25)前世の世界の歌
今日、2話目の投稿です。
1話目は、午後6時に投稿済みです。
私たちは、それから、慎重に行動することにしました。
ソラの父親であるトキワ公爵は、自分の息子であろうと、容赦しない人間です。
もしも、ソラが、父親に逆らうつもりであることが判ると、どんな妨害をするか判りません。
ソラと私が相思相愛なことも、隠さなければなりません。
公爵には、ソラの気持ちを薄々感づかれているようで、私が公爵家を訪問することは、良く思われていません。好きな方の家族に疎まれるのはつらいですが、トキワ公爵が私を厭う理由が、ソラを政略に使いたいから、という理由なので、どうすることもできません。
私は、公爵家に行く頻度を、ごく少なくしました。
すっかり接触を無くしてしまうのも不自然なので、サヤ様の茶会に行かせてもらったり、夜会にお呼ばれしたりはします。
夜会では、ソラと、一度くらいは踊ります。
でも、それだけです。
親しげに話すこともしないようにしました。
ソラがレミさんやジュンヤさんと話している姿や、踊っている姿を見るのは心が痛みますが、極力、お兄様や、お兄様のご友人の方と一緒に居るようにしました。
ソラと会うときは、我が家のほうで会います。
カイトお兄様とソラは友人付き合いをしていますので、ソラは、お兄様と会うふりをして、私たちは一緒に過ごしました。
しじゅうは会えませんが、それでも、会えるときは、楽しいです。
最近、ソラと私が試みているのは、私の前世の記憶にある曲の譜面興しです。
幼いころから、前世の記憶にある曲がおぼろに浮かんでくることはありました。でも、幼い私は、譜面に起こすことも出来ず、たまに口ずさむくらいで、思い出そうと努めることはしませんでした。
ユヅキ芸術学園に入学してからは、編曲の課題が出ることもあり、譜面起こしは難なく出来るようになりましたが、前世の曲は、その世界で曲を作った作曲家が居るのですから、模倣は罪です。
むしろ、自分が作った曲と錯覚しないように気をつけていました。
でも、ふとした拍子に、記憶の底から、優れた美しい歌や曲が浮かんでくることがあります。
それで、私が口ずさみ、ソラがピアノで音を拾い、譜面に起こしてみました。
作曲家は未詳のままに、とりあえず、曲を復活させたのです。
「きれいな曲だね。
不思議だな。
どこの世界なんだろうね、カリンが前世に居たところは」
とソラ。
「もしかしたら、遠い空の向こうにあるのかしら、と思うことがあります。
あるいは、あまりにも過去なので、消えてしまった世界なのかな、とか」
「そういえば、古代の哲学者が、時間軸の違う世界が、いつも同時に存在している、みたいなことを言っていたね」
「同時に違う世界が・・?
なんだか、突拍子もないことに聞こえますけど、自分の前世の記憶を思うと、あながち、ウソじゃないような気がします」
「そうだね。
その、時間軸のずれた世界は、もしかしたら、知らないうちに、影響しあってるんじゃないかと思うよ。
カリンが、前世の記憶の影響を受けているのは、それでじゃないかな」
私は、ソラに、四角い大きな建物がたくさん並んだ街があったこと。
お母様とふたりきりの家庭だったこと。
学生のころ、ピアノの上手なクラスメイトに憧れていたこと。
大きな商会で働いていたこと。
若く病気で死んだことなどを話ました。
ソラは、「頑張って働かなくていいから、長生きして」と言ってくれました。
「私、歌を歌ったり、ピアノを弾くのは楽しいから続けますわ。
ソラも、健康には気をつけて、長生きしてね」
「うん、一緒に長生きしよう」
「お爺ちゃん、お婆ちゃんになっても、一緒に居てね」
「もちろんさ」
今は、自由に会うことも出来ませんけれど、きっと、将来は一緒に居られるようになれるでしょう。
お読みいただきありがとうございました。
また明日、午後6時に投稿いたします。




