突き刺さる棘
ピカトリスたちの映像に乱れが生じる。
「さてとあたしらの目的はほぼ達成したのでね、そろそろ失礼させてもらうわねん」
ピカトリスは俺に向かってウインクを飛ばす。
「ごちそうさま、ゼロ君っ!」
それだけ言い捨ててピカトリスとアリアの形代の姿がかき消えた。
「本当に遠隔投影だったのか。くっ、やりやがったなピカトリスの野郎!」
俺は魔力消費以上に疲労した気分になる。
「ゼロ、でも一応撃退したって事でいいんだよね」
「ああ。まあそういう事にはなるな」
くたびれた俺はそのばで適当な瓦礫の上に座り込む。
ルシルも同じようにその場でへたり込んでしまった。
「おい勇者さんよ!」
町の兵士たちが怪我をかばいながら俺たちの所へ集まってくる。
「なんだもう面倒事はやめてもらえないか。俺は疲れてそれどころじゃないんだ」
兵士たちは俺とルシルを囲んで立つ。そこをかき分けるようにしてユキネが大きな胸を揺らしながら入ってきた。
「ゼロさん、あんたやっぱりあの錬金術師の仲間だったんだね」
「さっきも言ったがかなり昔にな。今はもう仲間でも何でもないのはさっきの戦いを見て判っただろう」
「そう、かもしれないわね。でも私たちはあの錬金術師を許せない。そんなあんたたちも……」
「別に構わんさ。ただ少し休ませてくれ、そうしたら町から出て行く」
「あんたらが来なかったらこの町の被害も……」
辺りはフレッシュゴーレムが荒らしまくった結果、かなりの家が損壊し倒壊し崩壊した。
「俺たちの責任じゃない、と言いたいがな」
「……」
ユキネたちから言葉が出ない。
「なんなのよこの女、ゼロがいなかったら撃退できなかったじゃない! それをゼロのせいにして追い出そうというの!? いいよゼロ行こう、もう私むかっ腹が豪炎の爆撃よ!」
「おいおい物騒な事を言うなよルシル。まあいいさ、ピカトリスの野郎のやろうとしている事はなんとなく見えてきた。それにあれは俺たちの目的にも近いかもしれない」
俺は立ち上がると衣服に付いた埃を払う。
「目標が見えた。やはりピカトリスを追う事が次の仕事だな」
そうだ。俺はルシルの魔王としての魂を封じ込めた、その器のアリアを元の身体に戻すための手立てを見つけなくてはならないのだ。
「ピカトリスの隣にいた少女は人造人間なのか、それとも別の何かなのか。あれだけアリアに似ているという事は、何かつながりがあるのかもしれない」
俺は剣を鞘に納めてシルヴィアたちのいる宿へ行こうとする。
「待って!」
ユキネが俺の右腕にしがみつく。その大きな胸の間に俺の腕が挟み込まれる。
「なっ! なんてことすんのよこの牛乳女っ!」
ルシルが俺の左腕をつかんで引っ張った。
「勇者ゼロ、あんたに頼みたい事があるのよ。あの錬金術師から私たちを、町を解放してほしいの!」
ユキネが潤んだ目つきで俺を見る。ユキネは感情を失っていないゾンビ、こいつらの言う喰らう者という奴だが、こんな芸当もできるのか。
ユキネの胸が押しつけられる。その柔らかさに心を奪われそうに……いやいや、ここは冷静になれ、俺。
「俺たちは目的があってここに立ち寄っただけだ。お前たちのために何かをしてやるつもりはない。今、俺が囮になったのも知識や情報が得られるかもしれないと思ったからやったまでだ。知っている奴が死んだら困るからな。だがピカトリスが次の目標となれば別にここにこだわる……」
「では、お連れのあの猫耳娘は」
「なんだカインがどうした」
「あの娘は感染しているわ」
俺の心に棘が刺さる。