30)計略
今日の投稿は、ひとつだけになりますm(_ _)m
ソラは、私と一緒の馬車に乗ってくれました。
家まで送ってくれるのです。
お話があったので、ちょうど良かったです。
「ソラ、邸に帰る前に、一カ所、寄りたいところがありますの。
良いかしら」
「いいよ。どこだい?」
「ハルトお兄様がお勤めの研究所に寄りたいのです」
「わかった」
ソラは、御者に研究所へ寄るように伝えました。
私は、馬車の中でふたりきりになると、ソラに話しかけました。
「ソラ、私、今日、マナー違反をしてしまいましたわ」
私に触れそうなくらい近くに座っていたソラが、私の方に向き直りました。
「マナー違反?」
「ええ。
ひとを鑑定するのは、マナー違反だから、やらないと言いましたでしょう。
でも、今日は、ジュンヤさんとレミさんを、鑑定しまくってしまいましたわ」
「本当かい?
でかした、カリン。
なにか判ったのかい?」
ソラが、嬉しそうに私の手を取りました。
てっきり、とがめられるのかと思いましたら、違いましたわ。
「いろいろと、判りましたわ。
とは言っても、私の能力は、あくまで鑑定で、心が読めるわけではないので・・」
「判ってるよ。
でも、ひとの感情や、大事に思っている事柄なんかが判るんだろう?」
ソラは、私の鑑定能力をよく判ってくれています・・。
「おふたりが、たとえば誰かの名前を聞いたり、話したりしたときの想いから、いろいろと推測できましたわ。
ちなみに私に関しては、レミさんは、嫌悪。
ジュンヤさんは、憎悪と嫉妬でいっぱいでしたわ。
それから、ソラに関して、ジュンヤさんは、明らかに好意、恋情をもっていますわ。
そして、非常に強く執着しています。
ジュンヤさんの、優越感、幸福感、満足感、そういったものと、ソラの存在が、関わっているみたいです。
愛って、複雑な感情ですのね。
私、ジュンヤさんから読み取れた感情を、すべて言葉で言い表すことはできませんわ」
「必要ないよ。
ジュンヤのあの感情が、愛だなんて、思いたくない。
ジュンヤの優越感、幸福感、満足感が、私と関わっていることは、想像がつくよ。
ジュンヤは、ユキノ家の跡取り息子として、幼いころから徹底した英才教育を受けてきたんだ。
ジュンヤは、賢い子供だった。
ジュンヤは、父方の親類で、同い年だ。
私は、ずっと、ジュンヤと比べられてきた。
我が家に来ると、ジュンヤは、私の父に褒められ通しだった。
おそらく父は、ジュンヤを褒めることで、私をより奮起させ、努力させようとしてたんだろう。
ジュンヤの優越感は、我が家で植え付けられたものだよ」
「そうでしたか・・。
ジュンヤさんは、おそらく、待っています」
「待ってる? なにを?」
「ソラと婚約できる日を、ですね」
「なんだって?」
「ジュンヤさんが女性に戻れるとしたら、彼女の厳しい祖父が亡くなられたときでしょう」
「ああ・・。
そういうことか」
「ソラが、聖女と婚約していれば、ソラは、他の女性と婚約したり、結婚することはないでしょう」
「だが、聖女と婚約するのなら、けっきょく、ジュンヤとは婚約できないのでは?」
「だから、ジュンヤさんとレミさんは、仲良くしているんですわ。
そういう契約なのでしょう。
ジュンヤさんが協力する代わりに、ジュンヤさんのお祖父様が亡くなったとき、レミさんは、ソラを、ジュンヤさんに返すと・・」
「私は品物じゃないんだけどな」
ソラは不機嫌そうです。
「ソラ。
ジュンヤさんとレミさんの繋がりが『契約』なのはたしかですわ。
レミさんは、ジュンヤさんのおかげで、トキワ家にしじゅう出入りし、トキワ公爵とも懇意にされてますし。おそらく、レミさんは、ジュンヤさんの人脈を使って、シオン殿下たちとも繋がりを持ったのでしょう」
「ああ、それは、たしかに、当たってる」
ソラが苦く笑いました。
「ジュンヤさんは、嫉妬で狂うほどにソラが好きなんですのよ。
そのジュンヤさんが、ソラとの婚約を画策しているレミさんと親しく協力的なのは、事情があるんですわ」
「・・まったく、不愉快な事情だよ」
「それから、レミさんですけど。
レミさんが、『シオン殿下』『コウキ様』『ソラ』『カイトお兄様』の言葉に反応したときの感情は、欲望、執着、好意でしたわね」
「ビッチだな」
とソラ。
「それから、『必要性』」
「必要性? どういう?」
「レミさんにとって、4人が、必要だということ」
「・・なぜだ?」
「レミさんは、なにかを・・いえ、誰かを、求めている。
そのために必要なのが、ソラたち4人。
レミさんには、4人の関連とともに沸き起こる感情があるんですわ。
それも、かなり強力な。
レミさんは、誰かに、非常に強い執着をもっている。
ジュンヤさんがソラに執着しているのと同じように。あるいは、それ以上に。
でも、その人は、今日の会話の中には、名前が出てこなかったようですわ。
レミさんが、その人を手に入れるために必要なのが、ソラたち4人なのでしょうね」
「どういうことだろう?」
「足がかりにするつもりなのかと思ったのですけど。
はっきりとは判らなかったですわ。
ただ、ヒントはありました。
レミさんの感情が高ぶったのは、彼女が、キースレア帝国に、聖歌を歌いに行くという話をしたときです。
彼女の心に沸き起こった、恍惚と憧れ、強い恋慕。
おそらく、レミさんが、一番、欲しがっているひとは、キースレアの皇子だと思います」
「キースレアの皇子・・。あの大国の皇子を狙うとは。
突拍子もないな」
「レミさんは、キースレア帝国に行くことに強い感情を持っています。
でも、彼女は、聖女の仕事そのものには、さしたる思い入れを持っていないのです。
私が、『聖女のお仕事』と言ったとき、彼女の心に生じたのは、単なる『義務感』でした。
ですから、レミさんが、キースレア帝国を語るときに沸き起こった強い思慕は、聖女の仕事とは別物です。
そして、彼女は、誰かに、恋い焦がれている。
キースレア帝国に対するレミさんの想いは、尋常じゃなかったわ。
それも、国に対する想いというより、ひとへの恋慕。
帝国と結びついた帝国そのものと言っていい人物・・。
民ではない、貴族・・でも足りない。
おそらく、皇族でしょう」
「なるほどね。
でも、それは、我が国にとっては、裏切りだろう」
「キースレア帝国は、荒れた大地が広がり、耕作地が十分にないのでしょう?
聖女が荒れ地を癒やせば、戦争の理由がひとつ減るのでは?」
「カリン。
たしかに、キースレア帝国には荒れ地が広がってる。
けれど、過去に起こしてきた戦争のおかげで、人口も減っているんだ。
キースレア帝国は、国家運営をきちんと出来れば、食料には困らないはずなんだ。
キースレア帝国の問題は、長年、戦争ばかりしてきて、平和な世を治めることができていないからだ。
おまけに、戦争をやりたがる軍人と武器商人の力が強く、政治に関わっている。
キースレア帝国は、単純な国じゃないんだ。
レミ嬢のような、ひとを魅了で操ろうとする人間が、キースレア帝国に嫁いでいったって、良い結果になるとは思えないな」
「それは・・そうですわね・・」
「それに、キースレア帝国の荒れ地は、大規模魔法で荒れたのが原因だが、炎魔法や氷結魔法で木々や草木が根こそぎになっているだけで、呪いで荒れたわけではないんだ。
聖女の魔法を使うまでもないことだよ」
「ひとが多く亡くなった土地なので、浄めたいのでは?」
と私が言いますと、ソラは首をふりました。
「そういう供養は、その土地の宗教が行うべきだろう・・。それが本来の形だよ。
キースレアの大地のことは、私は、むしろ、土魔法でほぐしたり、カリンがいつも鉢植えを元気にする方法で、草木を癒やしてやるほうが良いと思うけどな。
実際、土魔法で、少しずつ、耕作地を増やしている、と聞くよ。
キースレア帝国の皇太子妃が中心となって、活動をしているらしい。
キースレア帝国が、聖女の件でアノス王国に接触してこないのは、そのためだろう」
「では、レミさんが、キースレア帝国に行こうと思っても、計画通りには、いかないかもしれませんね。
レミさんは、『予知』が出来ると言ってましたけれど、ハズレたのかしら」
「う~ん。まだキースレア帝国については判らないけれど。
彼女が言っていたことは、いくつか、思い込みで間違っているところがあるんじゃないかな。
カイトは、今のところ、聖女の取り巻きじゃないけど、レミ嬢の予想通りだったら、魅了されていたはずなんだろ?」
「そうですわね」
◇◇◇
ハルトお兄様の研究所に到着しました。
「研究所にどんな用事なんだい?」
とソラ。
「ええ、あの・・。
さっき、ソラが魅了魔法を防御する魔導具を持っている、と告げたときの、ジュンヤさんとレミさんの感情が気になったのです。
焦りと、困惑・・それから、どす黒い悪感情。悪巧み・・。
ろくな感情ではなかったですわ。
ソラの持っている魔導具は、どうやって手に入れましたの?」
「従者に買ってきてもらったものだ」
「そうしたら、従者は、トキワ公爵に尋ねられたら、話してしまいますわ。
取り上げられかねません」
「あぁ・・そうだろうな」
ソラは苦い顔になりました。
「ハルトお兄様は、魔導具制作に関しては優秀なんですのよ。
お願いすれば、魅了を防御する魔導具で、傍目からは判らないものを用意してくれると思います。
ソラと、カイトお兄様のぶんと、私のと、3つ、もらいましょう」
「カリン、ありがとう」
ソラが、私を、ぎゅっと抱きしめてくれました。
お読みいただきありがとうございました。
また明日、午後6時に投稿いたします。




