レベル8 お昼ご飯だネ
「あと三十分くらいでダンジョンに着きそうだ」
俺たちは村を出てから大体三時間ほどダンジョンへと続く草原を歩いている。今日は気温も高くないので、歩き続けることはそこまで苦にならない。
「もしもダンジョンに先客が居たらどうしますか?」
「その可能性もあるな。その場合は諦めてその辺で適当に狩りをして帰ろうかなぁ」
村からは割と近いダンジョンで、出てくるモンスターも弱い。なので他の冒険者とかち合う可能性は十分にある。
「ナワバリに勝手に入ったらどうなるか教えてあげなきゃネ」
一度も行ったことない場所を縄張りとして主張するのはちょっと……。
「暴力は良くないですわ。やっぱり同じ冒険者同士、助け合うべきですわ」
ユリカが珍しくまともなことを言っているような気がする。さっきの一件以降、かなり機嫌が良いようだ。今なら、今まで盗まれに盗まれまくったパンツを返してくれるかもしれない。会話の流れでさりげなく聞いてみよう。
「確かに冒険者同士仲良くするべきだな。ところでユリカ、俺から盗んだパンツを返してくれないか?」
おっと、ちょっと不自然だったかな? まあなんとかなるだろう。
「ええっ、アキラは私にこんな場所でパンツを脱げと言うんですか!? 流石の私もちょっと引きますわよ」
盗んだパンツをはいてるのかよ。その行動に俺はドン引きだよ。
「さすがにそれは私も引くぞ……」
「ほら、カンナも引いてますわ。変態発言は慎んでくださいねアキラ」
どう見てもカンナはユリカに引いている。変態の称号を俺になすりつけないでほしい。
「まあまあ、ユリカはきっと過去に色々あってこんな風になっちゃったんだヨ。もう手遅れかもしれないけど、私たちだけでも優しくしてあげようヨ」
「そうだな……。悪かったな急に返せなんて言って。ユリカにも事情があるんだよな」
「私も偏見の目で見てしまってすまない。反省しよう」
「えっ、えっ、やめてください。私をそんなかわいそうな人を見る目で見ないで欲しいですわ」
やはり多少は罪悪感を感じていたのか、俺たちの言葉を聞いてかなり焦っているようだ。
しばらくオロオロしていたもののやがて冷静さを取り戻し、少し考え込んだ後、決意を秘めた目で俺に話しかけてきた。
「い、今まで勝手にアキラのパンツを盗ってしまって申し訳ないですわ」
深く反省したように見える表情で謝罪の言葉を口にするユリカ。
「私、アキラの気持ちを全然考えてなかったですわ。もう盗むような真似はしませんわ」
どうやらわかってくれたようだな。ちょっとやり過ぎてしまうだけで、きっとユリカも根はいい子に違いない。うん、きっとそうだ。
「これからはちゃんと、お金を払ってアキラのパンツを買い取りますわ!」
全然わかっていなかった。
「違う、そうじゃない」
「違うんですか? てっきり私は価値に見合ったお金が欲しいんだと思っていたのですが……」
「俺にパンツを売るような趣味はない」
「あっ、ダンジョンが見えてきましたわ! やっと到着ですわね」
そう言いながら一目散にダンジョンの入り口へと走っていく。どうやらこの話をうやむやにするつもりのようだ。
「ユリカの魔の手の犠牲になってしまったアキラのこと、私ずっと忘れないヨ」
「おきのどくですが、アキラのパンツはきえてしまいました」
「好き勝手言うんじゃない」
仕方ない、今回はこの辺で妥協しておこう。おっさんに盗まれているとかなら大問題だが、ユリカは一応可愛い女の子だ。男として可愛い女の子に好かれているのは悪い気はしない。いつの日かユリカもわかってくれる、そう信じよう。
それから俺たち三人は適当に雑談しながら歩き、ダンジョンの前へと到着した。
「ここがダンジョンか。やっぱり初めてのダンジョンってことで緊張するな」
攻略本で出現モンスターやダンジョン内の構造がわかっているとはいえ、怖いものは怖い。もしも思わぬ強敵が現れたらとか、洞窟が崩落したらどうしようとか考えてしまうと、さらに恐怖心が広がってくる。
「お腹も空いたことだし、ダンジョンに入る前にお昼ご飯を食べないか?」
俺が洞窟の中を覗き込んでいると、後ろからそんな声がかかる。
「実は弁当を作ってきたんだ。料理にはあまり慣れてないから自信はないが、何も食べないよりはマシだろう?」
そういえば腹が減った。俺は今日昼飯を用意してきていない。地図ではそこまで距離があるようには見えなかったので、すぐに攻略し終わって村に帰れるだろうと思っていたからだ。
ユリカも俺と同じような理由で昼飯を持ってきていないらしい。キナコは現地に生えている草でも食べればいいと思っていたみたいだ。流石にそれはワイルドすぎるだろう。
ということで俺たちは、カンナが作ってきてくれた弁当をありがたくいただくことにした。
「おお、美味そうじゃないか」
カンナが用意してくれた弁当は、サンドイッチとウサギ肉を煮込んだ料理だ。
サンドイッチにはベーコンやレタスのような野菜、トマトのような野菜が挟んである。色鮮やかな見た目が食欲をそそる。
ウサギ肉の方は、ハーブでも入っているのかタレからとてもいい匂いがしている。非常にうまそうだ。
「いただきますわ」
よほどお腹が空いていたのか、ユリカは勢いよくサンドイッチを食べ始めた。
「おいしいですわ!」
弁当の味に満足したらしく、満面の笑顔を浮かべている。
俺も腹が減っていたので、サンドイッチを一つ手に取り思い切りかぶりついた。
「……うまい」
サンドイッチの味は予想以上だった。単純にうまいというのもあるが、なんというかクセになる味なのだ。一つ食べるとついついもう一つ食べたくなる、そんな味だ。
すぐに一つ目のサンドイッチを食べ終わり、二つ目を食べ始める。ユリカもキナコもひたすらカンナの料理を食べている。話す間も惜しんで無言でひたすら料理を口に運んでいるので、相当この料理を気に入ったようだ。
俺も二人に負けずに料理を食べまくる。うまい、なんてうまいんだ。
「おいおい、そんなに食べすぎるなよ」
なんでこんなにうまいんだ。一体どうやってこんな料理を作ったんだろう。
「あんまり食べ過ぎると」
肉の方も最高だ。食べ始めると止まらないな。
「副作用が出るかもしれん」
ブフーッ! 三人そろっていっせいに飯を吐き出した。
「おい! 副作用ってなんだ! テメー飯に何入れやがった!」
「クセになる調味料を少々な」
「怪しげなモンを料理に入れてんじゃねえ! ユリカ、キナコ、カンナを押さえつけてくれ」
「任せてヨ!」
「罰を受けてもらいますわ」
二人に押さえつけられたカンナに、サンドイッチと肉を思いっきり流し込む!
「な、何をする。うわあぁぁぁぁぁ」
普段まったく料理をしないカンナの飯がこんなにうまいなんて、おかしいと思ったぜ。酷い目にあった。
「ゲホッ、ゲホッ、酷い目にあった」
「それはこっちのセリフだ!」
「そう怒るな。副作用といっても少々眠くなる程度だ。それに大量に食べない限りは心配ない」
「ダンジョンで眠くなったらヤバいんだが」
「うっ、……すまない、悪かった」
反省しているようだし、今回は許してやるか。別に悪気があったわけじゃなくて、俺たちにおいしいものを食べて欲しかっただけみたいだからな。
「次は薬に頼らずに美味しいものを作って見せる」
「期待しているよ」
こうして俺たちの昼食は終了した。




