29)魅了魔法の恐怖
本日の2話目の投稿です。
1話目は、午後6時に投稿済みです。
魅了の魔法は、魅了だけでなく、記憶まで操作できるなんて、始めて知りました。
魅了によってひとを思うままに出来るからでしょうか。
忘れろ、と言われたら、忘れてしまうんでしょうか。
残酷な魔法です。
「やめてください。
忘れるなんて・・嫌です。
カイトお兄様は、婚約者の方が居るんです。
そっとしておいてください」
「婚約者なんて、婚約解消すればいいだけだろ」
ジュンヤさんがこともなげに言います。
「酷いですわ。
私、帰ります」
私は、素早く立ち上がり、ドアに向かいました。
ジュンヤさんが追いかけてきましたので、私は、必死に走りました。
スカートって、走りにくいですわ。
男装のジュンヤさんは、速いです。
私は、ジュンヤさんに腕を捕まれました。
「離してっ」
「怪我したくなければ大人しくしてろっ。
レミっ、早くやれっ」
「ちょっと待ってよ、集中しないとっ」
「いやっ」
私は、床に押さえつけられてしまいました。
「ジュンヤっ、辞めろっ」
ソラがクローゼットから飛び出し、ジュンヤさんの襟首を掴んで私から引き離すと、殴りつけました。
「ソラっ、くそっ」
ジュンヤさんが殴られた頬に手を当て、ソラをにらみました。
私は、ジュンヤさんの手から逃れて、ソラに支えられ、ようやく立ち上がりました。
私の傍らに座り込んでいたレミさんが、呆然とソラを見上げています。
「ソラ様、どうして、こんなところに?」
と、レミさん。
「そっちこそ、いったい、どういうつもりだ?
私は、姉上と君たちがなにか企んでいる様子だったので、調べてやろうと思って、ここに潜り込んでいたんだ。
まさか、こんな悪事を目撃することになるとはな」
「もう・・なんてことよ・・」
レミさんが、よろよろと立ち上がりました。
「なにが悪事だっ。
ソラ、邪魔をするな!
そいつは、危険人物だっ」
とジュンヤさん。
彼女の殴られた頬は痛々しいですが、元気そうですね。
「カリンは、姉上の友人だ。私の友人でもある。
酷いことは辞めてくれ」
ソラは、私の肩を抱いて支えてくれています。
もう、大丈夫なんですけど。でも、ソラの腕の中は安心です。
「レミは、聖女だ。
帝国との戦争を止める大事な役割がある。
それを邪魔しているのは、その女なんだぞっ」
とジュンヤさん。
「バカな。
カリンがなにをしたというんだ?」
「ソラ様、私には、ソラ様が必要なんですわ。
私は、キースレア帝国で、癒やしの魔法のために、聖歌を歌わなければならないんですのよ。
そのときに、ソラ様が、私を支え、歌を歌うフォローをしてくださるのです。
私とソラ様は、ふたりで一対なのです」
レミさんが、恍惚として話しながらソラにすり寄ります。
ソラは、私をかばったまま一歩退きました。
「よしてくれ。
私は、声楽は専門じゃない」
「いいえ、ソラ様のピアノの演奏が、私の聖歌を完成させてくれるのです」
「他のやつに頼んでくれ」
「ソラ様でなければダメなんです。
ですから、公爵にもお願いしてあるんですわ」
「シオン殿下とコウキはどうするんだ?」
「シオン殿下とコウキ様も、私が帝国に行くときに、支えてくださる予定です」
「そんなにたくさん支えが居るのなら、私は要らないだろ」
「とんでもないわ。
ソラ様が一番、必要なんですから」
「はぁ・・。
なにを言ってるんだよ、君は・・」
「レミ、ソラを魅了してやれよ」
「ソラ様、ちょっと失礼しますわ」
レミさんが、ソラに近づきます。
じっと目を見つめました。
これが魅了の魔法?
「レミ嬢、私に魅了の魔法はきかないよ。
魔導具を備えてるから」
とソラ。
「え~~」
レミさんが素っ頓狂な声をあげました。
やっぱり、聖女らしくないです。
「くそっ。
でも、その女が公爵家にふさわしくないのは確かだからな。
公爵は、そんなあばずれ、許しはしない。
トキワ公爵は、あんたを嫌ってるんだよ、カリン」
とジュンヤさん。
ソラの私の肩を抱く手に力が入ります。
私は、ソラをなだめるために、そっと彼の背中に触れました。
「ジュンヤさん、この立派なおうちに私がふさわしくないことは、存じておりますわ。
わざわざ、教えてくださる必要はありません。
それから、今日の話は、申し訳ありませんけど、意味がよく判りませんでしたわ。
聖女のお仕事が大変そうだということだけは、判りましたけど。
私、なにも邪魔していないつもりですのよ。
私や、家族に手を出すのは、これきりにしていただけません?」
「自覚がないというのは、余計に始末が悪いな」
ジュンヤさんの顔がゆがみます。
「私、もう、帰りますわ」
部屋を出ますと、すぐそばのサンルームから、サヤ様が駆けつけてきてくださいました。
「なにがあったの?」とサヤ様。
サヤ様は、私の乱れた髪に、不安げに視線をとめました。
私は、慌てて、髪を手ぐしで整え、髪留めを付け直しました。
ソラは、廊下をちらりと見ました。
ジュンヤさんたちが出てくる気配はありませんが、ソラは声を潜めました。
「ジュンヤたちが、想像以上に酷い連中だということが判ったよ」
ソラの声に怒りがこもっています。
「どういうこと?」
サヤ様に問われ、ソラは、サヤ様の耳に顔を寄せました。
「レミ嬢は、魅了の魔法を使って、私やカリンを傀儡にしようとした。
カリンの記憶から私を消そうとしたんだ。
思い出すと腸が煮えくりかえる」
「まぁ・・」
「それから、彼女たちは、帝国に行って、土地を浄化する手伝いをするつもりらしい。
それに私が必要だと言われた」
「・・なぜ?」
「本当かどうか、判らない。
とにかく、彼女はそう思っているし、父は、それを手伝うつもりらしい」
「ワケがわからないわ・・」
サヤ様が呆然と首をふります。
ソラは、姉のサヤ様には、国外に逃げる計画は話していません。サヤ様を巻き込みたくなかったからです。
ソラが逃げたあと、なにも知らなければ、責任を問われることもないでしょう。
サヤ様は、父親の公爵を嫌悪しています。
トキワ家の長女でソラとサヤ様の姉上だったユリエ様は、政略のために、蛇のように嫌っていた王弟殿下のもとに嫁がされたそうです。
他にも良い嫁ぎ先は、いくらでもあったでしょうに。
嫡男として溺愛されて育った長男は別として、次男のソラのお兄様も、父親の公爵を忌避しているそうです。
サヤ様は、きっと、私たちを支持してくださるでしょう。でも、私もソラも、公爵家に残るサヤ様を頼るつもりはありませんでした。
「姉上。カリンを送っていくよ」
とソラ。
「ええ。そうしてあげて。
お茶会に出ていただけないのは残念だけれど」
「ごめんなさい、サヤ様」
「いいのよ」
サヤ様が、痛ましげに私の頬に触れました。
お読みいただきありがとうございました。
また明日午後6時に投稿いたします。




