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レベル24 不本意なんだヨ

 太陽が沈み、村の人たちが眠りについたころ、俺たちは活動を開始した。


「まさかこんな日が来るとはなぁ」

「まったくだ。私の人生の最大の汚点だな」


 白い粉を売ったりワイロを渡したりチートを使ったりと、割と汚点だらけのような気がするけど言わないでおいてあげよう。今は作戦行動に集中するべきだ。


「皆さん、ヒトミさんの家が見えて来ましたわ」


 先頭を行くのは勿論ユリカだ。数々の危機を乗り越えてきたベテランだけあり、その足取りに迷いはない。素早さを重視しつつも隠密性も損なってはいない華麗な足運び。まるで忍者みたいなヤツである。


 裏ワザを発動させるために必要なアイテムはヒトミのパンツ、トリシアのパンツ、シンシアのパンツ、コーネリアのパンツ、ノゾミのパンツ、ミエコのパンツの合計六種類だ。四人全員が裏ワザを発動させるため、それぞれ三枚ずつ、合計十八枚のパンツが必要な計算である。


 俺たちは今、六つの内の一つであるヒトミのパンツを手に入れるために、ヒトミさんの家へとやって来たのだった。


「ふむ、本番はここからだな。どうやって盗む……アイテムを調達する?」


 カンナは狼を倒すためとはいえ、パンツを盗むことにまだ抵抗があるようだ。わかるぞ、その気持ち。


「いつも通りで行きましょう」


 そしてユリカは抵抗がなさすぎる。いつも通り行きましょうってどういうことだよ。


「ヒトミさんは遅くとも二十二時には就寝しますわ。現在の時刻は一時。何も問題はありませんわ。さらにヒトミさんは一人暮らしで奥の部屋で寝ているので、起きて気づかれるという危険性もありません。今日パンツを拝借しに行く六人の中では、最も難易度の低いミッションだと思われますわ」


 なんだその情報!? 詳しすぎるぞ!


「まずは私がお手本を見せますわ。皆さんよく見ていて下さい」


 そう言い終わると同時に、ヒトミさん家の扉の前にしゃがみ込み、鍵穴に針金のような棒を突っ込みだした。そして棒を突っ込んだと思ったら、次の瞬間には扉が開いていた。この間わずか五秒。


 扉を開けると同時に流れるような動作でぬるりと家に不法侵入し、五秒後には三枚のパンツを握りしめ扉の前へと再び戻って来ていた。そして扉に再び鍵を閉め、俺たちの前へと悠然と歩いて来る。たった十五秒でパンツの入手に成功していた。あまりにも早すぎる。TAS動画かな?


「大体こんな感じですわ」


 すごい、すごすぎる。変態も極めればここまでになるのか。カンナとキナコもあまりの衝撃に言葉が出ないようだ。


「皆さんも一生懸命精進すれば、このくらいすぐできるようになりますわ」


 世の中にはすごいけど絶対できるようになりたくない事がある。俺はそのことを学んだ。


「もう全部ユリカに任せればいいんじゃないかナ」

「そうだな。俺たちは帰って寝るか」

「賛成だ」

「待って下さい! 帰らないで下さい! みんなで協力して行動することに意味があるんですわ!」


 協力して行動することに意味がある、か。確かにその通りかもしれない。いくらユリカが神業を持っていたとしても、ボスを倒すのに必要なアイテムを一人に集めさせるのは何か違うような気がする。


 理由はともかく、パンツが必要なのは俺たちなのだから協力するべきだな。


「ごめん俺が間違っていたよ。やっぱり必要なものは自分でとりに行かなきゃな」

「わかってくれましたのね!」

「ああ。よーし、頑張るぞ」

「その意気ですわ。頑張ってパンツを集めて、そして思いっきりスーハースーハーしましょう!」


 あれ、何か目的が変わっているような。気のせいだな。気のせいに違いない。絶対に気のせいだ。


「時間もないことだし、そろそろ次に行くか」

「はいですわ」


 次の目標はトリシアさんのパンツである。ユリカいわく、難易度はDマイナスらしい。ヒトミさん家が難易度Fらしいので、それよりかは難しいとのことだ。


「着きましたわ。あれがトリシアさんの家ですわ」


 目の前に立つ家は、レベ村の中ではかなり大きな方である。頑丈な石で出来た壁に、柵の着いた広い庭。一目でお金持ちだとわかる家だった。


 扉には鍵が二つ付いていた。なるほど、さっきよりも難易度が高いというのは本当のようだ。


「今日はツイてますわ。これならすぐに終わると思いますわ」

「どういうことだ?」

「アレを見て下さい」


 ユリカが指さした先を見ると、庭の中央にある物干し竿にパンツが五枚干してあった。家に侵入しなくてもいいってのは楽だけど、俺としては物干し竿の隣で寝ている二匹の犬のような動物が気になる。何も考えずに真っすぐ物干し竿に向かうと、あの動物に吠えられるかもしれない。そうなるとミッション失敗だろう。


「番犬みたいなのがいるけど大丈夫なのか? もしかして見た目とは違っておとなしいのかな」

「いえ、あの動物は非常に狂暴ですわ。近づいたら間違いなくかみつかれますわ」


 見た目通り狂暴なのか、かなり厄介だな。一体どうすればいいのだろう。


「ここは私に任せてネ」


 そう言いながら弓を構えるキナコ。ヤル気マンマンだった。


「番犬を倒すのはなしの方向で行こう。ちょっとかわいそうだろ?」

「大丈夫! 峰打ちするからネ」

「弓矢のどこに峰があるんだよ!」


 ミッションが終わるまで弓は没収だな。


「私、投げナイフにも自信があるヨ!」


 ブロンズナイフも没収しておいた。そのヤル気は今は抑えておいて欲しい。


 さて、そろそろ真面目に考えよう。どうすればあの番犬を突破できるだろう。俺は隠密スキルを覚えているわけではないし、仮に隠密スキルを使えたとしても、番犬の嗅覚をごまかすのは難しそうだ。


「どうやら私の出番のようだな」


 スッ。(粉の入った袋を構える音)


「それも没収だな」

「ああっ、私の秘蔵の薬がっ!」


 素早く粉を没収してアイテム袋に入れておいた。村の中なんだからゴリ押しで問題を解決しようとするのは危険すぎる。


「皆さん力押しに頼り過ぎですわ。ここは私がお手本を見せて差し上げますわ」


 本日二度目のユリカのお手本である。今度は一体どんな華麗な手口でパンツをゲットするのかな? 想像するとゾクゾクして来るね。警備兵に見つかったらどうしようって意味で。


「今回はこれを使いますわ」


 そう言って懐から取り出したのは、折り畳み式の釣り竿だった。


 こ、これはまさか……!


「この釣り竿を使って、獲物を一本釣りしますわ」


 なんてふざけた方法なんだ。しかし、確かに理に適っている。番犬に近づかないので音や臭いでバレることなくパンツを手に入れられる完璧な方法だ。難点があるとすれば、絵面があまりにもアホ丸出しだということだろう。パンツを一本釣りしているところを知り合いに見られたら、その瞬間目の前が真っ暗になりそうだ。


「コツは、熟練の釣り人になり切ることですわ。さあ、行きますわよ」


 投げられた糸と針は、寸分たがわず物干し竿に干してあるパンツへと向かって行く。まったく無駄のない動きでさりげなく繰り出されるユリカの神業。なんて無駄な技術なんだ。


「この場所には大物が潜んでいるようですわね。見事な魚影ならぬパンツ影が風に揺られて泳いでいますわ」


 なんなんだよパンツ影って。そんなこと釣り人は絶対言わないだろ。釣り人になり切るんじゃなかったのかよ。


 頭の中でツッコミを入れている間に糸と針はパンツを捕らえたようだった。大物が食いついたような動作でユリカがパンツを釣り上げようとしている。


「引いてる! 引いてますわ!」


 俺たちも引いている。ドン引きだった。


 十数秒の格闘のあと、ユリカは無事パンツを吊り上げていた。


「私は狙った獲物は逃しませんわ。百回やれば百回吊り上げることができますわ」


 百発百中の釣りの腕と、パンツ釣りを百回もやっていたという事実。俺はどっちに驚けばいいんだろう。ユリカは常に俺の想像をありえない方向に超えていくなぁ。


「私としては、今までに捕まったことがないという事実が信じられないのだが」

「敵を知り己を知れば百戦危うからず、ですわ」


 自分のことと敵のことをよく理解すれば負けることはないという意味のことわざである。


「自分のことを理解するほどやめたくなってくるぞ。私はパンツに興味などないからな」

「まあ、今回は仕方ないだろ。ボス討伐のためと割り切って行こう」


 自分に言い訳をしながらやっていくしかない。これもボスを倒すためだ。


 ちなみに俺たちが話している間にユリカは更に二枚のパンツを釣り上げていた。技術的にも性癖的にも変態過ぎる。


「三枚手に入ったことだし次に行くか。次はどれをとりに行く?」

「いえ、まだやり残したことがありますわ。このまま次に行けば、のちに後悔する事態になってしまいますわ」


 後悔する事態……まさか警備兵に捕まるとかかな? 盗んだ痕跡を消すなどの証拠隠滅が必要なのだろうか。逮捕されるわけにもいかないので、必要ならやるしかないな。


「わかった、俺は何をすればいい?」

「話が早くて助かりますわ。それではこの釣り竿を構えて下さい。力を抜いて糸を垂らして……」


 ユリカの指示に従い行動し始めてから五分後、俺の右手には四枚目のトリシアのパンツが握られていた……!


「おい、この行動になんの意味があるんだ? これで証拠隠滅できたのか?」

「証拠隠滅? なんのことですか?」

「これをやらないと後悔することになると言ってたじゃないか」

「その通りですわ。目の前にパンツがあるのに回収せずに帰ったら、あとで絶対後悔しますわ」


 断言しよう、俺は後悔しないと。


「さーて次に行くぞー」

「待って下さい、後一枚残っていますわ。後で後悔する事態になりますわよ!」

「次に行こうネー」


 俺たちはユリカを引きずりながら次のアイテムの元へと急いだのだった。


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