レベル29 俺にとっての、最高の一撃
「修行の成果を見せる時だ! 絶対勝つぞ!」
「薬でもうろうとした意識の中で殴り合った成果を見せる時だネ!」
「前門の魔物、後門の味方ですわ。厳しい修行でしたわ」
そんな怪しげな修行だったかな? うん、途中からそういう修行だったかもしれない。言葉にして言うと軽く引くような特訓だな。
「お前らそんな事やってるのか……。仲が悪いのか?」
ウルモフが危険人物を見る目をこちらに向けながら後ずさっていた。勇ましく「ゆくぞ!」とか言っておいて引いてんじゃねぇよ。来るのか来ないのかどっちなんだ。
「私たちは親友ですわ! 友情は永遠に不滅ですわー!」
地を蹴って走り出したユリカが、ものすごい速度でウルモフ三世へと向かって行く。
流石ユリカだ。ボスモンスターから不審者扱いされるという状況にまったく動揺していない。不審者扱いされることに完全に慣れている!
我に返ったウルモフが拳に殺意を握りしめユリカへと殴りかかる。しかしユリカはその拳をギリギリのところで避け、モフモフなみぞおちへと強力な拳を繰り出した。クリーンヒットだ。ウルモフの顔が、苦痛にゆがむ。
「ユリカに遅れるな! 俺たちも続くぞ!」
「私の新しい力を見せてあげるヨ!」
弓を構えるキナコだが、その手には矢を持っていない。どういうつもりなんだと思って見ていると、なんと炎で出来た大きな矢が突然キナコの手に出現した。
「これが攻撃魔法だヨ。フレイムアロー!」
放たれた炎の矢は一直線に標的であるウルモフへと向かって行く。ウルモフは回避しようとしているものの、ユリカのボディブローのダメージが足にきていて思うように動くことができていない。
その結果、炎はウルモフのモフモフを包み込み、完全に燃え上がった。すごい威力だ。攻撃魔法ってこんなに強いのか!
「すごいじゃないかキナコ!」
「かしこさが欲しい、バカから卒業したいっていう願いが通じたんだヨ」
もしかして、かしこさが高いものほど魔法を覚えやすいっていう攻略本の一文をずっと気にしていたのか!?
「残念ながらキナコ、魔法を覚えたらかしこくなるんじゃなくて、かしこくなったら魔法を覚えやすくなるんだ。ステータス表示のかしこさの数値は上がったのか?」
「!?」
そんな裏切られたみたいな表情をしないでくれ。別にいいじゃないか、過程はどうあれ強力な魔法が手に入ったんだから。
「な、何を言っているのだアキラよ……」
ここにも一人同じように裏切られたような表情をしているヤツがいた。カンナ、お前もか。お前も魔法を手に入れたらかしこくなれると思っていたのか。
正面を向くと、ウルモフを包んでいたい炎は段々と勢いをなくしてきていた。そろそろだな。このくらい熱が収まれば、近づいて攻撃できそうだ。
俺はタイミングを計ってから、炎をまとったウルモフへと走り出した。両手でブロンズソードを構えながら、ぐんぐんと距離をつめていく。あと少しだ。あと五歩も走れば、剣の攻撃範囲へと入ることができる。
「調子に乗るなよ!」
その時、炎を完全に振り払ったウルモフが、こちらへと大口を開ける。中から漏れてくるのは、強烈な熱。さっきのお返しとばかりに、燃え盛る火炎をはいてきたのだ。
まずい! 距離が近すぎて回避できない!
「私に任せろ! リジェネレートヒール!」
カンナが唱えた魔法が光になって俺を包み込む。そしてウルモフの炎も俺を包み込む。魔法の光と視界一面の火炎のせいで何がなんだかわからない。まぶしい! 熱い!
俺はがむしゃらに正面に向かって走り出す。火炎は熱いが、ダメージを受けたそばからHPが回復していっている。そうか、カンナが唱えた魔法は、HPを徐々に回復させる魔法か。
強力な熱量を持つ炎を突破した俺の眼前にいたのは、必殺技を出し終わりスキを晒しているウルモフ。無傷で突破とはいかなかったが、HPはまだ半分くらい残っている。体もちゃんと動く。イケる、チャンスだ!
「くらえぇぇぇぇぇぇ!」
振りかぶったブロンズソードに、稲妻のような魔法がほとばしっていく。あの日、修行の末に覚えた初の攻撃スキル、ライトニングスラッシュだ。
あっという間にMPが消えていくが、かまうものか。このチャンスに、最高の一撃を叩きこんでやる。
まばゆく輝く雷となった俺の剣がウルモフを切り裂いていく。雷の魔力が、衝撃となってウルモフに襲い掛かる。手ごたえはあった。間違いなく大ダメージを与えたことだろう。
スキルを出し終わった俺は一旦距離をとる。かなりの手ごたえだったが、油断してはいけない。相手はボスモンスターだ。むしろ本格的な戦いはこれからだろう。
俺とユリカは一度カンナたちのところへと戻り、ウルモフの反撃に備え武器を構える。
ライトニングスラッシュの衝撃で舞った土煙が、風に吹かれて消えていく。そして視界が完全に晴れたそこにいたのは、地面に寝そべるウルモフだった。
「グゴゴゴ、まさかこの我が一ターンで倒されるとは……」
「えっ? 何言ってるんだ?」
「何をって、尊敬する魔王様が倒された時に言いそうなことを模倣しているのだが」
ちげーよ! そんなどうでもいい事を聞きたいんじゃない。
「はぁ、俺がいくら魔王様が言いそうなことや立ち振る舞いを真似しても、魔王様のように強くなることはできなかったなぁ」
もしかして、本当にこれで終わりなの?
「魔王様バンザー……イ。ぐふっ」
いやいや、こんな簡単に終わるわけがない。これはあれだ、死んだフリだ。油断したところに一撃必殺の攻撃を叩きこむ作戦に違いない!
*レベルアップ! アキラはレベル16に上がった!*
……。どうやら本当に終わったみたいだ。
俺の目の前には、ドロップアイテムとして狼の毛皮が落ちていた。
「……いつも通りの戦いだったな」
「……いつも通りですわ」
「……いつも通りだネ」
本当にいつも通りだな。なんだろう、このやりきれない思いは。無事魔物を倒せたのは良い事なのに。
「私が想像していたボス戦の話を語ってもいいか?」
「今は聞く気になれないからまた今度な。さっさと帰ろうぜ」
「強力なスキルが決まりダメージを期待する勇者一行。しかし煙が晴れた先にいたのは、無傷のボスだった。『フッフッフ、その程度か。ぬるい、ぬるすぎるわ』ボスが振り下ろした拳が空気を切り裂き衝撃となって……」
「帰るぞー」
「待ってくれ! 迷いの洞窟で置いて行くとか洒落にならんぞ!」
色々な意味で疲れた俺たちは、ドロップアイテムをさっさと拾い、洞窟を後にして村へと帰還したのだった。
◇
「アキラたちが帰ってきたぞー!」
「アキラ以外は対してダメージを受けていないみたいだな」
「というか早すぎる」
「どうせ逃げ帰ってきたんだろ」
村へと到着すると、沢山の村人たちが村の入り口に集まっていた。その集団の先頭にいるのは女将さんたちだ。
「みんな無事に帰ってきたんだね! 本当に良かったよ!」
「ただいま女将さん」
「逃げることは恥でもなんでもないからね。大事なのは、立ち向かう勇気よ」
討伐の依頼をした張本人なのに、討伐の失敗を確信しているなんて。酷い。
「ちゃんと倒しましたよ。例の狼」
「避難の準備は三日前から完了しているから安心して……、えっ、倒したのかい!?」
アイテム袋からウルモフの毛皮を取り出して、集まったみんなに見せる。
「これが証拠です」
「どれ、ちょっと見せてもらいますぞ」
女将さんの後ろからぬっと現れたのは、警備兵長のゴンザレスさんだ。ケガはもういいのかな?
ゴンザレスさんは毛皮をつかむと、おもむろに毛皮の臭いをかぎだした。
「ふむ、ふむふむ。この絶妙な汗臭さ、間違いない。私が作った煙玉の臭いがしみ込んでますな。これはヤツの毛皮で間違いありませんぞ」
「汗臭さですか?」
「ええ、その通りです。ヤツへと使用した煙球には、警備兵たちの訓練の賜物である汗汁を配合しております。だから臭いで一発でわかるのです」
毛皮を鑑定すると、確かに汗臭いウルモフの毛皮と表示されていた。良さそうなボスドロップが、一瞬でゴミと化した。
「ちなみに私は鑑定スキルを持っています。スキルでも確かめた結果、これは確かにヤツ、ウルモフのモノですな」
スキルがあるなら最初から使えよ。なんでわざわざ汗臭い毛皮の臭いをかいでいるんだ。
「その毛皮は警備兵たちに寄付します」
「いいんですか? 強力な魔物を討伐してもらった上に、その素材までいただいてしまっても」
「いいんです。俺たちには必要ないですから」
「必要ないのですか。やはりヤツを短時間で倒せるほどの冒険者ともなると、良い装備や素材をお持ちなんですね」
良い素材なんて持っていない。ただ、その素材が悪すぎるだけだ。誰が好き好んで汗臭い毛皮で装備を作るんだよ。
「皆の衆! 確かにキラーウルフは討伐されました! 警備兵長であるゴンザレスが保証します! もう避難の必要はありません! この村は安全です!」
「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」
ゴンザレスさんの宣言に合わせて、村のあちこちから雄たけびのような叫び声が聞こえてきた。
「宴だ! 宴をやるぞー!」
「冒険者様バンザーイ!」
「明日は休みだから今日は徹夜で飲むぞ!」
「明日も休みの間違いだろ! オメー働いてねぇじゃないか」
「酒と料理を準備しろ! 今日は村総出で宴会だ!」
「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!」」」」」」
村長の一声により、男たちが酒と料理を求めてあちこちへと散っていく。
日が暮れた頃から始まった宴会は大いに盛り上がった。不安から解放された喜びをぶつけるように、村人たちは酒を飲み、踊り、料理を楽しんだ。
楽しげな話声はいつまでも続き、そして夜が明けた……。




