33)お誕生日会その2 聖女の聖歌
今日の2話目の投稿です。
1話目の投稿は、午後6時に投稿済みです。
アレク様とダンスを終えて、サヤ様のそばに戻りますと、なぜかジュンヤさんが待ち構えていました。
ジュンヤさんの隣の男性を見て、私は、うんざりしてしまいました。
シュン・ハヤト様・・もう、ハヤトさんでいいです。
彼、何度も、婚約を申し込んで来てるんですよね・・。
コンクールで賞をいただいてから、私の婚約の申し込みが増えたのです。
その中でも、ハヤトさんは、しつこいです。
ハヤト家は、侯爵家です。
我が家も侯爵家ですが、ハノウ家は、先代領主のお祖父様が、趣味の遺跡の発掘で、たまたま功績を成し陞爵を賜りました。
当時の王様が、運良く遺跡好きだったおかげで、棚ぼた式にもらった陞爵ですから。
言うなれば、我が家は、侯爵の末席の身なのです。
その上、ハヤト家侯爵は、お父様の上司に当たる方です。
要するに、断り難いのです。
お父様は、のらりくらりと「娘は音楽に夢中で、婚約とかは興味ありませんので」と逃げているところです。
そもそも、このシュン・ハヤトさん、見かけだけは優男で悪くありませんが、女癖が悪く、とっかえひっかえ連れ歩く女性を変えている、と評判で、お父様は私との婚約など認めるつもりはありません。
そんなハヤトさんがジュンヤさんの側に居るのですから、嫌な予感しかしません。
「やぁ、カリン。
彼が、君と踊りたいそうだよ。
婚約を申し込まれてるんだろう?」
とジュンヤさん。
余計なお世話です。冗談じゃありません。
「そうなの?」
とアレク様が、ひそかに私に尋ねます。
「ええ、まぁ。でも婚約はあり得ませんわ」
私は、彼に小声で応えました。
「ここで、婚約発表しようか」
とハヤトさん。
「誤解を招く冗談は、お辞めください」
と私。
「冗談じゃないって。
そろそろ、君の父上も良い返事を・・」
「しません」
すると、空気を読めない聖女、レミさんが、
「良い話だわ。
カリン、私、祝福して差し上げますわよ」
と声高らかに言いました。
ホント、うんざりです。
さっきからハヤトさんが、私の肩や腰をなでていて、寒気がします。
「いいね。聖女に祝福してもらおう」
とハヤトさん。
「要りません」
と私。
「レミ、君は、聖歌を歌うんじゃなかったのか」
ソラがにこやかに言いました。
・・もしかして、助けてくれたんでしょうか。
「そうよ、早く歌ってちょうだい」
とサヤ様。
ふたりにせかされて、
「ウフフ。
緊張してしまうわ」
と、レミさんが、ソラとピアノのそばに行きました。
「聖女の聖歌だ・・」
と誰かが言い、さざ波のように静寂が広がりました。
ソラのピアノの伴奏が静かに流れます。
レミさんが声を張り上げて歌い始めました。
『恵み与えるは。
愛し子のため。
癒やし与える。
愛し子の命に。
潤う大地。
草木実り豊かに。
麗しき黒き土。
育み芽生える。
其は命の床なりて』
朗々とレミさんは歌います。
ソラは、その歌にピアノを合わせます・・そうです、『合わせます』。
歌がピアノに合わせるのではなく、ピアノが歌に合わせます。
レミさんの声が高音にずれると、ピアノは、そっと、音を上げます。
レミさんの歌が、伴奏より遅れると、ピアノは、さりげなく、音を遅らせます。
レミさんの歌が、少し、変になりますと、ピアノは、やむなく、音を省きます。
なんともいえず・・歌らしくない歌です。
でも、貴重で珍しい、つまり、耳慣れない歌ですので・・聖歌というものは、どれも、懐かしい味わいを持つものですけど・・とにかく、ほとんどの方にとっては、始めて耳にする歌ですので、さほどおかしくはないかもしれません・・これは、まぁ、ソラのお手柄でしょう。
それに、なにより、彼女の声は、非常に愛らしいものでした。
歌の、ぎこちなさを補ってあまりある、声の魅力です。
魅了のスキルを持つ聖女の歌というものは、やはり、普通の歌とは違う、としか言いようがありません。
私は、歌うのを止めて正解でした。
太刀打ちできません。
私は、ソラに、聖女の聖歌の楽譜を見せてもらい、歌ったことがあります。
でも、レミさんのように――楽譜とはまるで違うように――歌うことは出来ませんでした。レミさんは聖女ですから、きっと・・レミさんの聖歌が、「聖女の聖歌」なのでしょう・・。私にはムリです。
私の歌は、聖女の歌とは、根本的に違います。
それこそ、分野が違うと言いますか・・。
管轄外、あるいは、テリトリーが違うのです。
レミさんが歌い終わると、会場は、拍手で埋め尽くされました。
私も拍手しました。
なるほど、聖女とは、こういう存在なのですね。
・・ただ、一般的な聖歌の感じは、まるでなかったですけど。
お読みいただきありがとうございました。
また明日、午後6時に投稿いたします。




