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13)隠れ悪役キャラ登場

今日の投稿は、ひとつだけになります。m(_ _)m

 3週間は、あっという間でした。

 ソウタ・トラウ音楽コンクールの課題曲は、数ヶ月前から私が習っていた曲でした。

 私の師匠は、私をソウタ・トラウ音楽コンクールに出場させるつもりで、習わせていたのです。

 師匠、確信犯でした・・。

 でも、おかげで、課題曲は、なんとか弾きこなせそうです。

 自由曲の方も、師匠が、あらかじめ・・というか、いつの間にか、コンクールにふさわしい曲を練習させてくれていたので間に合うでしょう。

 賞を取るのは到底、ムリだとしても、私なりに、最高の演奏をしたいものです。


 コンクール当日。

 私は、ひとり、控え室で緊張と戦っておりました。

 今日の私には、強い味方がついています。

 お父様とお兄様が、お守りをくださったのです。

 お父様からは、お母様のリボンです。

 私は、お父様から、「きっと、お母様が見守ってくれるよ」と、くださったリボンを、髪に結んでいます。

 それから、ハルトお兄様からは、「落ち着ける魔導具」をいただきました。

 私は、お兄様から頂いた小さな魔導具を、細い鎖で首から下げて、胸元に隠しています。

 おかげで、膝の震えは、前のコンサートのときよりかなりマシです。

 カイトお兄様は、剣術の試合のため、今日は会場に来られないけれど、「カリンのためにも頑張るから、頑張れ」と言ってくれました。

 私も、緊張なんかに負けられません。


 私が胸元のお守りを握っていると、「カリン」と、声をかけられました。

 ソラ様でした。

「ごきげんよう、ソラ様。

 お久しぶりです」

 私は、3週間ぶりに会えたソラ様にご挨拶をしました。

「久しぶりだね」

 ソラ様が頬笑みます。

 ふと気づくと、ソラ様の斜め後ろに、美しい男装の令嬢が立っていました。

 さらさらの黒髪を肩まで伸ばし、切れ長の目、まるで、お人形のようです。

 すらりと背が高く、男装の礼装が似合っていて、一見すると、美しい少年のようにも見えますが、ご令嬢で間違いないでしょう。

 ソラ様は、

「彼は、ジュンヤ・ユキノ。伯爵令息だよ。

 ジュンヤ。彼女は、カリン・ハノウ侯爵令嬢」

 とおっしゃいました。

 ソラ様は、どうして、彼女を、「彼」と紹介されたのでしょう。

 それに、ジュンヤは、男の名前です。

 きっと、なにか、事情があるのでしょう。

「カリン・ハノウと申します。

 よろしくお願いします」

 ご挨拶をしました。

「そう」

 ジュンヤ様は、鷹揚に答えます。

 伯爵令嬢・・いえ、伯爵令息ということは、私の家よりも格下です。

 でも、ソラ様のお友達のようですから、礼儀正しくしておけば間違いないでしょう。

 彼女の不遜な感じが気になりますけれど、これからお付き合いする予定もありませんし。まぁ、良いですわ。

 ソラ様は、私の隣に腰をおろし、ジュンヤ様は、その隣に座りました。

「今日は、少し、緊張が落ち着いているみたいだね」

 とソラ様は言いました。

「はい。

 お兄様からお守りをいただきましたので。

 心が落ち着く魔導具です」

 私は、胸元からペンダント型の魔導具を取り出してソラ様にお見せしました。

「へぇ。

 そんなものがあるんだ」

 ソラ様は、感心したように、魔導具を手に取りました。

「川のせせらぎとか、木漏れ日とか、自然の落ち着ける雰囲気を魔導具で作り出したものだそうです。

 赤ちゃんの夜泣きにも効果があるそうです」

「ハハ。それは面白いね。

 なるほど、たしかに、落ち着く」

 ソラ様が魔導具を手に深呼吸しますと、ソラ様の表情が柔らかになりました。

 少し青ざめていた顔色も、血色を取り戻しています。

 お兄様の魔導具が役に立ったようで、私は嬉しく思いました。

「赤ちゃんの夜泣きだって?

 君は、兄から、赤ちゃんだと思われてるのか」

 ジュンヤ様が、私をバカにしたように言いました。

 ずいぶん、強烈な女性です。

 お声は女性にしては低めなので、きつい物言いをされると、なかなか迫力があります。

 きっと、ふつうの女性なら怖じ気づいてしまうでしょう。

 どうやら、彼女は、私を動揺させようとしているみたいです。


 私が、彼女をそう判断したのは、鑑定スキルを使ったためではないです。

 無断でひとを鑑定するのは、マナー違反ですから。

 でも、鑑定スキル能力が上がってから、鑑定スキルを使わなくても、対象物を見極めることが上手くなりました。

 「鑑定スキル」は、相手を魔法で鑑定するものですが、「観察眼」は、ただ見た情報を、正確かつ詳細に判断するものです。ですから、鑑定スキルと違って、相手に対して、魔法を使うわけではありません。

 マナー違反にはならないでしょう。

 ジュンヤ様が女性だと判ったのも、男女の違いというものは、言うなれば、基本的な質ですから。それくらい、観察眼で判ります。

 私が、ジュンヤ様をちらりと観察しますと、ジュンヤ様は、不愉快そうに顔をゆがめました。

 きれいな顔に凄みが表れます。

 なかなか怖い顔です。


「緊張は、自分の精神力で乗り越えるべきものだ。こんなモノに頼るなんて、恥を知れ!」

 ジュンヤ様は、怒鳴りながら、ソラ様から私の手に戻った魔導具をつかみ取り、床に投げつけようとしました。

 私は、焦って取り返そうとしましたが、ジュンヤ様の動きのほうが早かったのです。

 ですが、けっきょく、ジュンヤ様は、魔導具を壊すことはできませんでした。

 ソラ様が、ジュンヤ様から、魔導具を取り上げてくれました。

「ジュンヤ。

 君がそういう考えを持つのは勝手だけど、ひとの大事なものを壊すのは、感心しないな」

 ソラ様が諭すように言います。

「ふんっ」

 ジュンヤ様は、足音も荒く、控え室を出て行ってしまわれました。


 後に残されたソラ様は、「はぁ」とため息をつかれました。

「あの・・ごめんなさい、ソラ様。

 私の魔導具のために・・」

 私は、申し訳なく、縮こまりました。

「いや、どう考えてもジュンヤが悪いのだから。

 気にしないで。

 それより、せっかく落ち着いていたのに、心が乱れてしまったかな」

 ソラ様が心配そうに言います。

「いえ。大丈夫です。

 落ち着いています。

 なんだか、すでに、いろんなことを乗り越えたあとみたいに、落ち着いています」

 私が笑ってそう言いますと、ソラ様も、

「そうだね」

 と、朗らかに笑いました。

また明日、午後7時に投稿をします。

よろしくお願いします。

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