大規模襲撃
研究所から町の門まではそれほど距離がない。エイブモズの町はそれ程大きくもないだけにどの方向もすぐ町の柵に行ける。
「南門が破られそうです!」
「西門もどんどん増えてきています!」
各方面から伝令が入る。研究所はこの町の中心施設だけあって、急ごしらえだが対策本部が設置されていた。
隊長らしき兵士が町の地図を広げた机に手を置いて他の兵士たちに指示している。
「ユキネ、手伝ってくれ! 指示する者が足りん!」
「判ったわ隊長」
ユキネもすぐに司令部の作業に参加した。
「ねえゼロ、私たちはどうしようか」
「大変そうだが俺たちはシルヴィアたちと合流しよう。ユキネと言ったか、俺たちは一旦出るが何かあったら中央通りにある宿に来てくれ。その宿を使うつもりだからな」
「いいわ、急場を凌いだら錬金術の話の続きをしましょう!」
俺とルシルは研究所を出る。
いろいろあったせいか、外は段々と暗くなってきていた。
「外は大騒ぎだな」
「襲撃には慣れていないのかもね」
「だろうな」
町の人たちは慌てふためいて家に帰ろうとしている。
中央通りといっても店を閉めていたり鎧戸を下ろしている家も多い。
「南門って、私たちが入ってきた所じゃない?」
「そうだな、そこが一番多いらしいな。とにかくシルヴィアたちと合流しよう」
「うん!」
俺たちは中央通りの宿屋を目指す。
大騒ぎとなっている町の人たちをかき分けてどうにか目指す宿まで到着できた。
「ゼロさん! ルシルちゃん!」
「シルヴィア、無事だったか」
「商会に手続きをして宿に来たら警報が鳴って……。宿の人からは外に出るなと言われたのですが」
「そうか。カインはどうした」
俺はシルヴィアだけが宿の前で待っていた事に違和感を覚えた。
「それが、カインは急に熱を出して……」
「宿で寝ているのか」
「はい」
ひとまず合流はできたという事だから俺たちもカインが休んでいる部屋に行こうとした。
部屋は二階という事で階段を上りながらシルヴィアに問いかける。
「カインは奴ら、動く死体に噛まれてはいないか?」
「ええ、追い払う時に少し。それが……あ」
「ああ、あの時話した事が俺の想像ではなく本当だったら……」
シルヴィアが口を押さえる。
「もしかして……」
「カインがゾンビに感染している可能性がある」
「そんな……」
シルヴィアから大粒の涙がこぼれた。
「そうだとしても何か方法があるはずだ」
俺はカインが休んでいる部屋の扉を開ける。
カインはまだ月の光を見ていないのだろう。男の子の姿のままでベッドに寝ていた。
「あ、ゼロ様……」
青白い顔で俺たちを見るカイン。その白い顔の中にあって落ちくぼんで隈ができた目が病的に光って見えた。
「どうしたのです、外が騒がしい……」
「いいのですよカイン、休んでいなさい。旅の疲れが出たのでしょう。今はゆっくり……」
あの様子は、やはり。
「ゼロ、カインは……」
シルヴィアたちには聞こえないくらい小さな声でルシルが話しかける。
「ここの錬金術師では対処できないだろう」
「どうして……」
「それができていたのなら、ゾンビがあれだけの数放置されたりはしていないからな」