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14)演奏を終えて

今日の投稿はひとつだけになります。m(_ _)m

 それから、私の出番となりました。

 私は、「いってきます」とソラ様に頬笑んで、舞台に向かいました。

 頑張らなきゃ。

 心配してくれたソラ様のためにも、応援してくれてる家族のためにも。


 舞台の袖で、イメージトレーニングの仕上げをします。

 目を閉じて、ピアノの前に座り、上手く弾ける姿をイメージします。

 それから、美しい音を奏でることのできる幸せを想います。

 ・・舞台に進みましょう。



 演奏は、まぁ、練習の成果だけは出せた、と言えましょう。

 世界中から集まった才能ある演奏者のみなさんと比べると萎縮してしまいますが、私なりの精一杯の演奏はできました。


 時を経ずに、ソラ様の演奏だったのですが・・、ええ、それはもう、素晴らしいの一言です。

 才能というものは、ときに残酷です。

 私は、あんなに毎日、練習に励んでおりますが、ソラ様の演奏とは、格が違うのです。

 言葉に尽くせない差を感じます。

 これから、何十年もかければ、彼のほど近くにまで、私でも到達できるのかもしれません。

 恋をしたり、様々な感動を体験したり、成長したりして、もっともっと曲に想いを込められるようになるのかもしれません。

 でも、そのときには、彼はもっと高みに昇っていってしまうのでしょう。


 切ないです・・。


 あ、それから、ジュンヤ様の演奏は・・まぁ、上手でした、とても。

 さすが、不遜な態度をとれるだけのものはありました。

 でも、彼女の性格を知ってしまいましたので、どうしても色眼鏡で聞いてしまうんでしょうかね。

 感動は、ありませんでした。

 こればかりはしょうがありませんね、芸術って、心で感じるものですから。



 演奏を終えた私たちは、観客席で、審査結果の発表を待ちました。

 ユイナ妃音楽コンクールのときにご縁がありましたので、私の家族と、ソラ様の叔父様は、近くに座っていました。

 今日は、ソラ様のお姉様もおられました。

 サヤ様という美しい女性です。ソラ様に、少し似てらっしゃいます。

 14歳くらいの方と私は見当をつけました。私の観察眼は頼りになりますので、だいたいあってるでしょう。

「フフ。

 私、カリンちゃんと会ってみたかったのよ」

 と、サヤ様はおっしゃいました。

 なぜ、私なんぞとお会いになりたいのでしょう。


「こ、光栄です」

 私はつぶやくように答えました。

「あのね、ソラは、とても緊張する子でしょ」と、サヤ様は、こっそりと言いました。

 ソラ様に聞こえないように話しているようです。

「私のほうが、ひどい緊張をしますので、他の方はよく判らないのですけれど」

 私は正直に答えました。

「ええ、カリンちゃんが、おびえた子鹿みたいに緊張してたので、心配だった、ってソラが言ってたわ。それで、様子を見守っていたんですって」

「ソラ様。心配してくださったんですか。

 ありがたいです」

 私が言うと、「あなたって、かわいいわね」とサヤ様は笑いました。

 どこに笑いのツボがあったのか、私には判りませんでした。

 きっと、笑い上戸な方なのですね。

「でも、カリンちゃんが緊張してる様子を見て、かえって、ソラは落ち着いたみたいだから、感謝してるのよ。

 なにしろ、ソラが、毎度毎度、コンクールのたびに、あまりに緊張して実力を出せないから、家族は、痛ましくて、コンクールを見に来られなかったんだから」


 なんと、ソラ様のご家族が会場に来られなかったのは、そういう理由でしたか。


「あの・・気持ちが落ち着く魔導具を持ってますので、もし、よろしければ、お渡しします。でも、ソラ様は、私より、ずっと落ち着いてらっしゃいます。

 ソラ様の演奏は素晴らしいです」

「そうね。

 でも、魔導具より、カリンちゃんの方が、ソラにとって、精神安定剤みたいだけど」

 サヤ様が、ウフフと笑います。

「そ、そうですか・・」

 緊張しすぎてる私を心配して、ご自分が落ち着くなんて・・ソラ様、優しいです。


 ようやく、審査結果が発表されました。

 ソラ様は、少年の部で、みごと、金賞に選ばれました。

 私は、奨励賞をいただきました。感激です。

 一生の宝物です。

 ジュンヤ様も、奨励賞だったようです。


 サヤ様は、「今度、邸で、祝賀パーティをするから、ぜひいらして」とご招待してくださいました。

「ぜひ、参加させてもらいなさい」

 お父様がご機嫌で言います。

「ぜったい、おいでよ」

 とソラ様。

 すると、そばにいらっしゃったジュンヤ様が、「ふうん。彼女を喚ぶのかい」と、あからさまに不機嫌そうに言いました。

「なあに? その言い方」

 サヤ様が聞きとがめると、ジュンヤ様は、なにも言わずに、どこかに歩いて行ってしまいました。

「ジュンヤったら。

 機嫌が悪いわね」

 とサヤ様。

「私、彼女に嫌われてしまったみたいです」

 私は、肩をすくめました。

 すると、ソラ様の叔父様が、私を不思議そうに見つめました。

「彼女? って、ジュンヤのこと?」

 とサヤ様も、私を見ています。

 ・・そうでした。

 なにか事情があって、ジュンヤ様は男装しているようでした。

 うっかり忘れてました。

「彼女は、彼でしたね。

 間違えました」

 私は、素直に訂正しておきました。

 ソラ様は、なにかを考えているような様子でした。

 ジュンヤ様の男装がバレたこと、気づいてしまったかしら。

 まぁ、すぐに訂正しておいたので、大丈夫でしょう。


 ようやくコンクールが終わり、上出来の結果で終わったのですから、細かいことで悩むのは止めましょう。

 そういえば、あの、ソラ様のファンらしき変なご令嬢の姿も見かけましたけれど、ソラ様が露骨に避けて逃げてたので、会えなかったようです。

 彼女の用事って、けっきょく、なんだったんでしょうね。


お読みいただきありがとうございました。

明日も、午後7時に投稿いたします。

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