31)魔導具と、魅了されたフリ
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二ヶ月が過ぎました。
私とソラは、ますます、会えなくなってしまいました。
なんだか、毎日がうつろです。
力が入りません。
どんな歌を歌っても、哀歌になってしまいます。
つらい・・。
「ソラが、とうとう、聖女に籠絡されたって、大評判だぜ」
と、カイトお兄様が苦笑しながら言いました。
「大評判ですか・・」
私は、「はぁ・・」と、陰鬱なため息をついてしまいました。
カイトお兄様は、そんな私を見て苦笑しました。
「本当に、ソラが、聖女に惚れ込んでいるわけじゃないんだから、いいじゃないか」
「それは、そうかもしれませんが」
「『そうかも』じゃなくて、間違いなくそうなんだよ。
信じてやれよ、ソラだって、嫌なのを我慢してるんだからさ」
「はい・・」
2ヶ月前、ハルトお兄様は、私と、カイトお兄様と、ソラ、それぞれに、腕輪型と、ペンダント型の魅了魔法防御の魔導具をくれました。
ハルトお兄様が、言うには、
「あの、聖女の魅了騒ぎのおかげで、魅了魔法防御の魔導具の問い合わせがいくつも来てたんだよ」とのこと。
いくら相手が聖女であっても、魅了の魔法で言いなりになるのは、困りますから。
それで、ハルトお兄様の研究所では、魔導具の備蓄をいくつも用意していたんだそうです。
おかげさまで、ソラとカイトお兄様は目立たない腕輪型、私はペンダント型の魔導具を、すぐにもらえました。
ソラは、あれから、父親の公爵に、魅了魔法を防御する魔導具のペンダントを取り上げられてしまいました。
ですから、ハルトお兄様から魔導具をもらっておいて助かったそうです。
ジュンヤさんとレミさんたち、仕事が早いですね・・。恐るべし。
ゆえに、ソラは、レミさんの魅了には、引っかかっていません。
ソラは、「魔導具がなくても、そんなものには負けたくないな」と言いますが、強い精神系魔法に無理に対抗しようとすると廃人になる場合があると言います。魔導具は必須ですよ。
でも、魅了防御の魔導具を装備していることがバレますと、また、公爵に魔導具を取り上げられてしまう恐れがあります。
ジュンヤさんとレミさんは、ふたりがかりで、ソラに魅了魔法をかけようとしていました。
それで、やむなく、レミさんの魅了に籠絡されたフリをすることにしたのです。
ソラが抵抗できないのを良いことに、レミさんは、ソラの腕に自分の腕を絡ませ、毎日、べったりくっついていて、さすがに、ジュンヤさんが不機嫌になっているとか。
なんなんですかねぇ。ホントに聖女なの?
「しかし、そういう話には疎い研究所の堅物のハルト兄さんまで、聖女の魅了の噂を知っているんだから、けっこう、問題が大きくなってるな」
カイトお兄様が顔をしかめます。
「どうして放っておいてるんでしょう」
「カリン、聖女が魅了魔法を使っているという話は、あくまで、今のところ、噂のレベルなんだよ」
「でも・・」
カイトお兄様は、レミさんとジュンヤさんが、私とソラに魅了の魔法を施そうとしたことを知っています。
私たちが話したからです。
カイトお兄様は、苦笑したまま、
「カリン。もしも、聖女が、シオン殿下に魅了魔法を使ったとしたら、明らかな不敬罪なのだから、捕まるはずだよ。
だけど、捕まっていない」
と言いました。
たしかに、その通りです。
「シオン殿下には、彼女は、魅了の魔法を使っていないんですね」
「おそらく、そうだろうね。
防ぐ方法はあるんだし。
でも、シオン殿下が、魅了の魔法を使わずに籠絡されるような愚かな王子とは思えないんだけどね。
カリン、あちこちの男に言い寄るような聖女が、魅力的に見えるかい?」
「私、男の方の女性の好みは、判りません。
レミさんは、とても綺麗ですし」
「シオン殿下も、コウキも、アヤトも、婚約者候補を、いくらでも選べる立場なんだよ?
国内外の美妃の中から、もっとも才色兼備かつ好みの女性を選べるのに、わざわざ、他の男と両天秤にかけるような女を選ぶかね。
王族や高位貴族なら、誰の子を産むか判らないような女は、妾にしかしないよ」
「それはそうですけど・・。
でも、なにしろ、レミさんは聖女ですもの。
レミさんの寵愛を受ければ、神の加護が得られますわ」
「その点は、もしかしたら、命の危険を感じているような者にとっては、魅力的かもな。
・・ああ、そういえば、だから、聖女を国から出したくない、と言っているお偉方も多いんだよな。
国の安泰のためにね。
キースレア帝国に聖女を渡したくない、というわけだ。
だから、多少、問題のある聖女だとしても、大目に見てるのかもな。
それにしても、あの聖女は、あまり頭が良くないよ。
聖女としての能力と、魅了の魔法スキルを持ってるのだとしたら、上手く使えば、もっと、マトモな聖女のフリも出来ただろうに。
陰でビッチと罵られるような真似を、わざわざしてるんだからな」
「それは、そうですね。
レミさんは、家で、淑女としてのマナーを学ばなかったのかしら?」
親族でも、婚約者でもない、親しくもない男性に、わけもなく女性から近づくのは、よろしくありません。・・と、淑女なら学びます。
気安く男性に声をかけ、一緒のテーブルに座るような女性は、「尻が軽い」と思われてしまいます。
レミさんは、女性ひとりに、男性3,4人という状態で、毎日、昼食やお休み時間を過ごしているようです。
おまけに、いつ何時、レミさんを見かけても、シオン殿下か、コウキ様か、アヤト様か、ジュンヤさんと一緒に歩いている。しかも、腕や背に手を触れたりしながらだそうです。
まぁ、ジュンヤさんは、女性ですけどね。
でも、周りのひとは、ジュンヤさんが女性だと知りませんから。
おかげさまで、レミさんは、学園の女性たちから、よく思われていないようです。
レミさんが、「魅了の魔法を使っている」という噂が流れているのも、レミさんに嫉妬した女性たちが裏に居るのかもしれません。
「そういえば、キースレア帝国から、密偵くさい奴が、うちの学園に来たよ」
とカイトお兄様。
「密偵くさい奴?」
「キースレアからの留学生さ。ネストルとかいう名前の。
彼は、なかなかの男前だよ。
あの聖女は、キースレア帝国が好きだからね。さっそく、彼を、自分の取り巻きのひとりに加えてた」
「あらまぁ・・」
「そのキースレアのネストルが面白いことを言ってたよ。前世の記憶について」
と、思い出したように言いました。
「キースレアにも、前世の記憶持ちがいるの?」
たしかに、キースレア帝国は大国ですから、居てもおかしくありませんわね。
このアノス王国ですら、私が知っているだけで、2人は居るのですから。
大叔母様の話していた騎士の方を入れたら、3人です。
「なんでも、キースレア帝国の皇太子の妃が、前世の記憶を持っている、とか」
「そんな偉い方が・・」
「なかなか魅力的な女性らしいよ。
その話を、聖女のレミ嬢が、興味津々に聞いてたけど。
皇太子妃は、予知みたいな力は、ないと言ってたなぁ。
まぁ、もしも、予知能力があったとしても、言わないだろうけどね」
「そうですわね」
でも、なんとなく、親しみを感じてしまいますわ。
そういえば、キースレア帝国の皇太子妃は、攻撃魔法で荒れた大地を耕作地にする活動をされてるんでしたっけ。
もしかしたら、前世の記憶の中に、そういう知識があったのかしら・・。
私と違って、「使える前世記憶持ち」なんですね。
あ、なんだか、涙が・・。
お読みいただきありがとうございました。
また明日、午後6時に投稿いたします。




