再会したら再開した
ユキネが眉間にしわを寄せる。
「近い、近いよ……」
ユキネの警戒した声を聴いて俺にも緊張が走った。俺たちはユキネの後を追って研究所から出る。
「あらあらあら!」
通りの遠くから声がした。
「なんだか懐かしい顔があるじゃない」
妖しく歪んだ声。裏声のように甲高く、それでいて嫌味のある毒を含んだ声。
「ピカトリス……」
「ゼロ君、お久しぶりぃ」
通りから歩いてくる人影。細身のスパッツに外套を羽織った姿。はためく外套の内側は素肌の上半身だ。
「相変わらずの格好だな、人革の魔導書を持つ錬金術師」
「もう、その通り名はやめてって言ってるじゃなぁい。ゼロ君の意、地、悪」
俺の背筋に冷たい物が走る。
「いい加減その口調をやめたらどうだ」
細身だがそれなりに締まった身体をしていて顔立ちも悪くはない。
だが性格はとんでもなく悪いが。
「そんな事どうでもいいじゃない。あたしの牧場に凄い魔力があるって思って来てみたら、まさかゼロ君がいるなんてねぇ。意外、心外、予想外よ!」
ピカトリスがゆっくりと俺たちに近付く。後ろには大量のゾンビが付いてきていた。
「まだあんなにいたなんて……」
「これじゃあ倒してもきりがない訳だ」
俺もユキネもかなりの数のゾンビを倒したと思っていたのだが、これだけの数を見るとまだいたのかとげんなりする。
「それでぇ、ただの兵士だったゼロ君がどうしてそんなに魔力を持っているのかしらぁ? それに隣のちんくしゃのおチビちゃん」
「なに、え、私の事!?」
「そうよ、幼児体型のおチビちゃん。ゼロ君についてまわって一緒にいて、娘さん気取りかしら? あーでもゼロ君じゃあお嫁さんなんかできないわよね~。戦災孤児でも拾ったのかしら」
ピカトリスが早口でしゃべるから俺たちが割り込む隙もない。
「夜のお供として、ね」
ピカトリスが両手で顔を覆って恥ずかしそうな仕草を見せた。
ルシルの顔が一気に赤くなる。
「くっ……」
「あんたもかなり魔力を持って、ううん、隠し持っているといった方が正しいかしらん」
「ゼロ!」
「な、なんだよ」
あまりのルシルの怒気に俺も一瞬たじろいでしまう。
「あいつ嫌い! 私に殺させて!」
「いつになく熱くなっているな。少しは落ち着け」
「だって!」
俺はルシルを後ろから抱きしめる。
「はにゃっ! ふにゃ……」
「どうだ、少し落ち着いたか」
「……うぅ、なんかいいようにあしらわれている感じ……」
「そう言うなよ」
俺はルシルの頭をなでてなだめるとルシルの前に出る。
「それで、お前はどうしたいんだピカトリス」
「んもぅ、決まってるじゃない。ゼロ君、君のその魔力、ちゅうちゅうさせてちょうだい!」
ピカトリスは外套の裏に隠していた本を取り出すとページを高速でめくり始めた。
「おいでなさい、悪霊召喚!」
魔導書から繰り出される半透明の塊。動物のようであり人のようであるその姿は様々な形と色に変わって辺りを漂う。
「さあ深遠のその奥底に住まう悪霊よ、あの子の魔力を生命力ごと奪い尽くしてあげちゃいなさい!」
悪霊がピカトリスの命令通り俺へ向かってくる。
「これは……」
冷や汗と武者震い。久しく味わっていなかった感覚だ。
「もしかしてゼロ……」
ルシルは気付いたかもしれない。俺の秘密を……。