レベル26 ウソをつくなんて酷いですわ
目を覚ましてベッドから降りた俺の視界に真っ先に飛び込んで来たのは、パンツにまみれて眠るユリカの姿だった。どうやら上手く手に入れてきたようだ。しかしあまりにも数が多すぎる。ユリカめ、必要のないモノまでとってきやがったな。こんなところを誰かに見られたら一貫の終わりなのでユリカを起こして片付けさせないと。
「アキラ起きてるかい?」
ユリカを起こすまさにそのタイミングで、宿屋の女将さんが勢いよく扉を開けてきた。まずい!
俺は鍛え上げたステータスにモノを言わせ素早く移動し、扉が完全に開く前に押さえつけて閉める。ふぅ、素早さの値が高くて助かった。それにしても、鍛え上げたステータスをどうでもいい事にしか使っていないような。逃げる時とか扉を閉める時とか。
「ど、どうしたんだいそんなに慌てて。何か見られたくないモノでもあったのかい?」
うっ、長年客商売をやっているだけあってカンが鋭い。嘘をついてもバレそうなので、ここは正直に答えよう。
「昨夜遅くまで起きていたせいか、ユリカが死ぬ一歩手前みたいな感じで眠っているんです。他の人には見せられない酷い状態なんです」
嘘は言っていない。ユリカの今の寝姿は(社会的に)死ぬ寸前だ。女将さんが一歩でもこの部屋に入って来たら、ユリカは死んでしまう。社会的に。
「ええっ、そんなに酷い状態なのかい? それなら準備ができたら食堂に来てもらってもいいかい? 少し話があるんだ」
話って何だろう。ゴブリンの塔で冒険者たちに状態異常をかけたことかな? それとも昨日のパンツ盗難事件のことだろうか。……はっ、いかんいかん。話があると言われて思い浮かぶものが悪い話ばかりだなんて、まるで普段から悪い事ばかりしているみたいじゃないか。
女将さんの話は俺たちにとって良い話。女将さんの話は俺たちにとって良い話……。よし、落ち着いて来たぞ。
「わかりました。すぐに行きますね」
「待ってるよ」
扉に耳を当てると、女将さんの足音が遠ざかっていくのが聞こえる。行ったみたいだな。
誰かが来る前に、急いで片付けさせよう!
「おはようですわアキラ」
「途中からだが話は聞いていたぞ。すぐに食堂へと向かおう」
「おはようなんだヨ」
俺が振り向くと全員起きていて、しかも準備万端だった。えっ、あれ、大量のパンツはどこ行ったんだ? それにみんな着替えるの早すぎだろ。
「ユリカのベッドにあった山森の盗難物はどこに消えたんだ?」
「何を言っているんですの? そんなモノ、最初からありませんわ。寝ぼけていたんじゃないですか?」
うーん、おかしい。そんなハズはないと思うんだけど。ユリカの言う通り寝ぼけていて、幻覚を見たのかな。
「あ、ベッドにパンツが一枚落ちてるぞ」
「そんなウソですわ! ちゃんと全部片付けたハズ……」
「ああ、ウソだぞ」
「あっ……」
やっぱり大量の盗難物があるんじゃないか!
「ユリカ、流石にあの量はやり過ぎだと思うんだが。村の女の子がかわいそうじゃないか?」
「待って下さい! ちゃんとレンタル料を置いてきていますわ! 家によっては、パンツをお金へと交換してくれるパンツの神様として奉られているくらいですわ!」
なんだよその存在から行動まですべてが怪しい神様は。やってることはただの変態じゃねぇか。
「そもそも、そのお金はどこから出てきたんだ?」
「警備兵の巡回ルートや開錠手段などの情報って売れるんですわ!」
誰に売れるんだよ誰に。怪しいヤツをこれ以上増やすんじゃない。
「アキラよ、女将さんが待っていることだし食堂に行かないか?」
「そうだヨ。ユリカが手遅れなのはわかり切ったことでショ?」
「確かに大分見慣れてきたせいか、若干どうでもよくなってきたな。食堂に向かうかー」
「ちょっと、私は手遅れじゃありませんわ! いたって健全な人間ですわ」
ユリカが健全な人間なら、俺は聖人だな。ハッハッハッ。
食堂に着くと、そこには宿の女将さん、道具屋のおっちゃん、BLブラザーズ……じゃなくて武器防具屋のおっちゃんが勢ぞろいしていた。一体これから何が始まるのだろう。
「思ったより早かったじゃないか。取りあえず座っておくれ」
女将さんに促され、席へと座る。みんなの視線がさっきから俺たちに集中しているのが非常に気になる。どうか悪い話じゃありませんように。
「時間もない事だし早速本題に入らせてもらうよ。あんたたち、最近この辺に現れた、人型の狼の魔物の話は知っているかい?」
もちろん知っている。ていうか実際にこの目で見てきた。しかし逃げ出したことを話すのは嫌なので、知っているとだけ答えておいた。
「知っているなら話が早い。実は今、この村の存亡の危機と言ってもいい状況なんだ」
かなり切羽詰まった様子だ。朝からおっちゃんが三人も集まっているのはそのためか。
「狼の魔物はすごく強いらしくてね。村の警備兵の連中でも歯が立たなかったくらいなんだよ。もしも魔物がこの村を襲えば、大変なことになるだろうね。だから警備兵の連中たちはそうなる前に、村の人たちを隣村へと避難させるべきだと主張してるんだ。だけどね、家や畑がある村の人たちは、それを渋っているのさ。この村に愛着があるから、離れたくないってのもあるだろうね」
隣村に逃げようとユリカが言ったときは、近くの村人たちがすごい目でこっちを見てきたっけな。あの話をしていた時にはもう、この意見は話し合われていたのかもしれない。
「それだけならまだいいんだけど、一部の冒険者たちは俺たちが魔物を仕留めてやるぜって息巻いててね。話し合いには避難推奨派と避難反対派、それから魔物討伐派が入り乱れてて、とてもじゃないけどまともな話し合いなんてできる状態じゃないんだよ」
警備兵の人たちが「避難しようぜ!」と主張すると、村人たちは「村から離れたくない!」と言うらしい。それに合わせて冒険者たちは「それじゃあ俺たちが討伐してやるぜ!」と言い、村人たちが冒険者たちに「是非頼む!」とお願いするみたいだ。冒険者たちは「俺たちに任せてくれ!」と言ったあとに「俺たちだけじゃキツいから警備兵の人たちも手伝ってくれ!」と協力を要請する。それを聞いた警備兵たちは「危険だから避難しようぜ!」と言うらしい。そして話は最初に戻る。
一日中こんな調子らしい。なんという無駄な一日だ。
「そんな目で見ないでおくれ。ここら辺は昔から危険な魔物が少ない土地として有名なんだよ。だから駆け出しの冒険者が多いし、村の人たちも、危険な魔物に対するすべをしらないんだ。しょうがないことなんだよ」
「取りあえず戦いに一番慣れてそうな警備兵の言うことに従っておけばいいんじゃないですか?」
「そう簡単に行かないから困っているんだよ。そこで、私たちから大事なお願いがあるんだ」
女将さんが世間話モードから一転、初めて見るくらいの真剣な雰囲気へと変わる。
「アキラたちに狼の魔物を倒して欲しいんだ。私たち四人からの依頼、受けてくれないかい?」
それは、思ってもみないお願いだった。自分で言うのもなんだが、俺たちの評判は村の中ではかなり……いや、少し悪い。だからこんな依頼をされるのは予想外だった。
「意外そうな顔をしているね。まあ、無理もないか。私もアキラたちの噂は聞いてるよ。かなり評判悪いみたいだね」
かなりではなく少しだ。そこのところを間違えないように。
「安心しな、私は噂なんて信じちゃいないよ。それに私は人を見る目には自信があるんだ。アキラたちは何もしていないに決まってる。私はそう信じてるよ」
ごめんなさい、昨日パンツ泥棒をやらかしてます。
「そうだ、俺もお前たちを信じてるぞ」
「ああ、噂なんて気にすんなよ!」
「俺は利益が出るなら他のことはどうでもいいからな。噂なんて気にしないぞ」
三方向から聞こえてくるおっちゃんたちの善意の言葉をやり過ごしながら、俺たちは女将さんの次の言葉を待つ。今しゃべると罪悪感からポロッと本当のことを話してしまいそうだ。
「村では他の冒険者たちが攻略したことになってるけど、ゴブリンの塔を攻略したのも、本当はアキラたちなんだろう?」
意外な話の連続だ。村に帰った時には、村中が冒険者たちの功績を称える雰囲気だった。だから俺たちはゴブリンの塔をクリアしたことを誰にも言えなかったのに。
「なぜわかったんですか?」
その問いかけに対し、女将さんはキナコを見る。正確には、キナコが背中に担いでいる弓を。
「この村にはさ、弓は売っていないんだよ。片や、戦利品なしの冒険者たち。片や、武器を持ち帰った冒険者たち。どちらがよりダンジョンを攻略したか、一目瞭然さ」
一日ごとの装備の違いまでちゃんと見ているとは、女将さんの観察眼は本物だ。
「狼を、倒してくれるかい? この村で勝ち目がありそうなのはアキラたちだけなんだ。報酬は弾むよ。だからお願いだ。村を救っておくれ」
女将さんとおっちゃんたちから依頼された、村の命運を分ける重要なクエスト。俺の答えは、依頼を受ける前から決まっている。
「俺たちが魔物を倒します。だから安心してください」




