50)襲撃
本日の1話目の投稿です。
今日も2話、投稿いたします。
2日後に、私は再び、ギルモア王国に向けて発ちました。
公演は2ヶ月後。打ち合わせをし、練習のスケジュールを組まなければなりません。
私が返答を延ばしていたことで、それでなくとも迷惑をかけています。
気合いを入れて挽回しなければ。
ギルモア王国への道は、整備されています。
行き来する商人も、旅行者も、数が多いです。
途中の宿場も、安い宿から高級宿まで、豊富にあります。
アノスの王都からギルモアまで、危険な道は、ほとんど無いです。
せいぜい、街と街の間にある森で、まれに盗賊が出るくらいでしょうか。
ギルモアにほど近いサヤマの森が、唯一の難所です。
それも、明るいうちに森の道を通り抜けるように旅程をくめば防げるものです。
日のあるうちは、ギルモアまでの道は、それぞれの領主たちが、治安維持に努めてくれています。
途中、馬車の調子が悪くなり、修理に時間がかかりましたが、日暮れぎりぎりの時刻にサヤマの森を抜けられそうです。
私は久しぶりにソラに会えることを想いながら、馬車に揺られていました。
・・なにか聞こえてきました。
馬のいななく声。
馬車が揺れます。
始まったのだわ、と私は座席にしがみつきながら思いました。
彼女は、そんなにも愚かだったのですね。
それほど、ソラに恋い焦がれていたのですか。
愛し方を間違い続けてきた、その償いを、あなたはしなければなりません。
あなたは、周りを巻き込み過ぎたのです。
明くる日。
ギルモアのスズナ叔母様の邸で、私は、ソラの隣に座らされています。
ソラは、ずっと心配していたらしく、横顔がやつれています。
「ソラは、ろくに食事をしていなかったのよ」
とスズナ叔母様。
・・申し訳なく思います。
このたびの計画は、ジュンヤさんが、コンクール会場で私を脅迫したときから始まっていました。・・いえ、もっと言えば、レミさんが、シオン殿下に魅了の魔法を使おうとした時点から、始まっていたのかもしれませんが。その時点では、まだ、どのような決着を付けるか、アノス王国では決まっていませんでした。
レミさんの不幸は、落ちぶれた準男爵の娘として産まれ、市井で育ったために、貴族の常識を知らなかったことでしょうか。
父親の死後、母親が、別の男爵家の後家として再婚し、レミさんは魔法の才能のおかげで、王立学園に入学。
その後、ジュンヤさんの紹介で、高位貴族と繋がりを持っていきます。
しかしながら、王族に魅了の魔法を使うことは、極刑に値する不敬罪であることを、彼女は知らなかったようです。
王族は、みな、精神操作系魔法を防御する魔導具くらい、備えています。
とくに、王位継承権を持つ王族なら、誰が魔法を放ったか、詳らかにし、記録する機能を持った魔導具を装備しています。
2年ほど前に、レミさんが、シオン王子に魅了魔法を使った時点で、レミさんは、危険人物とみなされていました。
そのとき、レミさんは、14歳でした。
レミさんは、すでに、聖女の片鱗を見せ始めていましたが、本当に聖女か否か、見極めることになりました。
同時に、聖女といつも一緒に行動し、シオン殿下との繋がりを取り持ったジュンヤさんも、監視対象になっていたそうです。
2年後、レミさんが聖女であることが確定。
密かに、キースレア帝国から、聖女を招待することができるか、打診されます。
キースレア帝国では、以前から、聖女が現れたら、荒れ地を癒やして欲しい、という民の声が出ていたそうです。
ですが、これは、キースレア帝国からの正式な打診ではなく、キースレア帝国内の、聖女を招待したいと希望する領主らからの打診でした。
キースレア帝国の現皇帝は、先代の好戦的な皇帝と比べて、温和な人間と思われています。
それでも、キースレア国内に、侵略を好む軍人や武器商人が数多居ることは間違いなく、アノス王国としては、使える駒はなんでも使い、平和条約を確固としたものにしたい。
アノス王国は、問題のある聖女を、しばらく見守ることにしました。
その後、高位貴族である宰相の公爵子息アヤト様に、レミさんは、魅了の魔法を用いました。
アヤト様は、防御の魔導具を持っていなかったため、一時期、レミさんに魅了されてしまったようですが、気がついたシオン殿下により、すぐに公爵に報され、解除されます。
レミさんは、「キースレア帝国の件が片付いたら、蟄居させる」ことが決定しました。
あとは、ジュンヤさんです。
常に聖女とともに居たジュンヤさんは、この件にどう関わっているのか、調べる必要がありました。
シオン殿下とコウキ様、それに、アヤト様は、聖女の魅了魔法に学生たちが被害に遭わないよう、また、ジュンヤさんを調べるために、レミさんと行動を共にするようにしていました。
レミさんたちは、ソラに付きまとっていましたが、ソラは、父親のトキワ公爵が聖女との婚約を画策する以前は、あからさまに聖女を避けていたため、シオン殿下は調査の協力を求めなかったようです。
キースレア帝国の方針が判らないまま、日が過ぎました。
聖女が活発に動きだしたのは、ソラが、コンクール出場のため、ギルモア王国に発ったあとです。
ソラは、お母様の協力を得て、コンクールの2ヶ月前に、ギルモア王国に向かいました。
レミさんとジュンヤさんは、これに危機感を持ちました。
魅了の魔法は、一定期間ごとにかけ直しませんと、解けてしまうからです。
レミさんの魅了魔法が、かけ直しをしない場合、どれくらい保つのかは不明でした。
かなり強い魔法であることは判っていました。
レミさんとジュンヤさんのふたりは、ギルモアまで、ソラに会いに来ました。
公爵から連れ戻すよう、依頼されたと言っていましたが、主たる目的はソラに魅了魔法のかけ直しをするためでしょう。
そしてジュンヤさんは、コンクール会場で、私に対して殺害予告のような暴言を述べます。
その場には、キリアン殿下が配置してくださった、キースレア帝国の影が居ました。
影は、キリアン殿下に、なにがあったか報告しました。
同時に、そのときの私たちの会話も、残らず、記録されていたそうです。
キリアン殿下は、アノスの王族とはお付き合いがあり、シオン殿下もご存じでした。
シオン殿下が聖女を調べていることも、ネストル様を通じて知っていました。
キリアン殿下は、「友人が、殺害予告を受けた」ことを、シオン殿下に伝えました。
シオン殿下から報告を受けたアノス王国側は、喜んだ・・そうです。
これに関しては、思うところもありますが、まぁ、仕方ありません。
ジュンヤさんは、もはや、アノス王国では、「聖女の力を利用する危険人物」と見なされつつありました。
しかし、疑わしいとしても、証拠が足りませんでした。
見極められないまま、逃がしてありました。
そこへ、ジュンヤさんに、聖女の力を悪用する動機が生じました。
もちろん、動機があっても、実際に犯罪に手を染めなければ問題ありません。
ジュンヤさんが、危険人物でなければ良かったのです。
ですが、実際は、襲撃事件が起きてしまいました。
賊は、複数居ました。
馬車を壊し、修理が必要な状態にして、出発を遅らせた者。
それに、襲撃を実行した集団。
襲撃犯は、6人でした。
襲撃が予想されていたので、王宮から騎士団が密かに着いていたとも知らず、計画は実行されました。
襲撃犯は、騎士団の圧倒的な武力差により、速やかに鎮圧され、捕縛されました。
私たちにとって衝撃だったのは、6人の襲撃犯のうち、ふたりが腕の立つ傭兵で、このふたりは、明らかに、魅了魔法によって操られていたことでした。
また午後8時に投稿いたします。
よろしくお願いいたします。




