魔風海域 - ウィキパディア
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ページ/ノート
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魔風海域
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魔風海域とは極東アジアの一部海域で発生している原因不明の未知の現象のことである。
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目次
1.概要
2.位置
3.出現
4.現象
5.周囲の影響
6.オカルトと科学
7.エンゼルダストとエンゼルヘアー
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概要
ユーラシア大陸の極東に存在する侵入不可能な海域。
1270年代、火山性群島を呑み込む形であらわれたとされ、正体不明の“黄金色の嵐の壁”は、今世紀の技術力をもってしても突破できず、内奥の現在の様子はまったくわかっていない。
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位置
中国の東方(朝鮮半島沖)から、ロシア極東島嶼領近海まで、南北に長く弧状にひろがる海域。
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出現
中国の古い歴史資料によると嵐の海域は中世に出現し、そこには火山性の群島と現地住民の国があったとされる。
現地国家は独自の歴史と文化をもち、当時、戦士階級が実効支配する封建国家が存在していたらしい。変化の原因はモンゴル帝国の脅威で、帝国の使節を戦士の王が斬殺したことから戦争になった。
魔風海域は、モンゴルの遠征艦隊の来襲を阻むかのように出現し、ただの一隻も帰還しなかった艦隊は嵐に呑み込まれたとみられる。
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現象
魔風海域の異様さは3点ある。
・巨大な勢力を保ったまま、あらゆる気象学的常識を無視して消えず、動かず、切れ目を作らない不変の暴風圏。
・ハリケーンのような横回転の渦と異質な、垂直に打ち上げ、叩き落とす「縦回転の渦」が生まれていること。暴風の壁はこの横向きの竜巻がいくつもからみあったもので他に類を見ない。魔風海域に関する最古の史料『伝・倭神断簡』はこれを“ 四方を閉ざすシメナワの壁 ”と呼んでいた(シメナワが何を指すか諸説あり)。異常な嵐は海面を叩き、ほかの海域にない複雑な波浪を生み出している。
・欧米諸国で「エンゼルダスト」と称される微小な未知の綿状物質が、空気中をただよっている。魔風海域最大の謎とされ、どこからか尽きることなく生成されて、広大な暴風域全体を黄金色に輝かせている。
これまで何万もの人間が魔風海域に挑み、多くの遭難者や未帰還者を生んだ。大航海時代以降、遠く離れた欧米からの探検者も加わったが、さまざまな種類の船舶や航空機、気球、観測ロケットなどの挑戦はすべて失敗した。
乗り物や探査機械の遭難や破壊はほとんどが嵐の領域に踏み込んで数分〜10数分で起こり、奥へ進んだものもエンゼルダストの干渉で行動不能にされて嵐に破壊された。
近年『海中からのアプローチ』が何度か試みられたが、嵐の下をくぐろうとした潜水艦は、いずれも海面下で異常な乱流や黄金色の泥流に遭遇して撤退を強いられた。1999年には特殊作戦用のアメリカの攻撃型潜水艦一隻がこの海域で行方不明となっている。
最新科学の長距離・超長距離観測は、今のところ満足できる成果をつかんでいない。強力なレーダー電波や放射線さえかき乱す未知の要因や、人工衛星の異常な故障頻度の原因を解明しない限り、科学的に信頼のおけるデータは得られないとみられる。
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周囲の影響
魔風海域の嵐は巨大な壁となって地球規模の大気の動きを阻んでいる。歴史的情報の分析から、魔風海域出現によりシベリアから中国南部にかけての広い地域で寒冷化と乾燥化が急速に進行しており、東アジアや北太平洋の広範囲の気圧分布や気流が激変したと考えられている。大気だけではなく、東太平洋の黒潮・親潮の「ねじ曲がり」にも関わっているとされるが、過去の情報の蓄積が足りずメカニズムや影響の規模は推論にとどまる。
・中国
魔風海域発生前、勢威をふるったモンゴル帝国(元王朝)は異常気象の影響でさまざまな混乱を経験した。だが、圧倒的軍事力を背景にした中国統治は揺らがず、モンゴル人は気候変動に乗じて旧南宋領土の牧地化さえ一部で断行した。その後、新たな自然環境下で中国本土の農林業や牧畜は再編され、モンゴルが衰退すると漢民族の新たな王朝が勃興した。歴代「新中国王朝」は、寒冷化した中国北部から南部(旧南宋領)に軸足を移し、大人口を養うため海外貿易にも力を入れた。東南アジアに海外領土をつくる皇帝さえあらわれたが、どの王朝も侵入不可能と断定して魔風海域に関わろうとせず、朝鮮半島や台湾、琉球に西洋列強が拠点を置き、魔風海域へ挑みはじめても関心を示さなかった。
・伝・倭神断簡
現存しない幻の本で、20世紀前半まで中国歴代王朝の皇帝に引き継がれてきたとされる。元王朝の色目人(西洋人)が「魔風海域」の正体を見定めるべく、南宋滅亡で忘失・散逸した歴史文書を再編し、さまざまな民間資料や注釈を加えた研究報告だと言われる。再興された漢民族王朝へもたらされ、魔風海域への中国王朝の姿勢を決定付けた。
「魏和団事件」において西洋列強の軍隊が南京の紫禁城を襲ったさい、焼失したとされていて正確な内容は不明だが、過去に一度だけ写本が作られようとしたことがあり、未完のこの事業に関わった学者の覚書にわずかな情報が残されている。それによると「ワノクニ」の民が信仰する古い神や霊山、異能の仏僧が列記され、キドー、ヒミ、アマテラス、ジンキ、フジ、ハルアキ、クウカイ、シュゲン、ニチレン、ハチマンなど、人の名や意味不明の語句が記されていた。
・朝鮮
朝鮮半島は、21世紀の今日も自然災害が多発しエンゼルヘアーが降る貧困地域である。
魔風海域が生まれたさい、この地には朝鮮民族の高麗国が存在した。だが、当時の王朝は戦費の捻出などで疲弊しきっていた上、吹き寄せるエンゼルヘアーを恐れて民衆以上に惑乱した。ついには国王と王族、側近たちが王都の民衆、さらには多くの官僚たちさえ置き去りにして中国国境近くまで逃げ去る醜態を見せ、王国はあっけなく崩壊した。
朝鮮半島の無政府状態はこのときから始まり、ロシア帝国が19世紀に朝鮮半島へ進出して属領「コリアスタン」をうち立てるまで、じつに500年もの長い年月続いた。
・朝鮮海賊(鮮賊)
朝鮮半島の長い貧困と無法の時代に生まれた海上武装勢力。半島西岸と島嶼に根付き、中国本土沿岸からベトナム、フィリピンにまで帆船を連ねて押し寄せ、奴隷貿易と略奪で財を蓄えた。
大航海時代、西洋帆船と火器に一時圧倒されたが、本拠地近辺で亀甲船とよばれる独自の装甲ラムシップを繰り出して討伐艦に対抗し、やがてさまざまな方法で洋式造船術や火器を奪って勢力を盛り返した。
19世紀、ロシアのコリアスタン樹立により半島から離れた島嶼に根城を移したが、船材(木材)や人員、水を得ることが難しくなって徐々に力を失い、20世紀はじめ、朝鮮海賊による欧米の大型客船の連続襲撃事件を契機に英仏独露米中の6ヶ国の歴史的協調が成立。二年にわたる対海賊戦争(通称: 鮮滅戦争)が行われ、非道で知られた武装勢力は根絶された。
・欧米諸国
大航海時代、魔風海域は「黄金の国ジパング」を守る暴風の城壁として知られていた。
黄金と宝石で富貴を極めた極東の島国、それがジパング。モンゴルの侵略が迫った時、かれらは奇跡の神風を呼び、国の周囲を黄金の嵐で閉ざしたが、無限の財宝は今も嵐の奥に眠っている。来るべき日、モンゴル帝国の滅亡と平和の訪れを伝えた者は、ジパングの民に偉大な王として迎えられ、不死と富を我がものにできるだろう(民明書房刊「東方黄金実録」)。
ジパングを西洋に伝えたのは、元王朝に仕えて魔風海域を実際に見たと称するイタリア人で、かれはそれまで何冊もの旅行記をあらわし、中東やインドの貴重な情報をヨーロッパに伝えてきた。「黄金実録」は旅行記の最終巻にあたり、何十という写本が豪商や貴族、王族にもたらされて多くの人の関心を呼んだ。黄金の王を夢見て、数多の冒険家が船隊を組織して極東へ渡り、魔風海域到達の報が届いた時には、ヨーロッパ全域で黄金の価値の暴落、鉱山や作業所閉鎖が実際に起きた。
しかし、実際には誰もジパングへの「平和の使者」になれず、黄金が津波のようにヨーロッパに運ばれることも無かった。だが、その後も欧米人の魔風海域への関心は根強く、ドイツやフランスは海域探索の拠点をにするため台湾や琉球を植民地にした。
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オカルトと科学
科学は魔風海域の謎を解明できず、黄金の嵐の壁も突破できずにいる。この事実は欧米人の意識に大きな影響を与えた。
世界へ広まろうとした科学万能主義は疑問符をつけられ、反科学やオカルト、十字教原理主義は巨大で不可侵の神秘(魔風海域)をテコに大きな影響力をたもった。21世紀の今日もヨーロッパの一部の国では、公然と反進化論教育や奇跡医療が実行され、中世暗黒時代さながらの飢餓や貧困、伝染病の蔓延する地域もみられる。
一方、同じヨーロッパで19世紀後半から、神秘主義思想や反科学の宗教勢力と争う社会運動がはじまった。科学者や文筆家、一部の政治家が中心となり、科学の限界を認めつつも反科学の迷妄と狂信は文明社会を破産させると主張。新しい世代への科学教育を強く推進した。
「プロメテウス運動」と呼ばれる活動は、主導権を握った国で資源開発や機械技術、外科医療などの発展を強く後押ししたが、暴走や錯誤も少なくなく、深刻な環境汚染といった新たな問題が生み出される中、反公害・自然保護活動を樹霊崇拝(自然崇拝)と同一視してはげしく敵対した。
神秘主義サークルや十字教原理主義勢力、プロメテウス運動は、各国で有力者の動向や世論を左右する大きな影響力をもっている。現在両勢力は、主導権が不明確な北米大陸と、魔風海域を取り囲むアジア諸国(植民地)の二ヶ所で激しく争っている。
さらに、後者の魔風海域では20世紀末、どちらにも属さない富裕なカルト教団が大規模な軍事拠点を島嶼に築いて、混乱に拍車をかけた。彼らはかねてから「超科学をあやつる宇宙人」が海域の創造者だと主張し、既存の宗教勢力を敵視していたが【蜂起】の後、東洋人の教祖がコンタクトに必要な「瞑想進化」を終えるまで、魔風海域への俗人の接触を武力で排除すると宣言した。
カルト教団は、近隣の第四次中越紛争の関係国(現地人部隊)から、英仏が軍事援助した大量の新型兵器の一部を手に入れていた。さらに不遇な傷痍軍人や不名誉除隊者を多数教団に取り込むことで、青少年の信徒たちを本格的に軍隊化していた。自爆兵の養成や毒ガス兵器の生産貯蔵も噂され、かつての朝鮮海賊をはるかに凌ぐ脅威となってきている。
疑似科学に染まり、大量殺戮兵器の使用も辞さない狂信者集団の出現。それはとくにプロメテウス運動に大きな衝撃を与えた。人類社会の混乱を正し、間違った歴史を終わらせるには、巨大な神秘を解体するしかないとの声があがり、魔風海域の有人探索計画の凍結解除が取り沙汰されている。
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エンゼルダストとエンゼルヘアー
・エンゼルダスト
魔風海域の最大の謎で、現代科学のほとんどあらゆる分野の専門家(とくに物理・化学分野)を悩ませる未知の微小物質。自ら光を放つような黄金色で、綿毛のように軽く舞うが、魔風海域全体を覆い隠してどこからか尽きることなく生みだされている。金色のちりは海域の外へ流れ出たり、人やもの、海面にふりかかると空気に溶けるように消失する。このため、現在まで「エンゼルダスト」のサンプル回収や分析に成功した事例はない。奇妙なことに、ある程度海域の奥に侵入した人やものには「エンゼルダスト」が付着するようになる。探索者の視界をふさぐだけでなく、崩壊もせずにまとわりつき、人間であろうが大型船であろうが第三者が見ると黄金の雪像のようにしてしまう。一部の学説によると、エンゼルダストはその状態から熱エネルギーを奪って凍らせていくと言われている。
・エンゼルヘアー
「エンゼルヘアー」は、魔風海域の外へ何らかの要因で崩壊しないまま飛ばされた「エンゼルダスト」の変性物と見られる物質である。はるか上空より長く細い金色の糸が数千本からときに数億本、ふわふわと地上へ落ちてくる。よく見られるのは魔風海域の近隣で朝鮮半島は特に多い。まれに北アメリカやヨーロッパに降ることがあり、毎回大きな話題になる。第一次大戦初期に起きた「エンゼルヘアー」現象は偶然クリスマスと重なり、両軍将兵があまりにも幻想的な光景に戦意を失い、最前線で勝手に『クリスマス休戦』がはじまった。
「エンゼルダスト」がどのようにして長く美しい「エンゼルヘアー」へ変わり、はるか遠くまで飛ばされるのか。さらにいったん降るとなぜ分解消失する特性を取り戻すのか、まったく分かっていない。
この魔風海域の記事の執筆はK John・Smithとボイジャーによる共同執筆によって行われました。
【原案:K John・Smith 編集:ボイジャー】




