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馬鹿なトラウマ

 俺がピカトリスの呼び出した悪霊を前にして固まってしまった事をルシルは気付いてしまった。


「ゼロってもしかして、オバケが怖いの?」


 雷に打たれたような衝撃が俺の前身を駆け巡る。


「な、そんなわ、訳ないだろ……ひゃっ!」


 俺の身体を悪霊が通り過ぎていった。

 膝が笑う。まともに立っていられない。


「ぜ、全然怖くなんかない、んだからなっ!」


 歯の根が合わないとはこの事か。しゃべりながらも自分が何を言っているのか理解できていない。


「ゼロ……そんなに無理しなくても」

「い、いや俺は勇者だ! 自分を奮い立たせてでも戦ってやる!」

「口に出しちゃってるよ、もう」


 俺が剣を構えているその間にも何回か悪霊が俺を通過する。

 その度に身体がだるくなり、冷や汗が出てきた。


「あっはっはっは! ゼロ君も思った通り、基本は戦士なのよね。だから悪霊とかには弱かったりするのよ」

「なん、だと!」

「だってぇ、悪霊は剣じゃ斬れないでしょぅ? あーっはっはっは! 可笑しいわ、可笑しすぎて内臓がよじれそうよ!」


 あの嫌味な奴は勝手に笑わせておけばいい。

 俺は剣を振って悪霊に立ち向かう。


「そこだっ!」


 俺の剣は悪霊に当てたと思ってもその身体を通り抜けてしまった。


「無駄よ、無駄無駄! 剣じゃあ斬れないわよお馬鹿さんっ!」


 笑いながらピカトリスが悪霊を操る。


「くっ、どうしたら……」

「ねえゼロ」

「なんだ今忙しいんだ、見て判るだろ」

「そうなんだけどさ……もしかしてゼロがオバケ怖いのって、あの事かな」


 なんだ意味深な事を言って。


「暑い日の夜、お墓で聞いた幽霊の足音……」

「ふぁっ!」


 あれはまだおれが子供の頃だった。妹のアリアと一緒に森へ木の実を取りに出かけて道に迷ってしまい、夜になってしまった時だ。

 迷い出た先に一つの墓石があった。

 その時、墓石の周りで歩くような音が聞こえたんだ。


「あ、あれは……」

「あのねゼロ、あれって」

「いや、聞きたくない! ぜーったい聞きたくない!」


 ルシルが俺の肩をつかんで振り向かせ、俺の目をのぞき込む。


「あれ、幽霊の足音でも何でもないの」

「んなっ!」

「あれはね、兄ちゃんを驚かせようとして投げた石の音。アリアのいたずらだったの!」


 長年知らなかった事実。実際に幽霊が存在しているのだと思い込んでいた俺のトラウマは、その時一緒にいた妹のアリアが冗談でやった事なのか。


「そそそ、そうだよな、幽霊なんて足音を立てる事なんてできないよな、そもそもそんなのいないんだし……」


 震える声で俺は自分に言い聞かせる。


「うん、アリアが教えてくれた。それと」


 ルシルは俺の耳元でささやく。


「今まで黙っていてごめんなさい」


 それだけ言うと距離を置いた。


「だってさ!」


 俺の背中を力一杯叩く。これで俺の目が覚める……。


「わけねえだろ! 怖いもんは怖いんだよーっ!」


 俺は無意識に目を閉じて剣を振り回す。


「うわっ危なっ!」

「ちょっとやたらめったら振り回さないでよ!」


 そんな事を言われてもどうしようもない。俺は目をつむって真っ暗闇の中で剣を振る。


「あ……ゼロ」


 ルシルの驚いたような声と同時に風船の割れるような音が聞こえて手元に衝撃が来た。


「えっ……」


 悪霊が飛んでいる気配が無くなったとでもいうのか、攻撃を受けた時の脱力感や疲労が増えなくなった。

 恐る恐る目を細く開け、徐々に周囲を認識できるようにすると、俺の目に映ったのは悪霊の薄ぼんやりした光ではなく。


「剣が、聖剣グラディエイトが光っている……!」

【後書きコーナー】

 トラウマって、虎と馬ってことじゃないのですよね。

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