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35)ソラとの別れ

本日の2話目の投稿です。

1話目は、午後6時に投稿済みです。

 数日後。

 カイトお兄様が、「ソラと聖女が、婚約することになったらしいよ」と、私に教えてくれました。


「お兄様、私、もう、耐えられそうにありません。

 ソラは、きっと、もう、私のことは、なんとも思ってないんだわ」

 カイトお兄様は、ただ黙っています。

 カイトお兄様には、サヤ様の誕生日の夜会であったことを話しました。

 お兄様は、「ソラは、カリンが困っているのに知らないフリをしてたのか・・」と、ショックを受けた様子でした。

 自分で自分の身を守れなかった私が悪いんですけどね。


 でも、もしかしたら、ソラは、魅了防御の魔導具を取り上げられて、本当に、レミさんの虜になってしまったのかもしれません。



 その日の夜。

 私が、髪を梳いて寝る支度をしていますと、ドアがノックされました。

 扉を開けると、カイトお兄様が居ました。

「お兄様、どうしたんです?」

「カリンに客だ」

「・・私に?」

「ああ」

 お兄様が脇に避けますと、ソラの姿がありました。

「ソラ・・」

「カリン、話があるんだ」

 ソラの声。どこか不機嫌そうです。

 カイトお兄様が、「ドアの前で待ってる」と言って、私とソラ、ふたりきりにしてくれました。

 ソラは、部屋に入り私の姿を見ると、私の髪やガウンの胸元に視線を泳がせ、一瞬、目のやり場に困っているような顔をしました。

 見慣れない姿だったからでしょう。

 私は癖のある髪を下ろし、薄手のナイトウエア姿ですが、ガウンを羽織っているので大丈夫です。すっぴんですけど、普段もごく薄化粧ですし。

「ソラ、あの・・私に、なにか?」

 私は掠れた声で問いかけました。

 悲しげなソラの顔を見ると、涙が出そうになります。

 彼は、別れの挨拶にでも来たのでしょうか。

 椅子を勧めようと思ったのですが、ソラは、私の腕を掴み、自分のもとに引き寄せました。

「この間、姉上の誕生日のとき。

 私はカリンに近づけないのに、なぜ、あんなに扇情的な装いをしていたんだ?」

 ソラの息は荒く、声が怒っています。

「扇情的?

 酷いわ、ソラ。

 成人していれば、あのくらい、当たり前よ」

「恋人の私が思うように動けないのにか? ハイネックの服にすべきだよ!

 おまけに、あんなに美しく歌って・・」

「上手く歌えてたかしら。

 ありがとう」

「そういう問題じゃない。

 ・・馬車のところで、あのキースレアの皇子と、なにを話してたんだい?」

「え・・?」

「馬車のところまで、カリンに、彼らが着いていっただろう?

 彼は、キリアン皇子だね。

 竪琴の音色で判った」

「ええ。そうです。

 ハヤトさんがしつこかったので、助けてくれて・・」

「私が出て行こうとしたら、彼らが先に声をかけてた」

「ソラ、見てたの?」

「あの自称婚約者が君を追ってたから」

「ありがとう」

「それで? あの皇子は・・」

「私を心配してくれただけですわ。

 大国の皇子様ですもの。

 雲の上の方です」

「そう・・」

 ソラは気遣わしげに私を見ています。

「今日は、どんなお話がありますの?」

「あ、ああ。

 あの聖女が、私と婚約したと言いふらしているものだから、カリンに誤解されたくなかったんだ。

 私は、今度、ギルモア王国の王都で行われるギルモア国際音楽コンクールに出ることが決まった。

 そのまま、もう、国には戻らない」

「ソラ・・」

「音楽留学は、父に認められなかった。

 でも、ギルモア国際音楽コンクールは、世界的にもレベルが高いと称されているコンクールだ。父は、出場を許してくれた。言質はとった。

 明日には家を出る。

 ギルモアで調整したいから早めに出ると言って、無理矢理、予定を決めた。

 実際、あんな家に居たら、思うように練習も出来ないからね。

 カリン、私があの聖女との婚約を免れていたのは、母が協力してくれたからなんだ。

 私が拒絶している間は、無理な婚約をさせるなと、母が言ってね。

 もしも無理強いしたら、離縁するとまで言ってくれてた。

 一番上の姉上は、父によって、蛇蝎のごとく嫌っていた王弟殿下と結婚させられた。

 父は、失敗したんだ。

 王弟殿下は、女と賭け事が趣味な男で、姉と結婚してからも性格は直らず、年々、力を失っていった。

 父の目論見は外れた。

 おかげで、父は、母の実家から罵られ、母に逆らえなくなった。

 でも、今、私が、聖女の魅了に誑かされたフリをしているせいで、母は、婚約に反対しにくくなってる。

 私は、音楽留学をするつもりで、学校を卒業するための単位を、すでに取得してしまった。

 卒業したら、ますます、聖女との婚約を断る理由はなくなる」

「そんな・・」

「だから、家を出てギルモアに行く。

 家には、ジュンヤと聖女が入り浸りで、思うように練習もできない。

 ピアノの前に座れば、あの聖女の伴奏をさせられる。

 彼女の歌は、音楽への冒涜だよ。

 ピアニストとして耐えられない。

 あの家には居られない。

 ギルモア王国に居る叔母の家で、コンクール出場の間、暮らす予定だ。

 叔母は、母方の親類でね。

 父のことを毛嫌いしてて。私が訪問することを楽しみにしてくれてる。

 ギルモア王国のコンクールで良い成績を修めれば、リサイタルを開ける。

 カリンの卒業は、1年後だろう。

 向こうで足場を整えるのに日がかかるだろうから。音楽活動をしながら待ってる。

 1年後には、私も18になるから。結婚の申し込みが出来る。

 ・・でも、その前に、叔母の家に遊びに来てくれたら嬉しいけど」

「ソラに会いに行きます」

「カリン」

 ソラが抱きしめて口づけをしてくれました。

「誰のものにもならないで、待っててくれ」

「はい」

「夜会で君が他の男と踊ったり、あの自称婚約者に触れられてるのを見るのは、本当につらかった」

「私もつらかったです」

「ごめんよ。

 もう少しだから」

「ええ。大丈夫です」


 ソラは、真面目に話してくれたのだけれど、レミさんの歌が「音楽への冒涜」と言ったところで、笑いそうになってしまった。

 ソラの心が変わらないでいてくれて良かったです。


 ふたりで抱き合ったり口づけをしていたら、待ちくたびれたカイトお兄様に、

「まだ手、出すなよ~」と声をかけられてしまいました。

 恥ずかしいです。


 別れ際、ソラが、私のリボンをお守り代わりにほしいと言ったので渡しました。



 明くる日。

 ソラは、2ヶ月後に行われるギルモア国際音楽コンクールに出場するため、計画通り、ギルモア王国に向かいました。

お読みいただきありがとうございました。

また明日、午後6時に投稿いたします。

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