レベル25 男には、やらなきゃいけない時がある
俺たちが次に向かったのはミエコの家だ。ユリカいわく、ここがもっとも難易度が低いらしい。
「あそこですわ。あの赤い家がミエコさんの家ですわ」
ユリカが指差す場所には、トリシアさんの家を上回る大きさの豪華な家が建っていた。ザ・金持ちという感じの建物だ。というかこの家、村長さんの家じゃないか。
「ここはものすごく簡単ですわ。寝ながらでも手に入れられるほど簡単ですわ」
そう表現できるほどに難易度が低いということか。トリシアさんの家と違ってセキュリティには気を使っていないのかな?
「実際に昨日は朝起きたらミエコさんのパンツを五枚手に入れていましたわ」
比喩じゃなくて本当に寝ながらゲットするのかよ!
「五枚もあるなら、ここに来る必要はなかったんじゃないかナ?」
キナコの言う通りだ。ミエコさんの家に来る意味ないじゃないか。
「そのことについては、私のアイテム袋を見てもらえれば理解してもらえると思いますわ」
「盗んだパンツを見せびらかす趣味に付き合うつもりはないぞ」
「アキラは何か勘違いをしていますわ。ここはキッパリと否定しておかなければいけませんわね」
そうだよな。流石にそんな変態的な趣味、いくらユリカでもあるわけないよな。
「盗んだのではなく借りているだけですわ」
否定するのはそっちなのか……。
「私には思いっきり盗んでいるように見えるのだが、私の目がおかしいのか?」
「安心しろ。俺にも盗んでいるように見えるぞ」
「さて、誤解も解けたことですし、取りあえず私のアイテム袋を見て下さい」
何一つ解けてないんだよなぁ。
ごまかしモードに入ったユリカをいくら追及したところで、のれんに腕押し状態で無駄なので、俺たちは仕方なく、本当に仕方なくユリカのアイテム袋を覗き込んだ。
『ユリカのパンツ 5個』
「とうとう自分のパンツを見せびらかす趣味にも目覚めたのか。変態レベルのインフレが激しすぎて着いていけないな」
「洞察力が足りませんわよ。匂いに気を配れば、このパンツが私のモノではなく、元はミエコさんのモノであると気が付くはずですわ」
「そんなの分かるわけないだろ!」
「キナコは気が付いていたようですわよ?」
そんなバカな。
「ホントーに不本意なんだけど、ユリカの言う通りだヨ。私、鼻が良いからネ」
そう話すキナコの表情は、まるで臭い靴下の臭いを嗅いだ猫のようだ。不本意だということがこれでもかと言うほど伝わってくる。
「なぜミエコのパンツがユリカのパンツへと変化しているのだ?」
実に良い質問だ。今まさに俺も聞こうと思っていた。
「色々あって所有権が変わってしまったみたいですわ。色々とは、具体的に言うと……」
その時、俺の脳内を電流が流れたかのようなヒラメキが駆け巡っていった。思い出せ。ヤツは盗んだパンツをどうしていた? ヤツの表情をよく見ろ。武器屋のおっちゃんと同じ、変態話をしたくてたまらないという目をしてないか? 一瞬の間に、俺の脳は最適な行動を導き出す。
「おっと! その話はいいから、サッサと目的のモノを手に入れて次に行こうぜ!」
「気になりませんか? 所有権が変わってしまった理由」
「ぜんっぜん気にならない。それにあんまりモタモタしてると朝になってしまうだろ?」
「……そうですわね。あまり時間をかけるのも良くないですわ」
ふぅ、何とか話題を逸らすことができたようだ。これで一息つけそうだな。
「では、今回は私は何もしませんので、皆さんの力でパンツを手に入れてみてください」
どうやら俺にゆっくりする時間なんてないみたいだ。とうとうこの時が来てしまったか。
「自分のモノは自分でとってこいと言うことだな?」
「はい、そうですわ」
パンツ泥棒をすると決めた時から、覚悟はしていた。強力なボスを倒すためなら、俺はパンツハンターに成り下がってもよいと。俺は今日、逃げずに立ち向かうぜ。村を救うために。お、今のはちょっとカッコよかったかもしれない。良い称号が手に入る予感がするな。
*【称号】パンツへと立ち向かう者を手に入れました!*
俺は村を救うために逃げずに立ち向かうぜ……!
*【称号】パンツへと立ち向かう者を手に入れました!*
なんでこんなロクでもない称号しか手に入らないんだ。カッコいい称号はどうやったら手に入るのかな。そもそも、称号次第でスキルを覚える可能性があるっていう設定はどこに行ったんだよ。一個も称号がらみのスキルをゲットしたことがないぞ。
*【称号】パンツへと立ち向かう者の効果により、【スキル】パンツハンターを習得しました!*
贅沢言ってごめんなさいスキルとか要らないので取り消して下さいお願いします。
……まあ、消えるわけないよな。カンナが必要に迫られたときにスキルを覚えやすいような気がするとか言っていたっけ。鑑定のスキルを覚えた時も、そういうスキルが欲しいと思っていたから覚えたような気がする。もしかしたらスキルと言うのは、行動と願望の結果覚えるモノなのかもしれない。
つまり何が言いたいかというと、パンツハンターなんていうスキルを持っていることがバレたら、即変態扱いされてしまうかもしれないということだ。表情でバレないようにしなければいけない。親父の説教の合間に鍛えたポーカーフェイスを使う時が来たようだな。
隣を見ると、カンナが「こんなハズでは……」という感じの顔をしていた。これはあれだな、間違いなく俺と同じ状況に陥ってやがる。なるほど、カンナがクソ称号をすぐに看破出来たのはこういうことか。自分がクソ称号を手に入れた時の経験を元に相手の表情を読む。そうすることで、クソ称号が手に入ったかどうかを判断していたのか。
また一つ成長してしまった。嫌な方向に。
カンナが「お前も手に入れたんだろ?」という目でこちらを見てきたけど徹底無視だ。フフッ、俺のポーカーフェイスを破れると思うなよ。
「どうやら皆さん、パンツハンターのスキルを手に入れたようですわね。流石シークレット会員001、002、003ですわ」
ちょっと待て、聞き逃せない話が出てきたぞ。二つも。
「フフフ、なぜバレたのか。お二人ともそんな表情をしていますわ」
「ああ、なんでわかったんだ? クソスキルを手に入れた事がバレたこともそうだけど、スキルの名前がバレたことが一番謎なんだが」
「それは私のスキル、パンツマスターの効果ですわ! 弟子が同系統のスキルを覚えた時に、何を覚えたのかがわかる効果があるんですの」
またまた聞き逃せない情報が出てきたぞ。弟子ってなんだよ弟子って。
「私はユリカの弟子になった覚えはないぞ!」
「そうだ! 俺もないぞ!」
「お二人は今日、心の底からパンツを求めて私に指示を仰ぎましたわ。スキルが弟子として認めるには、十分な理由ですわ」
うぐっ、まさにその通りだ。俺は攻撃力のためにパンツを求めていた。その心に付け込まれてしまったというのか。なんてヤツだ。
「あと、先程から無表情を貫いていますけど私にはバレていますわよ。キナコ」
どうやらキナコもユリカの罠にかかってしまっていたみたいだ。なんだろうこの安心感。自分がクソスキルを手に入れてしまった時、他の仲間もクソスキルを手に入れていたら、俺だけじゃなかったという事実に安心してしまう。今なら泥沼二人組の気持ちがよくわかるよ。わかりたくなかったけど。
「入手してしまったことは仕方がない。そこは潔く認めよう。それはそれとして、シークレット会員なんて私は入った覚えはないぞ」
「いいじゃないですか。会費はゼロ円で減るものもないですわよ?」
「減ってるぞ、俺の精神力が」
「わかりましたわ。今は時間に余裕がないので、その話はすべてのパンツを手に入れてから改めてしましょう」
あっ、これ絶対うやむやにするつもりだ。俺にはわかる。
「三十分後に警備兵の方がこの辺を巡回しますので、少し急いでいきましょう」
うぐぐ、警備兵が来るんじゃ話を続けることができない。ここはユリカの言う通り、すべてのパンツを集めるしかないな。
「行くぞ、カンナ、キナコ! 嫌なことは早く終わらせてしまおう」
「うむ、了解だ。警備兵が来てしまっては、私の人生が終わってしまうかもしれない」
「すごく不本意なんだヨ」
問題は、どうやって盗むかだ。俺にはユリカのような鍵を開けるスキルはないし、知識などもない。わからない事だらけだが、とにかくやってみるしかないだろう。
「村長の家は確か裏口があったはずだ。そこから侵入してみよう」
家の左側の通路を奥へと入り、金持ちハウスの庭沿いにしばらく歩くと、右手側に扉が見えてきた。裏口だ。
さて、鍵をどうやって開けるべきか。力ずくで行くか? いやいや駄目だ。音で村長やミエコさんが起きてしまうかもしれない。
「あ、二人ともあれを見テ!」
キナコが見ている方向を見ると、そこには――。庭の物干し竿に干され、風に揺られて泳ぐミエコさんのパンツが複数枚……!
アキラたちは ミエコのパンツを 手に入れた!
「ね、簡単でしたでしょ?」
「おうそうだな。と言うかいつから後ろに居たんだユリカ」
「最初からですわ。師匠は陰ながら弟子を見守るものですわ」
全然気が付かなかったぞ。気配の察知に長けたキナコですらビクッとして後ろを振り向いている。パンツが絡んだ時のユリカは能力が神がかりすぎだろ。
「それでは目的も達成したことですし、皆さんはもう宿で休んでもいいですわよ。残りは私が集めておきますわ」
「いや達成してないだろ。後三人分手に入れないと」
「それは私が集めてきますから安心してください。それに残り三人の難易度はAランク以上です。警備兵さんの巡回頻度を考慮に入れると、私一人の方が都合がいいのですわ」
そう言い残し、一人夜の闇へと消えて行こうとするユリカ。
いやだから目的を達成してないだろ……。待てよ、もしかしてユリカの目的は最初から別にあったということか?
「ふむ、まんまとハメられたな。私たち三人にいかがわしいスキルと称号を付与すること。それがユリカの目的だったのだろう」
一瞬だけ足を止めこちらを振り返えったが、すぐにまた歩き出し、そして数秒後には完全に姿を消した。振り返った時のユリカの顔を見た限り、カンナの言ったことは正解なのだろう。
「……」
「……」
「……」
何とも言えない疲労感に包まれた俺たちは、無言で宿へと帰るのだった。




