48)話しの通じないふたり・・と殺害予告
本日、1話目の投稿です。
今日も2話、投稿いたします。
「ソラ様ぁ、ご一緒に帰りましょう、ね」
レミさんがソラにしがみついて言います。
「何度も言いましたように、私は帰らないです。聖女殿。
ギルモアでリサイタルをするチャンスがあるのに、捨てるわけにはいきませんから」
「ソラ様は、キースレアでリサイタルが出来ますのよぉ」
とレミ様。
うーん、どんなリサイタルでしょうね?
聖女様とのリサイタルでしたら、没になりそうなんですけど。
ジュンヤさんは、私の腕を掴んだまま、
「カリン。
もう、ソラには近づくなよ・・、というより、近づけさせない。
公爵が、おまえを排除するために、動いているからな」
と告げました。
「そうですか・・」
私は、思わずため息をつきました。
トキワ公爵は、政財界に顔がききます。
以前よりもその力は落ちていますが、腐っても公爵です。
先代公爵のころ、ソラのお母様のご実家、キサラギ侯爵家と協力して事業を興し、成功したのです。
現トキワ公爵は、先代よりも先を見る目が無く、勢いが衰えています。
とはいえ、たいした後ろ盾のない我が家を貶めるくらい、簡単にできるでしょう。
公爵家ともなれば、裏の力を使うのはお手の物です。
ジュンヤさんは、
「表を歩けなくしてやる」
と私に凄みました。
「ジュンヤ、カリンとカリンの家になにかあったら、おまえを一生、許さない。
父上もだ」
とソラ。
「ソラ、判って言ってるのか?
公爵は、おまえの実の父親なんだぞ。
おまえは、なんの力もない、ただの息子だ。
爵位もない、父親の指先ひとつで、いつでも平民に落とされる。
逆らえるわけないだろう。
コンクールのひとつやふたつで賞をもらったくらいでいい気になるなよ。
おまえには、なにも決める権利はないんだ。
将来を決める権利もないし、付き合う相手を選ぶ権利もない」
ジュンヤさんは、本心から、そう信じているのでしょう。
彼女は、横暴な祖父のために、自らの性別でさえ、選ぶことが許されなかった。
ジュンヤさんの見るもの、感じるもの、信じるもの、すべてが歪んでしまったのは、生い立ちのせいかもしれません。
でも、ソラには、なんの関係もないことです。
「まぁ、ジュンヤったら、言い過ぎよ。
ちゃんと、ソラ様に選ばせてあげましょうよ。
私を選ぶか、ジュンヤを選ぶか・・。
ね、ソラ様っ!」
レミさんが、ソラの腕にしがみついたまま、ご機嫌で言いました。
・・この方は、本当に、ひとを脱力させるのが上手いです。
ソラがうなだれてしまいました。
「レミ、約束を忘れたのかっ」
ジュンヤさんが怒りの声をレミさんにぶつけます。
レミさんは、「あらぁ、だってぇ」と、無邪気に笑い、
「約束では、すべての計画が上手くいったら、でしょ?
今、計画の途中だもの」
と朗らかに言いました。
「だからなんだ!」
とジュンヤさん。
・・仲間割れですか・・。
ソラは、そっと私の腕を取り、ジュンヤさんたちから引き離しました。
キリアン殿下たちは無事、逃げられましたから、あとは、私たちが退場するだけです。
私たちが逃げようとしているのを見つけ、
「どこに逃げようとしている!」
ジュンヤさんがソラに手を伸ばしました。
ソラがその手を払いますと、ジュンヤさんは、すがるような顔をソラに向けます。
「まさか、そんな女を選んだわけじゃないだろう?
その女は、おまえにも、公爵家にも、ふさわしくない。
なんら能力ももたず、役立たずだ。
たいして美しくもない。
選ぶ理由がない」
始めて、弱気の声で問いかけました。
「カリンは、私の婚約者だ。
ふたりで決めたんだ。
カリンは、誰よりも綺麗だし、愛らしい。
美は見る人の目にあり、というのは本当だな。
私の目は、おまえの目とは違う」
とソラ。
「はぁ~~、なにそれ~。
どうしちゃったの? ソラ様。
もしかして、私に焼き餅をやかせたいの~?」
とレミさん。
私とソラは、みたび、脱力しました。
「レミ・・。
ソラは、とっくに、魅了の魔法から抜け出ていたんだよ・・」
とジュンヤさん。
「え~・・じゃぁ、ソラ様は、本気で私のことを好きなの?
魅了ナシで?」
レミさんが、嬉しそうに言います。
「私が愛しているのは、今も昔も、カリンだけだ・・」
ソラが、なんとか気力を振り絞り言いました。
ジュンヤさんは、能面のような顔で、私とソラを眺めています。
「フフ。
判った。
その女は、死刑が確定だ」
とジュンヤさん。
ぞわり、と背筋を悪寒が走ります。
「バカなことを・・」
ソラが私の肩を抱く手に力を込めます。
「ソラ。
そのうち判る。
ただの死に方だと思うなよ、あばずれ。
必ず、惨たらしい死に方で、殺してやる。
ソラが、死体を見るのもはばかるような殺し方をしてやる」
私とソラが呆然としていると、
「もぉ~。
ジュンヤったら、そういうのは、私とふたりきりのときだけにしないと、マズイって言ったでしょ?」
聖女の脳天気な声が廊下に響きます。
私は、動くことが出来ないでいました。
鑑定能力を持ったことを、始めて後悔しました。
こんなに憎悪にまみれた感情を、始めて目にしました。
ジュンヤさんは、本気でした。
ジュンヤさんの思い描く通りに殺されたとしたら、それは、地獄の火で蒸し焼きにされるよりも惨たらしい死に方でしょう。
ふと何かが揺れていると思いましたら、揺れるほど震えているのは自分の身体でした。
また午後8時に投稿いたします。
よろしくお願いいたします。




