レベル23 私はチートなど使った事ないからな?
鍛え上げたステータスのおかげで、音を立てずに素早く逃げ出すことに成功した。危ないところだったぜ。
俺たちは逃げ出した勢いのまま村へとたどり着き、腹が減ったのでその辺で適当に昼食をとることにした。
「あんなヤバそうなのがいるとはなぁ」
「戦ったら絶対負けてたと思うヨ」
「いまだに足の震えが止まりませんわ」
今までに出会った魔物とはまとうオーラが別格だ。寝ていたから良かったものの、もしもアイツが起きていたら、俺は足がすくんで動かなかったかもしれない。
「とても信じられない。あの狼のレベルは私たちと同じなのだろう? なのになぜここまで差があるのだ」
そう、そこが非常に気になるところだ。やっぱりチートモンスターだから、ステータスもチートなのかな?
「すごく強そうでしたけど、戦って見たら見掛け倒しで弱いという可能性はありませんか?」
「ゴンザレスさんたちを倒したんだから、その可能性はないだろうな」
狼に挑んだのはこの村でも精鋭の警備兵たちだという話を聞いた。特にゴンザレスさんは村一番のベテラン警備兵だ。
村の警備兵や冒険者のトレーニング風景を見た時に思った事がある。あれ、この人たち俺が同じレベルの時より明らかに強くね? と。
レベルは3~4くらいなのに、明らかに動きがいい。俺がレベル4の時と比べたら、どう見ても冒険者たちの方が強いのだ。
考えてみれば、当たり前の話だ。俺たちはつい数日前までは平和な日本で暮らしていた平和ボケした人間である。それに対し、冒険者たちは常に体を鍛え、実戦に身を置いている。
対戦ゲームでも、ステータスは高いが初心者が使うキャラクターと、ステータスは低いけど上級者が使うキャラクター、どちらが勝つかは明らかだ。つまり俺たちは、ステータスに対して中身がしょぼすぎる!
しかしそれは狼も同じはず。俺たちよりもレベルが上がりやすそうなのに俺たちと同じレベルということは、最近生まれたばっかりの魔物だろう。なのに俺たちよりも明らかに強そうだった。やっぱりチートだな!
「どうする? 俺たちも急いで剣技やらなんやらを鍛えるか?」
「鍛えたところであの狼には勝てないだろう。私たちが剣技をマスターする頃には、狼はレベル50くらいまで上がってそうだ」
それもそうだな。超初心者の俺たちが、一から剣技を覚えるなんて何年かかるんだって話だ。そもそもその間に村が狼に滅ぼされる可能性もある。
「それなら、ピンチの時に真の力に覚醒することを信じて狼に挑むとか?」
ゴブリンの塔で、カンナが必要に迫られるとスキルを覚えやすいと言っていた。それならば、自らピンチへと突っ込んでいき能力に覚醒する。カンナが好きそうな作戦だ。
「私は今日気が付いたのだ。ピンチというのは安全が約束された状況に限るとな」
「安全が約束されてるならピンチじゃないだろ! 安全なピンチってどんな状況だ」
「ネットゲームでは安全なピンチの連続だったぞ」
違和感しか感じない言葉だけど、確かにゲームはそうかもしれない。ゲームのキャラクターが倒れても、自分がケガをするわけじゃないからね。
「ていうか、カンナは廃人ゲーマーだったのにピンチの連続だったのか。あんまりゲーム上手くないのかな?」
「何を言う。私はサーバーでもトップを争うほどレベルが高かったのだぞ。下手なわけないだろう」
「レベルは高いけどピンチの連続って、つまり今の私たちと同じ状況だネ!」
「ぐぬぬ、違う、私はレベルだけの地雷プレイヤーではないのだ。ぐぅぅ」
キナコの一言がカンナにクリティカルヒットした。そしてレベルだけの地雷プレイヤーという言葉が俺にクリティカルヒットした。うん、今度からは経験値だけじゃなくて技術も習得しよう。
「フフッ、皆さん、私に良い考えがありますわ」
「ほう、何か策があるのか。聞かせてもらおう」
ショックから素早く復帰したカンナがすでに話を聞く体制を整えている。やたらと立ち直るのが早いな。普段から言われ慣れていたのかもしれない。
「勝ち目のない強敵に遭遇した時は、逃げるコマンド連打に限りますわ! ということで、隣の村まで逃げましょう!」
自信たっぷりなユリカが、無駄に大きな声で作戦を発表する。
村を見捨てます宣言を聞いた近くを歩いていた村の住人たちがいっせいに睨んでくる。非常に居心地が悪い。
「良い作戦だと思うヨ! 私は賛成かナ!」
こらキナコ、ユリカに対抗して大きな声を出すんじゃない。ますます居心地が悪くなっただろ!
「私は反対だな。やはり立ちはだかる強敵は倒すべきだ。それが真の勇者というものだろう?」
カンナは狼を倒したいらしい。今のところ討伐に一票、逃亡に二票か。票が割れたな。
「倒したい気持ちはわかりますけど、どうやって倒すんですの?」
「チートを使っているヤツはGMコールすれば一発でアカウント削除だ。だからこの世界の管理者であろう女神にひたすら祈れば狼は弱体化するに違いない」
「やっぱり経験者の言うことは説得力があるネ! カンナは何回くらいアカウントを削除されたのかナ?」
「三回……、いや、私はBANされた事などないぞ」
そもそもネットゲームの世界のようにあっさり削除されたりするのか疑問が残るところである。この世界はゲームじゃなくて一応異世界なのだから。たぶん。
「アキラはどうするのが良いと思いますか?」
狼に背を向けて逃げて来た時からずっと考えていた。勇者を目指す俺が、逃げたまんまでいいのかと。俺の考えは……。
「俺は狼を倒したいと思う。これから魔王を倒す旅に出るんだ。あんなヤツくらい、サクッと倒してやろうぜ!」
「ほう、自信ありげだな。何か策があると見た」
「ああ、一応手段は考えてある。ただ非常に危険だ。逃げると言うならそれでもいい。俺は一人でも行く」
今まで俺は学校をサボり、勉強もせず、嫌なことからは逃げてばかりだった。けど、この世界では夢にまで見た勇者を目指せるのだ。自分の夢からは逃げたくない。だから、俺は狼を倒しに行く。村人たちに感謝されなくたって構わない。俺は夢のために倒しにいくのだから。
*【称号】ウソツキを手に入れました!*
……ウソですごめんなさいめっちゃ村人から感謝されたいと思ってます。
「一人では行かせないさ。私も供に行こう。私利私欲にとらわれず、危険をかえりみず、人々のために行動する。それが私の勇者道だ」
カンナ……。そうだ、カンナも俺と同じ志を持っているんだったな。勇者道っていうのはよくわからないけど、やはり勇者を目指すものとしての想いが村の危機を見過ごせないのだろう。
「村を救えば拍が付く。そうすればよりいっそう薬が売れそうだ(小声)」
小声で言ったつもりだろうがバッチリ聞こえているぞ。欲にとらわれまくりじゃねぇか。狼を倒しても新たな危機が村に訪れそうだ。
「私も討伐に参加しますわ!」
「いいのかユリカ?」
「はい! 友達……いえ、親友を見捨てるなんてありえませんわ! お二人が行くのであれば、私も行きますわ!」
嬉しい事言ってくれるじゃないか。感動で涙が出てきそうだ。
「十六年生きてきた中で初めてできた友達ですもの。どこまでも着いて行きますわ!」
涙が出てきそうだ。さっきとは違う意味で。
「私も着いて行こうかナ」
「逃げてもいいんだぞ?」
「着いて行く方が面白そうだからネ!」
キナコは相変わらずだった。
でも、どんな理由にしても、着いてきてくれる仲間が三人もいるなんて、それだけで胸がいっぱいになる。俺は今、心の底からこの世界に来て良かったと思っている。
これは絶対に負けられない。これからもみんなで旅をするために。
「ふむ、パーティが一致団結したことだし、そろそろ策とやらを教えてくれないか?」
そのまま挑んだところで返り討ちにあう可能性が高いので、それは当然気になるところだろう。俺が考えた作戦とは、ユリカが見つけた裏ワザを発動させることである。もったいぶるつもりはないので、すぐに説明しよう。
「俺の作戦、それは女の子のパンツを盗みに行くことだ」
「村の危機のドサクサに紛れて盗みに行くとは……、やっぱりそういう趣味があるんじゃないか!」
しまった、説明が色々と足りなかった。
「いや、そうじゃなくて、ユリカが発見した裏ワザを発動させて攻撃力を二倍にしようっていう作戦だ」
「そうじゃなくても何も、結局盗みに行くんじゃないか!」
いや、うん。盗みに行くと言えば盗みに行くんだけどね。
「頼み込んで売ってもらうっていうのはダメなのかナ?」
「キナコは見ず知らずのヤツがいきなりパンツを売ってくれって頼み込んで来たら売るのか?」
「通報するんだヨ」
「答えは出たな」
俺だって盗みたくて盗むわけじゃない。でも、ヤツと戦うのならばできることはすべてやるべきだ。
「盗むことに抵抗がある気持ちはわかる。けど、余力を残して戦えるような相手じゃないんだ。罪悪感で心がダメージを受けるとしても、全力で行くべきだ」
狼を倒せずに戦いに負けるくらいならパンツを盗む。それが俺の決意だ。
「素晴らしい心意気ですわ! 私も涙をのんで強力いたしますわ!」
約一名、ダメージどころか思いっきり回復してるヤツがいるけどこの際それは無視しよう。
「あまり乗り気はしないが、言っていることはわかる。私も協力しよう」
「仕方ないネ」
カンナとキナコもわかってくれたようだ。やはり人間死ぬ気になれば何でもできるってことだな。
「よし、作戦決行は今日の深夜だ。みんな、気合を入れて頑張るぞ!」
「「「「おー!」」」




