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レベル21 ダンジョンはクリアしたけど、納得がいかない

「飯も食べ終わったしこのダンジョンじゃもうやる事ないから帰りたいところだけど、あの冒険者たちはどうする? 放置したら不味いかな?」


 レベ村からやって来た冒険者たちは絶賛トリップ中だ。このままほったらかにした場合、ゴブリンが現れたらケガをしてしまうかもしれない。


「それなら方法はあるぞ。あの幻覚症状は強力な衝撃を受けると解除される可能性があるのだ。つまり、幻覚が解けるまで殴りまくれば良い」

「却下だ。さっき殴ったらダメだって話になったばっかりだろ」


 殴って正気に戻った冒険者に、またダンジョンボス疑惑をかけられるのは嫌だ。


「それなら薬の効果が切れるのを待つしかないな。なに、二時間もすれば正気に戻るだろう」

「ほんとに正気に戻るんだよな? 変な副作用とかないよな?」

「それに関しては自信を持って言える。たぶん大丈夫だ」


 自信があるのかないのかどっちなんだよ。やはり不安だ。ここはさらに追及していくべきだな。


「それじゃあ賭けでもするか? 副作用が出たら明日も晩飯をオゴるってのはどうだ。もしも副作用が出なかったら今日のオゴりはなしにしてもいいぞ」

「アキラは私に明日も飯をオゴれと言うのか! 酷過ぎるぞ!」

「副作用は出ないんじゃないのか?」

「いや、万が一、万が一ということもあるからな」


 万が一と言う割にはほぼ確実に飯をオゴることを予感している顔だったぞ。


「カンナ、全部吐いてしまえよ。そうすれば楽になれるぞ」

「……」

「今正直に言えば明日のオゴりはなしにしてやってもいい」

「本当か?」


 まるで絶望の中に一条の光を見つけたような表情だ。やっぱり副作用があるんじゃないか。


「本当だとも」

「……よし、それならば正直に言おう。実はあの薬は作ったばかりだから、詳しいことはわからないのだ」


 は?


「昨日自分で飲んでみた時は、心地よい幻覚症状の後に強い眠気がやって来てぐっすり眠れたという感じだったな。おそらく眠気は副作用によるものだろう」


 眠気くらいなら大丈夫かな? もうこの塔にはゴブリンはほとんどいないし、無事村まで帰れるだろう。それにしても……。


「薬の効果は気合があればレジストできるんだよな」

「その通りだ」

「レジストできなかった村の冒険者のことを未熟者だと言っていたよな」

「その通りだ。まったく、あの程度で冒険者を名乗ろうなど片腹痛いわ」

「カンナは昨日薬の効果で幻覚を見て、その後副作用でぐっすり寝てたんだよな?」

「い、いや、昨日は疲れが溜まっていてな。普段の私ならば軽くレジストできるのだが、仕方がないことだったんだ」

「それならそういう言うことにしておこう」


 ちなみに昨日の夜のカンナは、初めての塔型ダンジョンということでテンション上がりまくりだった。まるで遠足の日前夜の小学生のようなはしゃぎようだったが、気が付いたらベッドで眠っていたのだ。一体どこに疲れが溜まっていたのか聞いて見たい気もするけど、聞かないのも優しさだろう。


「えっ、カンナ疲れていたんですか? 昨日あんなに楽しそうだったじゃないですか」


 あっ……。


「い、いやそれは」

「疲れているとは知らず、色々と話しかけてしまいましたわ。ごめんなさいですわ」

「あ、あー、いいんだ。私はそんなこと気にしていないぞ」


 すごく気まずそうな表情を浮かべるカンナ。ユリカは本当にカンナが疲れていたと思っているらしく何度も謝っているが、謝るたびにカンナの表情がなんとも言えないものに変化していく。だましていることに罪悪感を感じているようだ。


「カンナ、全部吐いてしまえよ。そうすれば楽になれるぞ」

「くっ、すまない私が悪かった。私は状態異常をレジストすることができなかった未熟な冒険者だぁ! 本当は疲れてなどいなかったんだ!」


 カンナは自分に正直になることを選んだようだった。友達が絡んだ時のユリカはかなりの純粋さを発揮するからね。疑いのない瞳で見られることに耐えられなかったのだろう。


「気にしないで下さい。私たちは仲間でしょう?」

「ああ、私たちは仲間だ……、ん? その仲間というのは、どういう意味での仲間か聞いてもいいか?」

「もちろんパンツ愛好家の同士のことですわ!」


 相変わらずユリカはナチュラルに自分の趣味へと引きずり込もうとするなぁ。目を合わせないでおこう。


「アキラと合わせてこれで同好の士が三人ですわ。嬉しいですわ」


 ユリカの魔の手からは逃れられなかったようだ。気が付いたら巻き込まれていた。


「待ってくれ、俺はそんなグループに入った覚えはないぞ。その手の活動は二人でやってくれ」

「いや、私もまったく興味がない。ユリカ一人で活動してくれ」

「わかりましたわ。お二人はシークレット会員ということにしておきますわ」


 なんなんだシークレット会員って。そんないかがわしいモノに俺を勝手に所属させないでくれ。

 ふと見るとキナコは屋上へと続く階段に避難していた。相変わらずの危機察知能力だ。俺も見習わなきゃな。


 さて、このままではなし崩し的に同好の士とやらに所属させられてしまうので、なんとかしなければ。ここは多少強引にでも話題を変えていこう。


「そんなことよりも、冒険者が正気に戻ったときに因縁を付けられないように、どこかに身を隠さないか?」

「ふむ、その通りだな。無実の罪で怒られるのは勘弁して欲しいところだ」


 何が無実の罪だ。思いっきり状態異常を付与したじゃないか。ばれたら結構怒られそうだ。


「屋上へと続く階段に隠れるってのはどうだ? 扉を本棚で隠せばやり過ごせるんじゃないかな?」

「いい考えだ。私も賛成だ」


 俺とカンナはユリカの返事を待たずに作業を開始した。


 ボス部屋には屋上にあった宝箱を置き、中には婚活本を一冊入れておいてやった。ボスのドロップアイテムだ。ありがたく受け取ってくれ。


 通路を塞いでからしばらく待っていると、冒険者たちが意識を取り戻し始めたみたいだ。カンナは幻覚が解けるのは二時間くらいだと言っていたけど思ったよりも早い。レベルが足りないというだけで、それなりに優秀な冒険者なのかもしれない。


「うぅむ、俺は一体何をしていたんだ」

「とても心地良い気分に包まれて、何も行動する気がなくなって……」

「この部屋に入った時、俺たち以外に誰かいなかったか?」

「いたような、いなかったような……」


 俺たちのことは忘れてくれたようだ。いいぞ、そのまま忘れていてくれ。


「ボスはどうなったんだ?」

「俺はドラゴンを十体倒したぜ」

「俺はデーモンを二十体倒したかな」

「おい、いい加減幻覚から目を覚ませ」

「一応ボスは倒したんじゃないか? 倒した記憶はないけどな。倒してなければ、こうして生きているのはおかしいだろ?」

「確かにそうだ。ん? おい、宝箱があるぞ」

「ふむ、罠はないようだな。開けてみるぞ。……って本が一冊だけかよ。シケた宝箱だな」

「しかもこの本さっき廊下に落ちてたヤツじゃねぇか」

「周囲にモンスターの気配もないことだし、もう帰ろうぜ」

「そうだなー」


 足音が遠ざかっていく。どうやらやり過ごすことが出来たようだ。


「アキラよ、賭けは私の勝ちのようだな」

「うん? なんの話だ?」

「先ほど言っていただろう。副作用が出なければ晩飯のオゴりをなしにしても良いと」


 そういえば言ったな。会話を聞いた感じ、冒険者の人たちは眠気とかも出てなさそうだ。


「あの冒険者たちはカンナよりも優秀な冒険者だったんだネ」

「なに? それは聞き逃せないな」

「だって、カンナは副作用でぐっすりだったのに、あの冒険者たちはまったく副作用でてなかったもんネ」

「ぐぬぬ、いや、あの冒険者たちは明らかに副作用が出ていた。私にははっきりとわかる」


 おい、それでいいのか。それだと晩飯をオゴることになるぞ。プライドなんかその辺に捨てておけば、金を使わずに済むのに。


「いいのかカンナ?」

「なんの話だ? あの冒険者たちは副作用が出ていた。ただそれだけのことだ」


 その発言には、例え金を失おうともプライドだけは守るという強い意志が感じられた。その強い意志を薬を飲んだ時に発揮していれば状態異常をレジスト出来たかもしれないのに。


 その後、ダンジョンをクリアして意気揚々と村へと帰還した俺たちは愕然とした。なんと、村の冒険者たちがダンジョンを攻略したことになっていたのだ。村中大盛り上がりの中、俺たちが攻略したとは言い出すことができなかった。言ったところで信じてくれなさそうだ。


「今日は私のオゴリだ。食って食って食いまくろうじゃないか。食わなきゃやってられん」


 カンナの一言で、俺たちは全力でストレスを食欲にぶつけることにした。

 

 流石に高級な飲食店をオゴってもらうのは気が引けたので、行く店は大衆向けの安いところへと変更した。

 しかしそれでも、全員が全員気合を入れて食いまくったのでかなりの値段になったようだ。すっかり財布が軽くなってしまったカンナだが、その表情はどこか満足気だった。


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