吸って流して入れ込んで
ユキネがカインに近付く。
カインは猫耳娘の状態で熱に浮かされてベッドに横たわっている。
荒く浅い呼吸が繰り返され、体内の熱を少しでも放出しようとしているようにも見えた。
「ちょっと……ごめんね」
ユキネがカインにかけられた毛布を少しだけめくる。
熱を帯びた肌着が汗で張り付いていた。
「少し開くね」
胸元のボタンを一つ二つ外していく。汗ばんだ首筋があらわになった。
ユキネの口が小さく開くと、その奥に白い歯が見える。
「吸血鬼じゃないから牙はないんだ。歯形、付いちゃうけど……」
カインの首を少し傾けてユキネが首筋に触れやすいようにした。
「いくよ……」
ユキネの唇がカインの首元へと触れる。
「ん……」
カインが苦しみの中から声を漏らす。
ユキネの口が押しつけられて、力が入った。
「あっ……」
カインは眉間にしわを寄せる。唇を噛んで今までとは別の痛みに耐えていた。
ユキネの口元から一筋の赤い流れが出てくる。
「もう少し……頑張って……」
ユキネがさらにカインの首元をくわえ込む。
「っ、ううっ……!」
カインが毛布を強く握りしめる。その手をシルヴィアが優しく包み込んだ。
「頑張って、カイン」
シルヴィアがカインを気遣って呼びかけると、カインもそれに応えようとしているようにも見える。
「うわっ」
俺はつい声を出してしまう。
カインの首元から大量の血が流れ出てきたからだ。
「おい大丈夫なのか!」
俺の問いにユキネが片手で俺を制止させるよう合図を送る。
ルシルは無意識にだろうか、俺の腕にしがみついていた。
「信じよう、な」
「うん」
俺はしがみついているルシルの手に自分の手を添える。
心配している時にこうして触れ合える相手がいると気持ちが少し楽になる気がした。
「んあっ!」
カインが目を見開く。
大きく背中を反らしてベッドの上で跳ね上がった。
「押さえてっ!」
ユキネが首筋に噛みつきながら協力を求める。
「よし!」
俺は跳ね上がろうとする上半身を上から自分の身体で覆い被さるようにして押さえつける。
シルヴィアが腕をつかんで固定し、ルシルも脚の上に身を被せて跳ねないようにした。
「まだかっ!」
ユキネは応えずそのまま噛み続ける。
「ああっ! あああーっ!」
カインが吠えて暴れようとしている所を四人がかりで押さえ続ける。
獣人化の影響だろうか、それとも肉体の制限以上の力を発揮しているのか、撥ねのけようとする力が強すぎて四人がかりでも押さえられなくなりそうだった。
「そうか、試してみるか」
勇者魔法には無かったが一度受けた魔法だ。複製できるかやってみよう。
「捕縛撚糸!」
何も動きはない。
こればかりは仕方がないか。
「ユキネ、やっている時に悪いが捕縛撚糸はできるか」
俺の質問にユキネが手のサインでできることを示した。
「よし、頼む!」
俺の合図でユキネが魔法を発動させる。
噛みついているユキネの手から魔法で紡がれた糸がカインに巻き付く。
「お、できるものだな……あ」
カインの自由が奪われて行くことはいい事なのだが。
「おい、ユキネ、おい、俺も一緒に巻き付いて……うぷっ!」
俺の身体も魔法の糸でカインと一緒にがんじがらめになっていき、俺の顔がカインの胸に押しつけられる。
「く、くるし……」
噛みつくことに集中しているのだろうが、手加減ができないのか。
俺は思ったよりもふくよかなカインの胸に顔をうずめる格好になっている。
「ふがふが……」
カインが身体を反らそうと動く度に、俺の顔へ胸が押しつけられてなんとも奇妙な気持ちになる。
怪我人を前にしてこんな時になんだが、早く終わって欲しい自分と、こういうのも悪くないと思う自分がいて、心の中で戦いが始まっていた。