


 俺はつかんでいた棘を地面に落とす。


「ユキネ、お前めがけて飛んできたこの棘、これに貫かれてもよかったというのなら考え直さないでもないが」


 元々血の気のないユキネの顔が、さらに青白くなったような気がした。

 気のせいだが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ