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26)声楽コンクール

本日の1話目です。

今日も2話投稿の予定です。

 2年の月日が流れました。


 レミさんは成人して、明らかな聖女の力を現し始めたそうです。

 私は、その噂を、カイトお兄様から聞きました。


 ソラのお父様は、聖女を自分の家に取り込むために、ソラをレミさんに近づけようと画策し始めたようです。

 私には、打つ手はありません。

 私は、ただ、自分が出来ることをするだけです。

 学園に通い、歌とピアノを学び、鑑定スキルの鍛錬を続けます。

 ソラと外国で暮らすときのために、少しでも、自分の持つ技術を高めておきたい。


 私は、声楽でも、コンクールに出させてもらうことになりました。

 ソラが演奏家として活動する傍らで、私は、声楽家として彼を支えられるように。

 あるいは、鑑定士として働いても良いでしょうけれど。

 出来れば、音楽で身を立てたいものです。


 国内で、声楽のコンクールで有名なのは、王都で毎年秋に行われるアノス声楽コンクールです。

 国の名前を冠したコンクールだけあって、歴史は古く、全国各地から予選を通過した出場者が声を競い合います。

 私は、予選を無事、通過し、本選の日がやってきました。


 私が出場するのは、学生の部です。

 曲は、キースレア帝国の歌で、『旅人の歌』にしました。

 またキースレア帝国の歌を選んでしまいましたが、わざとではないですけどね。

 コンクールにふさわしい曲を選んでしぼっているうちに、気に入って決めたのがキースレアの歌だっただけです。

 キースレア帝国は、なにしろ、大国ですので、優れた歌が数多くあります。


 この歌は、旅人が故郷を想う歌なのですけれど、おそらく、帝国から戦地にかり出された防人の歌です。

 うがった見方をすると、帝国が侵略国家であることを批判する歌でもあります。

 まぁ、コンクールで、そんな政治的な思惑を考えるひとも居ないでしょう。

 曲自体は、透き通った旋律が美しく、もの悲しくも、心に染み入る歌です。


 出番が近づいてきました。

 今日も、私の家族は来てくれました。

 ソラも、来てくれているはずですけれど、公爵にバレないように、お忍びです。


 私は、舞台の袖で、イメージトレーニングをします。

 胸のお兄様の魔導具が、私を落ち着かせてくれます。

 さぁ、舞台に立ちましょう。



 深呼吸をひとつ。

 しっとりとした伴奏のピアノが、優しい音色を奏でます。

 客席にはたくさんのひとたち。

 遙か遠い旅人の郷愁の想いを、みなさんに聴いていただきましょう。


 歌い始めます。

 高音を舞い上がらせ、声を響き渡らせます。

 透きとおる秋の空を描くように。


『愛しいひとよ。

 この秋。

 故郷の麦畑は、金色でしたか。

 赤く色づく葉は、山を飾りましたか』


 いつか、祖国を離れたら、私も、金色の畑を恋しく想うのでしょうか。

 歌は、山場を迎えます。

 繊細なソプラノを響かせます。優しげに、詞を胸にかき抱くように。


『あの日、輝いていた青春のころ。

 命は、美しく、儚く。

 友よ。

 あの頬笑みを忘れまい』


 遠い戦地で戦友の命は失われたのでしょうか。


 私の歌は、ほの悲しい調べを響かせて終わりました。


 歌を終えて、客席のほうへ向かいます。

 感極まって、目が少しだけ潤んでしまいました。

 こんなことはめったにないのですけれどね。

 声が涙声になったら大変ですもの。

 観客の数が多いと、雰囲気に飲まれてしまいます。

 それで、感情が高ぶったのでしょう。


 急ぎ足で客席のほうに歩を進めていますと、「カリン」と、声をかけられました。

 キリアン様でした。

 キリアン様は、あの『春の宵』を歌ったときから、ときおり、声をかけてくださるようになりました。

 彼とは、学年も、科も違い、接点がありませんので、ごくまれにですけれど。食堂でたまたま、席が近いときなどは、会話を楽しませていただいています。

 キースレア帝国のお話を聞ける、貴重な機会ですから。

 声楽のコンクールに来られるなんて、キリアン様は、声楽にも興味がおありなのですね。それとも、お知り合いの方が出場されたのでしょうか。


 今日のキリアン様は、じゃっかん、不機嫌そうな雰囲気です。

「君が、あんな歌を歌うとはね」

 と、苦笑いされながらおっしゃいました。

「あの歌は、お嫌いでしたの?

 キースレア帝国ではよく歌われる有名な歌と聞きましたけれど」

 私は首をかしげました。

「歌い方があるだろう。

 あんなにもの悲しく歌うなんて・・」

「もの悲しい歌だと思いますもの」

「それはそうだけれどね・・。

 君の歌は、危険だ」

 キリアン様は、私の歌のせいか、悲しそうな顔をされています。

 彼は、数歩、私に近づき、ふいに、抱きしめました。

 彼の体温を感じながら、私は、彼が、私の思う以上に悲しみで胸がふさがれているのを知りました。彼の悲しみが、心からあふれ出ています。

 そして、私は、彼が、キースレア帝国の皇子なのだろう、と悟りました。

 彼は、自分が侵略国家の皇子であることを悲しんでいるのでしょうか。

 あの切ない恋歌『春の宵』を懐かしいと言っていたキリアン様は、情の深い方なのでしょう。

 息がつまるほどきつく抱きしめられながら、私は、彼が癒やされますように、と祈ります。

 私の祈りが通じたのか、少し、彼の腕の力が緩みます。

 ふと、靴音に気づき、キリアン様は、私を腕から離しました。

「なにをしている・・」

 聞き慣れた低音の声・・。ソラでした。

「ソラ・・」

「なにをしていると言っているんだっ」

 ソラは、キリアン様を私から引き離そうとしました。

 キリアン様は、物憂げに頬笑みながら、素直に私から退きました。

 ソラは、キリアン様を一睨みしてから、私の肩に腕をまわし、私をその場から連れ去りました。

 十分にキリアン様から距離を置いてから、

「なぜ?」

 とソラは問いました。

 ソラの頬が上気しています。

「傷ついてしまわれたそうです」

 と、私は答えました。

「どういうこと?」

 ソラの顔がいぶかしげになりました。

「私の歌を聴いて。

 悲しみで心が沈んでしまわれたそうです。

 彼は、苦しんでいました。

 彼は、たぶん、キースレアの皇子です」


 私の言葉で、ソラは、なにがあったのか、すっかり理解してくれました。

 歌の心を聴くことの出来るひとだけに、判ることがあります。


「そんなことは・・知ったことでは無い。

 自分の国が侵略国家だから悪い」

「私・・もしソラとキースレア帝国に行って歌うことができたとしても、あの歌は選ばない方がよいのかもしれませんね・・。

 なんだか、自信がなくなりました」

「歌ってやればいい。

 あの国には必要だ」

「ソラ・・。

 私、キリアン様に、君の歌は危険だ、と言われたんですよ」

「危険なものか。

 素晴らしかったよ。

 私のカリン」

 ソラは、私を抱きしめてくれました。

 キリアン様よりも、ソラの方が優しい抱擁です。

 彼の温もりが愛おしい。

 このまま、ずっと、抱き合っていたいです。

 でも残念ですけれど、私たちは、そっと離れて、客席に向かいました。

 どこでだれに見られるか判りませんので。


 審査結果で、私は、学生の部、一位に選ばれました。

 アノス声楽コンクールでの入賞は、国内での音楽活動をするうえでは、十分な拍付けとなります。

 声楽家として活動するための足がかりになってくれるでしょう。

また午後8時に、今日の2話目を投稿します。

よろしくお願いします。

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