レベル27 まだだ、私はまだいける
警備兵たちの話によると、まだ狼のレベルが低い時にゴンザレスさんが与えたダメージは軽くはないので、狼がすぐに村へと襲ってくる可能性は低いとの事だ。
女将さんたちと話し合った結果、狼討伐は三日後に決まった。
今日と明日でできるだけ準備を整え、万全の状態で挑むという計画だ。
「今のうちにやれる事をすべてやるぞ」
「やれる事ってなんですの?」
「そんなの決まってるだろ。――レベル上げだ」
◇
俺たちがやって来たのは、迷いの洞窟の北にある森、レバの大森林だ。この場所はレバ村周辺でもっとも強い魔物が出る場所なので、レベリングに最適だろう。まあ、強いと言ってもレベル的には格下なのだが。
「みんな、パンツ……パワーアップアイテムは装備したか?」
「うむ、もちろんだ」
「装備したヨ」
「肌身離さず持ってますわ」
全員攻撃力が二倍になったのを確認する。これだけの攻撃力があれば、おそらくこの森の魔物を一撃で倒せるはずだ。
「よし、作戦を発表するぞ。森をある程度進んだら、キナコはくちぶえを使いまくってくれ」
くちぶえとは、魔物を呼び寄せるスキルだ。ゴロツキたちを呼び出した時に使ったきりの影の薄いスキルだが、今日はこのスキルが大活躍することだろう。
「吹くのはいいけど、魔物が沢山集まり過ぎると思うヨ。大丈夫かナ?」
「大丈夫だ。カンナ、例のモノは持ってきたか?」
「大量に用意した。存分に使ってくれ」
カンナが持ってきたアイテム、それは謎の白い粉Gだ。大量の魔物を、高性能な回復アイテムを使いゴリ押しで倒しまくる。これが俺の作戦だ!
「大丈夫なんですの? その粉、副作用があるんですわよね」
「使命に燃えている私たちが薬の副作用に負けるわけなどない!」
「気合で何とかするんだヨ!」
「ええっ……、すっごく不安ですわ」
大丈夫だ、俺の作戦に穴はない。ちゃんと対策を考えてある。
「この期に及んで状態異常をレジストできないような軟弱物はいないと信じている。しかし、時には薬の誘惑に負けてしまうこともあるだろう。その時は……慈悲の篭った腹パンで起こしてやろう!」
対策とは至極単純。強い衝撃で目を覚まさせようというものだ。当たり所が悪くてうっかり大ダメージを与えてしまったとしても、また回復薬を使えばいいだけだから何も問題はないな!
「思いっきり行くからネ! 覚悟しておいてネ」
「私の拳は重いぞ。泣いても知らんからな」
「俺も全力で行くぞ」
「私もですわ!」
「「「いや、ユリカは手加減してくれ!」」」
「なんでですか!?」
拳スキル持ちのユリカに全力で殴られるとか、内臓がヤバい。俺は状態異常をレジストできない気合の足りない男では断じてない。しかし、万が一ということもあるからな。
俺たちの説明を聞いたユリカはしぶしぶだが納得してくれた。ふぅ、命はつながったか。
話しているうちに森の奥へと到着したようだ。そろそろいいだろう。
「キナコ、頼む!」
「任せてネ!」
ピーヒャララー
レッドベアーが あらわれた! オオトカゲAが あらわれた! オオトカゲBが あらわれた! ソードスパイダーAが あらわれた! ソードスパイダーBが あらわれた!
「みんな、戦闘開始だ!」
「「「おー!」」」
◇
あれからどれだけの時間がたったのだろう。気が付けば辺りは真っ暗だった。木にくくり付けたたいまつの明かりを頼りに、俺たちは不眠不休でひたすら経験値を稼いでいる。
「ユリカ! そっちに二匹行ったぞ!」
「了解ですわ!」
巨大な二匹のキラーカマキリから放たれる斬撃をギリギリでかわしながら、その胴体へと拳をめり込ませていく。
ユリカの戦いぶりを横目で見ながら、正面から襲ってきたソードスパイダーを切り捨てる。俺の隣ではカンナがメイスを振るい、不意打ちを仕掛けて来たオオトカゲを殴り付けている。カンナはユリカの隣で弓を使い、空から襲ってきたおおこうもりを打ち落とす。
ぶっ通しで戦っているからか、経験値稼ぎを始めた当初よりも、みんな明らかに動きが良くなってきていた。
「ユリカがオオトカゲにひっかかれたヨ!」
「薬だ! 薬をふりかけろ!」
そーれ、回復しろ! 回復しろー!
「うわあああ、辺り一面にパンツが舞っていますわぁ」
「ユリカが幻覚にやられたぞ! 殴りまくれ!」
「うおおおおお!」
「私の目覚めの拳をくらぇええ!」
「セイヤァァァ!」
「ぐっ、はっ、情けないところをお見せしてしまいましたわ。恥ずかしいですわ」
安心しろ、今日だけで何十回も見ているから見慣れたぞ。
「ぐっ、はぁぁぁ」
「今度はアキラがやられたヨ! 回復! 回復!」
「うおおおお、俺は世界一の勇者だ! 俺の剣技をくらえええ」
「これは幻覚を見ているのか!? それとも正気なのか!?」
「取りあえず殴りますわよ!」
「そうだな! そりゃぁ! くらえ会心の一撃ィ!」
「全力で行くヨー!」
ドカッ、バキッ、ハァハァ。少し幻覚を見てしまったようだ。俺としたことが油断したぜ。ちなみに今日二十回目の油断だ。もっと気を引き締めよう。
「ぬわあああ!」
「またアキラがやられたぞ! 回復だ!」
「伝説の勇者の剣技をくらえぇぇぇぇ!」
「回し蹴り行きますわよ!」
「それじゃあ私は正拳突きだ!」
「私は巴投げいくヨ!」
ハァハァ、今日二十一回目の油断をしてしまったようだ。気合を入れて行こう。
「グ八ッ!」
「今度はカンナがやられたぞ!」
「私は薬を使いますわ!」
「私は殴る準備をしておくヨ!」
こうして時間は過ぎて行く。
◇
「ハァハァ、アキラよ。目がうつろではないか。もうギブアップか?」
「ハァハァ、カンナこそ、足がふらついているぞ。そんなんで大丈夫かよ」
「何を言う。私はまだまだ大丈夫だ。七十四時間、丸三日間ネトゲで狩りをしたときに比べれば、どうってことはない」
「丸三日だと七十二時間だぞ。全然だめじゃねぇか」
「細かいことは気にするな。ハァハァ」
二度目の夜を迎えてからというもの、みんな会話が怪しくなってきた。無理もない。ずっと休まずに経験値を稼ぎ続けているから、疲れが溜まっているのだろう。
疲労は溜まる一方だが、経験値の方もちゃんとたまっているようだ。二日目の昼を過ぎてから、薬を使う頻度がうんと減った。夜になってからは一度も使っていない。みんな、動きが洗練されてきている。ステータスの数字以外のモノも、しっかりと蓄積されているのが実感できる。
「みんな、ラストスパートだ! あと数時間頑張るぞ!」
「「「おー!」」」
ピーヒャララー
レッドベアーが あらわれた! おおこうもりAが あらわれた! おおこうもりBが あらわれた! ソードスパイダーが あらわれた! オオトカゲが あらわれた!
オオトカゲの突進を体を半身にしてかわし、スキを突こうとオオトカゲの真後ろから迫って来ていたソードスパイダーへと剣を突き刺す。
一つのことにこんなに一生懸命になるのは、生まれて初めてかもしれない。大好きなゲーム以上に、真剣にレベリングを行っている。
すべては、この世界で勇者になるため。子どもの時からの夢を、叶えるため。
疲労のせいでもうろうとする頭の中に、昔の記憶がよみがえる。
襲ってくる凶悪な魔物たちと戦い続け、いくつもの街や村を救った男。初めてプレイしたRPGゲーム、ワイバーンクエスト3の勇者。その男こそが、俺の理想だった。
どれだけピンチに陥ろうと、街の住人達から一切見返りがなかろうと、愚痴の一つも言わず、無言で、人々を助け続ける。その姿に、俺は憧れたんだ。
ただ単に、主人公にセリフが設定されていなかっただけなのかもしれない。本当は嫌々旅をしていていて、俺の理想の男は、ゲームの中にすら存在していなかったのかもしれない。
けど、それでもいいんだ。子供の頃にあれこれと空想した勇者の姿は、俺の心の中に確かに存在しているから。
昔夢見た理想の勇者がゲームの世界にすら存在しないのだとしたら、この世界で、俺が、その理想の勇者に――。
気が付くと、空が白ずみ始めていた。夢中で戦い続けているあいだに、夜が明けてしまったみたいだ。
そろそろ村へと帰ろう。午後には大事な戦いが控えている。村の未来をかけた、負けられない戦いが。
*レベルアップ! アキラはレベル15に上がった!*
*【称号】勇者への第一歩を手に入れました!*
*【称号】勇者への第一歩の効果により、【スキル】ライトニングスラッシュを習得しました!*




