18)ユヅキ芸術学園
今日で子供時代編は終わりになりまして、次話より14歳に飛びます。
半年後。
私は、12歳になりますので、学校に入学の申し込みをしました。
王都にある貴族令嬢が入れるような学校は、それほど多くありません。
代表的な学校は、2つほどで、あとは小規模な学園です。
私が選択に迷った学園も2つでした。
他にもいくつかありますが、行儀作法が修道院なみに厳しかったり、魔法の才能が抜きん出ていないと入れなかったり、遠かったりして、選択肢から外しました。
私は、カイトお兄様が通われている学校と、芸術教育に力を入れている学校と、どちらにするか悩んだ末、ユヅキ芸術学園に決めました。
もしも、結婚できなかった場合、音楽で身を立てるためです。
お兄様の通われている学校も楽しそうなのですが、先々を考えて、です。
お兄様は、「一緒の学校じゃないんだねぇ」と寂しそうでしたが、「しょうがないね」と言ってくれました。
ちなみに、ひとつ年上のソラは、カイトお兄様と同じ学校に通っています。
ソラは、将来、どこかの貴族家に婿入りすることを見据え、領主のための教育を受ける必要があり、帝王学や経済などを学べる学校でないと許されなかったそうです。
私が、ユヅキ芸術学園に行くとお伝えしたときのソラの寂しそうなお顔が、忘れられません。
きっと、音楽三昧の学園生活を送りたかったのでしょう。
私は、ソラが、公爵から貴族家への婿入りを要望されている、とうかがって、私の恋は終わったのだと、はっきりと思い知りました。
我が家は、お兄様たちが家を継ぎます。
ですから、私は、どこかへ、お嫁にいかなければなりません。お婿様と結婚することはできません。
貴族の恋など、思うようにはいかないものですね。
・・今夜は、枕を濡らしましょう。
◇◇◇
入学試験の結果、私は、なんとか、入学を許可され、制服も仕立てました。
これから、17歳から18歳ころになるまで、音楽三昧です。
ユヅキ芸術学園では、17歳までに一般教養課程を修了させます。
この時点で、卒業してしまう学生が、半数は居ます。
以降は、芸術家として独り立ちするための、いわば、就職活動みたいなものです。
私は、17歳卒業を目指します。
王都の邸から通える距離に学校があったため、通いの学生です。
寮生活というのも体験してみたかったのですが、お父様に「ぜったい通い」と言われてしまったので仕方ありません。
学校は、楽しく刺激的です。
私は、声楽も習い始めました。
声を出すのは、気持ちが良いです。
美しく歌う技術は、私に歌の魅力に気づかせてくれました。
弾き語りも楽しいです。
自分の曲に合わせて、声を響かせる――気分は最高です。
学校は違ってしまいましたが、私は、ときおり、公爵家にお呼ばれし、ソラとピアノを弾いて過ごしました。
ソラは、本当は、ユヅキ芸術学園に通いたかったのですが、お父様の公爵に反対されて、アノス国立学園に入学しました。貴族家に養子や婿入りしたときに、箔がつく、と言われたそうです。
その代わり、ピアノのレッスンに、キースレア帝国からアノス王国に訪れていた著名な演奏家を招いてもらったんだとか。
ソラに幼いころからついているピアノの師は、芸術学園で他の演奏家の卵たちと交流を深めながら腕を磨いた方が、演奏家としての成長に良いだろう、と仰ったそうですが、公爵は、最後まで、ソラの希望を聞いてくださらなかったそうです。
「学校を卒業したら、外国に音楽留学するから、今は、我慢することにしたんだよ」
とソラ。
ソラは、早く卒業できるよう、講義を多く受けています。卒業に必要な単位さえ取れれば、年数を短縮して卒業できるそうです。
ソラの焦りを感じます。
芸術家として最も伸びる若い時期、理想とする環境に身をおけない不遇を、取り返したいのです。
人生は、ままならないものですね。
涙がじんわり溢れそうになります。
私は、「ソラは、どこでどんな風に学んでも、素晴らしい演奏家ですわ。栴檀は双葉より芳しと言いますが」と言いました。
「・・それは、どういう意味だい? カリン」
とソラ。
そういえば、どこで聞いたことわざでしたっけ?
もしかしたら、前世の記憶からかもしれません。
「栴檀という、香りの良い草木は、小さな双葉のころから香り高い、そうです。
才能も、そのひとの本質も、どうしたって、現れ出でるもの、というような意味ですわ。
ソラの才能も、覆い隠されることはありませんわ」
「きれいな言葉だね。
僕も、その言葉のように生きたいものだ」
ソラは、しんみりと言いました。
明日は午後8時(いつもより1時間遅く)投稿になります。m(_ _)m
読んでいただきありがとうございました。