新しい器と封じ込める力
飛んでいる虫か何かを両手で叩く動作。
フレッシュゴーレムの両手が俺にした動きだ。
「ゼロ!」
辺りに広がる手を打ち鳴らした音。大きく響くその音以外に全ての音が消えたかのように思えた。
俺はフレッシュゴーレムの両手の中、音と空気の圧力で耳鳴りがしている。
「ったく、びっくりするじゃないか。氷塊の槍」
俺の目の前につららのような氷の槍が出現し、フレッシュゴーレムの両手を押し広げた。
「なんて顔をしているんだよ、ルシル」
ルシルの心配そうな表情が一気に解ける。
「驚かせたか?」
「するわけないじゃない」
俺は手にした青白く光る覚醒剣グラディエイトを握り直し、自分の前で回転させるようにして振り回す。
「螺旋天回斬!」
細切れになったフレッシュゴーレムの両手が宙に舞う。腐りかけた肉の臭いが辺りに散らばっていく。
「これでとどめだ」
俺は逆手に持ち直した剣をフレッシュゴーレムの胸に力一杯突き刺す。
そのまま深く剣を沈めていき、剣に魔力をさらに注ぎ込む。
「おおおおおっ!」
俺の気合いが光となってフレッシュゴーレムの身体の中を駆け巡る。
ゴーレムの至る所から魔法の光が漏れ出し、その光の筋が徐々に大きくなっていった。
そしていくつかの光が合わさり、またつながって、大きな光の塊になっていく。
「浄化してやる。消えてなくなってしまえ」
最後の一突きをすると、フレッシュゴーレムはその肉体を全て光の粒に変えて消えた。
「さてと」
地面に降りた俺が立ち上がると、ゆっくりピカトリスの方に振り向く。
「召喚した悪霊もいなくなりゾンビも浄化して消し飛ばした。次は何を持ってくるというのだピカトリス」
「ふっふっふっ、このくらいでどうにかなったと思われては困るのよねゼロ君。あんたが放出してくれた膨大な魔力、ただアンデッドを消滅させるだけに使われたと思った?」
手をあごに当てて不敵な笑みを浮かべる。
いつの間にかピカトリスの脇にルシルの姿が見えた。
「いや、その子はルシルではないな」
振り向けばいつものルシルがいて、ピカトリスの隣に現れた少女の事を凝視している。
「ご明察ぅ! ゼロ君。この子はアリアちゃんの形代、新しい器なのよ!」
「なんだと!」
俺はピカトリスへ駆け寄る。
「無駄よ、無駄無駄」
初めは何が無駄なのかが判らなかったが、ピカトリスの事をつかもうとした俺の手が空を切った事で理解ができた。
「遠隔投影……か」
「はーっはっはっは! ご明察、ご明察ぅ! 流石はゼロ君ね! そう、あたしはあんたの所にはいない、この姿はあんたから見て遠隔地からの映像投影なのよ。そしてこの子も同じ遠隔投影。そこにはいないわ。霊的な存在だけ飛ばしている、そんな感じかしらね」
「霊的な……だからゾンビの誘導や悪霊の召喚はできたということか」
物理的な攻撃は仕掛けてこなかった理由はそこだった訳だ。
「でも、ゼロ君たちの魔力はおいしくいただいちゃったわよ。あたしの霊体を通してね」
映像だけの姿のピカトリスが同じく映像だけのアリアの形代の頭をなでると、形代に魔力が注がれていく。
俺の放出した魔力だ。
「くっ……」
アリアの形代の瞳に光が宿る。