覚醒剣グラディエイト
俺は手にしている剣が光っている現実を見つめる。
「こ、これは……」
錬金術師のピカトリスが感嘆の声を上げた。
「あんらぁ、魔力の物質伝達! あたしすんごいの見ちゃった!」
ピカトリスは外套を跳ね除けて上半身をあらわにすると、召喚の印を結び始めた。
「なら、これはどう!? 連続でいくわよ、悪霊召喚!」
ピカトリスの近くの空間からいくつもの魔法の渦ができ、そこから悪霊たちが大量に出てきた。
「ゼロっ! ただでさえ苦手なオバケなのに、それがあんなに……」
ルシルの嘆く声。だが俺は……。
「そそそそんなことはない! 怖いとか苦手とか、そんな事は俺の気の持ちようだ!」
震える声で気合いを入れる。剣を握る手に力が入って、そこから温かい何かが流れていく感じがした。
近くに寄ってくる霊体に光る剣を当ててみる。
霊体は簡単に弾けて飛んだ。
「おっほ、やるわねゼロ君!」
「一撃で……」
これは、行けるのか。
俺の中で不安が可能性に変わっていく。
「そりゃっ、せいっ!」
振り回す聖剣グラディエイト。その一回の攻撃で当たった霊体は破裂して霧散する。
そう、当たるのだ。攻撃が。
今まで俺の攻撃を素通りして、魔力や精神力を奪われ続けていたものとは違ってだ。
「凄い……ゼロ」
ルシルが期待を込めた目で俺を見る。
「聖剣グラディエイトが魔力を帯びて魔法の剣になったということか。魔法の剣であれば霊体でも攻撃できる……覚醒剣グラディエイトだ!」
俺は次々と襲い来る悪霊を消滅させていく。
「それでも物質伝達は大量の魔力を消費するのよ、これがいつまでもつかしらね」
ピカトリスは地声が低い女言葉で俺を挑発する。
「それはお前も同じだろうピカトリス。お前だっていつまでも召喚し続けたりはできないだろう?」
「うっふぅん言うわねゼロ君。でもまだまだよ、あたしの召喚術はこんなもんじゃないって事、ゼロ君も知っているわよねん」
ピカトリスが大袈裟に手を振って巨大な魔方陣を空中に描き出す。
ルシルがその魔方陣を見て不安そうな声を上げた。
「ゴーレムの印……でも少し違う? それにあの大きさ。ゼロ、あいつ巨大なゴーレムを生成しようとしているよ!」
「巨大なゴーレムだと!? ゴーレムってそんな簡単に……」
「召喚術に錬金術、そして死霊魔術を操るのあたしにとってはゴーレムなんて初歩の初歩よ!」
「だが素材は、土のクレイゴーレムくらいしか……まさか」
ピカトリスが不気味な笑みを見せる。
「ご明察ぅ! あたしの後ろにいる家畜たち、それがゴーレムの素材になるのよ! さあお前たち、死した身体を新たな命で動けるようになった者たちよ、寄り集まりて一つとならん! 素材合成、超巨大フレッシュゴーレムの誕生よ!」
ピカトリスが率いてきたゾンビの群れを魔方陣が吸収していき再生成を始める。
魔方陣が砕けて散ったその光の中から、家よりも大きいゴーレムが姿を現した。ゾンビの肉体で成形されたフレッシュゴーレムが俺たちの前に立ちはだかる。
「ふっ」
「ゼロ君、何が可笑しいのよ」
ピカトリスは俺が鼻で笑った事に苛立ちを覚えたようだ。
「それはだな……」
俺は覚醒剣グラディエイトを構え直すと、目標をフレッシュゴーレムへと向けた。