インゼクター
自動車には、ガソリンを発動機に入れるための器材をインジェクターと言うらしい。私はインジェクターと聞くと、蒸気機関車の注水器を思い浮かべる。ちなみにインゼクターとインジェクターは同じだ。訛りと考えてもらえればいい。他のものがインゼクターと呼ばれてたらそれは知らん。
蒸気機関車の給水系統は二つある。一つがこの注水器、もう一つが給水ポンプだ。注水器の原理は簡単。蒸気が冷やされれば水になり、真空を生ずる。その真空の負圧で水を吸い上げる。確実に水が入るが蒸気を消費するので、力行中はあまり使わない。しかもボイラーに冷水が入るので、圧が落ちる。給水ポンプは機関車の右側につく、縦型のあれだ。あれに蒸気が入り、ピストンを動作して動かす。十四、五気圧のボイラーに給水するので、相当な高圧だ。そして給水温め器があり、そこで水温が百度となりボイラーに入る。十四、五気圧では沸点が二百度なので、沸騰しないのだな。ただ、シリンダ排気で温めているので、惰行や停車中はシリンダ排気がないから、冷水注入になる。インゼクターとの使い分けがここにある。
注水器で水を入れ、止めたあとも蒸気と水の混合物が管に残るから、これを排出する。あの『さよなら銀河鉄道999』で、機関車から出ていた蒸気はこのインゼクターの排水である。『ある機関助士』という映画でも、機関士がホームに降りた直後に出る蒸気がこれだ。