19)ふたりの日常風景
見直しが間に合わず、一日一話になりそうです。m(_ _)m
月日は、穏やかに過ぎていきました。
私は14歳になりました。
私が芸術学園に入学して、早いもので1年と半年になります。
ソラのピアノの師は、キースレア帝国の著名な演奏家で、ときおり、ユヅキ芸術学園でも、特別レッスンをされていらっしゃいます。
なかなか個性の強い方です。
「今日の管弦楽の授業では、クラウス先生は、タクトを2本、折られましたわ」
と、ソラにクラウス先生のご様子を教えてあげました。
「あの堅いタクトが?」
ソラが苦笑されました。
「ええ。謎ですわ。
たぶん、お気に召さない生徒が、幾人も居るからでしょうけど」
「ハハ。
その割に、レッスンを引き受けてくれてるんだね?」
「たぶん、同じくらい、お気に入りの生徒がいるからでしょうね」
「カリンも?」
「いいえ。残念ながら、私は、その他大勢ですわ」
私は、肩をすくめてお茶を一口、いただきました。
「ところで、カリン、学園で声楽を学んでいるんだろう。
一曲、聞かせてもらえないか?」
私が、声楽を学んでいると、うっかり話してしまったため、催促されてしまいました。
秘密にしてましたのに・・私のバカ。
「自信がないのですけど・・」
「それなら、なおさら、練習しなきゃ。
聞いてあげるから。
ほら」
私は、ソラにせかされて、ピアノの横に立ちました
歌を誰かに聴いていただくのは、ちょっと恥ずかしいです。
ピアノを弾くのとは、また違った恥ずかしさですわね。
まぁ、女は度胸です・・あら、愛嬌だったかしら。とにかく覚悟を決めましょう。
「今、習っている歌を歌いますわ。
今度の学園祭で発表する予定なんです。
学園祭は、2年に一度しか開催されないんですのよ。
ですから、学園総出で、準備しているところなの。
私が選んだのは、『春の宵』という恋歌なんです」
私は、呼吸を整えて、歌い始めました。
『真っ白な花びらの舞う道。
散りゆく花びらのように、私の恋は終わってしまった・・』
この歌は、キースレア帝国の歌姫のために、著名な音楽家が作った歌だそうです。
つい歌が作られた背景を考えてしまいますわね。
高音を響かせるところが、えもいわれぬもの悲しさで、かなわぬ恋を訴える歌詞が朗々と続きます。
そこが一番、難しい曲の山場なのですが、上手く歌いあげると、それはもう、涙があふれてしまうほどに美しいのです。
ソラの前で、なんとか、それなりに上手く歌うことができました。
私の声はソプラノで、お母様の声に似ているそうです。
お父様は、私の歌声を聞いて、すぐに泣いてしまうのです。
今度の学園祭では、お父様は、泣き顔をみなさんに披露してしまうかも・・頑張りましょう! いえ、決して、美男のお父様の泣き顔がかわいらしいから、とか、そういうことでは・・あるかも。
歌を終えた私は、少々、気恥ずかしく思いながら、ソラを振り向きました。
気のせいか、ソラの目が、潤んでる?
あくびでもされたのかしら。
「ど・・どうでしたか?」
私が思わずたずねますと、
「素晴らしかったよ、カリン」
ソラは拍手して褒めてくれました。
「良かった」
少し照れます。
「その歌を、学園祭で披露するんだね」
「ええ。その予定ですの」
「・・そう・・」
「今から、緊張してしまいますわ。
学園祭の出し物は、ひとり一曲と決まってるんですけれど、私は、ピアノにするか、ずいぶん迷って、歌にしましたの。
声楽の先生が、私のソプラノを褒めてくださって、薦めてくれたものですから」
「・・これで、カリンが、他のやつに目をつけられたら、私は、ユヅキ芸術学園に入学させてくれなかった父を、一生恨むだろうな」
「ん?」
なにか、「恨む」とか、不穏な声が聞こえたような?
「いや、なんでもない・・」
「お時間がありましたら、ぜひ、学園祭にいらしてください。
招待状をお送りしますわ」
「ぜひ行かせてもらうよ」
ソラは、私の手を握って、熱心に言いました。
学園祭の招待状など、そんなに大層なモノではありませんのに。
これは、プレッシャーを感じてしまいます。
お兄様たちも婚約者の方を連れて来てくれるというし、頑張らねば・・!
明日も午後8時に投稿する予定です。読んでいただいてありがとうございました。