7)始めてのコンクール
今日の投稿、一つ目です。
また本日中に、二つ目の投稿を(午後8時に)する予定です。
よろしければお読みください。
6年の月日が流れました。
「お、お父様・・」
「どうした? カリン」
お父様がにっこり頬笑んで私の肩に手を置きました。
「わ・・私、緊張して、歩けません・・」
今日は、ピアノのコンクールです。
ユイナ妃音楽コンクールの本選なのです。
発表会は、毎年、出させてもらっているけれど、コンクールとなると、雰囲気が違います。
私の番はもうあと2人目まで迫っています。
今にも倒れそうに緊張している私は、家族に側に居てもらってました。膝の震えが止まらないのです。
「あぁ。やっぱり、私、コンクールなんて・・ムリ・・」
涙目でぶつぶつ言っていると、傍らで私の肩を抱いていたお父様が、
「あんなに練習したのだから、ムリじゃないよ。
上手に弾けていただろう?
自信を持って、カリン」
優しいお父様の言葉に、少し、震えが落ち着きました。
ええ、たしかに、私は、昼夜を問わず練習しました。
夜、ベッドの中でも、曲を思い浮かべ、指を動かし、自分がうまく弾いている姿をイメージトレーニングしたりもしたのです。
「そうだよ、カリン。頑張ったのだから、その成果を見せるだけでいいんだ。
楽しんでおいで」
一番上のお兄様、ハルト兄様が言いました。
ピアノを弾くのは、いつも楽しいです。
思うように弾けずに悩むことすら、楽しいのです。
でも、コンクールとなると、また違うような気がするのですが・・。それでも、鍵盤を叩ける、というのは、楽しいことです。
「俺も、強敵相手の剣術の試合前には緊張したりするけど、『あんなに訓練したんだ。当たって砕けろ!』という根性で試合に臨んでる。
カリンも、そんな心意気で臨め!」
2番目のお兄様、カイトお兄様のありがたいお言葉。
カイトお兄様に元気をもらいました。
「わ、判りました、お父様、兄様たち。成果を見せるように、当たって砕けろという気持ちで弾いてきます」
それにしても、こんなに緊張してしまうなんて・・情けない。
だって、観客の数が、発表会のときの5倍くらいも居るんだもの。
コンクールの予選の会場は、もっとこじんまりしていたので、あまり緊張せずにすんだのに。
私は、この6年間、熱心にピアノの練習に励んできました。
才能があるかないかは、判らないけれど。たぶん、さほどない、と思います。
音楽的素養は、人並みでしょう。
今は亡きお母様は、竪琴が好きで、歌も上手で、きれいな声で歌ったそうですが。
ピアノを習い始めたとき、私の腕前は、ごく普通、としか言いようがないものでした。
でも、私は、なにしろ、熱心でした。
憧れのピアノを子供のころから習えるのですから。
毎日、毎日、何時間、弾いていても飽きないくらい夢中になったのです。
そんな風に弾きまくっていれば、上手にもなります。
おかげで、師匠に、「コンクールに出ましょう」と言われてしまった。
褒められれば、浮かれもします。
すっかり舞い上がって、「出ます」と答えたのが間違いでした。
――う~~緊張する。
とうとう、私の出番になりました。
震える足に思い切り力を込めて舞台を歩き、ピアノの前に座りました。
深呼吸をひとつ。
課題曲は、きれいなワルツ。
なめらかで、切ない旋律。
愛しいひとに愛をささやくようなメロディを指で表現するのです。
恋愛なんて。前世の私は、とうとう、片思いしかできなかったけれど。
あの片思いの彼。もう、顔も思い出せない遠いひとですが、ピアノの上手だった青年を想いながら弾きました。
2曲目の自由曲は、昔から伝わる童歌を師匠がアレンジしたもの。
なんとか、間違わずに弾けました。
――あーよかった・・。




