ヘイテイ山の巨大魔獣
百年前に子供の頃……。
ユキネの発言には驚いた。
「お前いったいいくつなんだよ!」
「何よ、レディに歳を聞くものじゃないわ」
あれか、不死化された肉体と言っていたから、それだけ長い期間活動していたというのかもしれない。
「でもね……、流石に経年劣化は出てくるものだし、成長もしなければ傷も治らないのよね。時間が止まっている身体とでも言うのかしら」
「そ、そうか。それはそれで大変なんだな」
「でも研究者にとっては便利よ。どれだけ長い実験でも結果を確認することができるから」
「そういうものか。研究者というのは面白いな」
今、俺たちはエイブモズの町を出てヘイテイ山へと向かっているその道中だ。
俺とルシル、ユキネの三人での旅。途中ばったりとモンスターに出会ったりもしたが、特に何事もなく撃退している。
「凄い……。勇者ってこんなに強かったんだ……」
「そりゃあそうだろうな。大陸を滅ぼさんとしていた魔王を倒したくらいだ。草原に出る魔物くらいで手間取る俺じゃないぞ」
「何を言っているんだ、ゼロは口ばかり威勢のいい事を言っているけど、私が全盛の頃だったらあんなに簡単には倒されなかったんだからね」
「はいはい、そういう事にしておくよ元魔王様」
「な~にお~! そこへ直れ~!」
山へ向かう草原をじゃれ合いながら進んでいく。
「ほんと、仲いいんだね二人は」
なぜか涙ながらに笑うユキネがいた。
その上に大きな影が。
「ユキネっ!」
俺は横に跳びながらユキネを抱えて地面に押し倒す。
「なっ、だからってこんな所で急に……」
「何を馬鹿なことをっ、見ろ!」
俺たちの上を素通りして飛び去る巨大な影。
「まさか平原も奴の狩り場だったのか……」
「ゼロ、また来るよ!」
大空を飛翔する翼を持った姿。
「ドラゴン……」
巨大な翼で旋回すると、俺たちに向かって急降下してきた。
圧倒的な体格、他の追随を許さない風圧、見る者を恐怖で震え上がらせるその双眸。
「まさかこんな所で出会うとはな。魔王の配下にもあまりいなかったが……」
「そ、そんなことはないよ。ちゃんと魔王の部下にもいました!」
「いなかったとは言っていないだろ」
「むー」
それ程珍しく、それだけに恐ろしく、何よりも強い。
それがドラゴンだ。
「おっ?」
俺の目の前に着地したその巨体が砂埃を上げる。
鳥のような鋭いカギ爪を持った前足と尖ったくちばし、大きな白い翼。
後ろ脚は馬のように蹄があり、草原の地面を蹴り上げている。
首元には魔力の感じられる首飾りがぶら下がっていた。
「ドラゴンじゃなかった。こいつはヒポグリフだな」
鷲の前身と馬の後身。キメラの類いとみられるかのようなその異様な姿は、神話の頃より伝え聞く魔獣だ。
「ねえゼロ」
「なんだ」
ルシルが俺に向かって残念そうな顔をする。
「ああ、期待しちまった俺が悪かったよ」
俺は剣を抜くとヒポグリフに向かって駆け出した。