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レベル2 私は変態ではありませんわ!

「この世界に来てからもう一週間か」


 宿屋のベッドに座りながら目を瞑ると、ここ一週間の記憶が俺の目の前をよぎっていく。


 やたらと情報が正確な、謎の攻略本の存在。


 目の前に表示される自己主張の強いステータス表示画面。


 村の人に日本語が通じるという現実。


 そして、髪を切ろうとしたのにハサミがはじかれてしまうという、外見変更不可の強制力。


 気になることは色々あるが、俺が今一番気にしているのは、やはり三人の仲間たちのことだ。


 強制的にパーティを組まされてすぐの頃は、何とかパーティを解散できないかと色々考えていた。しかしよく考えると、よくわからない異世界で独りぼっちと言うのは非常に心細い。なので、取りあえずはパーティを組み続けることにした。したのだが……。


「みんな、帰ってくるのが遅いな」


 退屈なので、なんとなく攻略本を開く。


 適当に開いたページには、俺たちが今滞在しているレバ村のことが書かれていた。


『【レバ村】周りには弱い魔物しかいないため、なりたての冒険者におすすめの村。まずはこの村で依頼をこなして活動資金と経験値を貯めよう!』

 

 うさん臭い攻略本だが、情報の正確さは本物だ。なので俺たち四人は、この攻略本に従い村で依頼をこなしている。


 村を回り、誰かから依頼を受けたら宿屋の部屋に集合する約束のはずだが、いまだに誰も帰ってきていない。嫌な予感しかしない。


「また問題でも起こしたんじゃないだろうな」


 様子を見に行くべきかと思い立ち上がろうとした瞬間、腰まで届きそうなきれいな黒髪を持った少女が部屋に入ってきた。仲間の一人であるユリカである。


「遅くなりましたわ」

「マジで遅いぞ。何か変わったことでもあったのか?」

「変わったことなんてありません。いつも通りですわ」


 いつも通りか、なら安心だな。……なんて考えにはなるはずがない。こいつはいつも問題を起こしている。つまりいつも通りということはまた何かやらかしてきたということだ。


「なるほどまたやらかしてきたか。今日は何をやったんだ?」

「失礼な! 今日は本当に何もしてません。依頼だって見つけてきましたわ!」


 そう言いつつ一枚の紙を差し出してくるので手に取って読んでみる。


『ここ最近この村に怪しげな女が出没するようになった。私は勇者一行ですわ、というわけのわからないことをしゃべりながら民家のツボやタンスをあさり、さらに若い娘の下着を盗っていくという。この女の特徴は全身黒タイツに怪しげな覆面、それから特徴的な口調である。この女を捕まえた者には賞金として百五十ゼニーを支払おう。       警備兵長・ゴンザレス』


 特徴的なしゃべり方でパンツに興味がある女か。どこかで見たことがあるようなやつだな。具体的には今目の前で見たような気がする。


 俺は頭が痛くなってきた。


「村の警備兵の方がビラを配ってましたの。簡単そうでお金も結構もらえますわ」

「ああそうだな、今すぐに達成できる簡単なクエストだ」


 そう言いつつ俺はビラを思いっきり破り捨てた。ユリカが何か騒いでいたが、無視してビラを破り続ける。あとついでにタンスに入っていた全身黒タイツも破り捨てておいた。


「酷いですわ、勝手に私の服を破るなんて!」

「今朝俺から盗んだパンツを返せ」

「……、何のことか、サッパリわかりませんわ」


 ユリカめ、あくまでもやっていないという態度をとるつもりか。


「お前が好きなのは女の子なんだろ? 俺は男だ。だから俺からパンツを盗むんじゃない」

「アキラは私の初恋の娘にソックリなんですわ! だから性別なんて関係ないですわ」

「やっぱりお前が盗んだのか!」

「なんの話か全然わかりませんわ」


 これはだめだ。このパターンに入ったユリカが無敵なのは、この一週間で嫌と言うほどに理解した。


 何か対策を考える必要があるな。そんなことを考えていると、ふわふわとした銀髪のかわいい少女が部屋に入ってきた。もう一人の仲間であるカンナである。


「すまない、遅れた」

「カンナが遅刻とは珍しいな。」


 カンナは時間にはそれなりにキッチリしているので、集合時間に遅れるのは珍しい。ただし時間にキッチリしているからといって、規則にもキッチリしているとは限らない。


 俺は昨日見てしまったのだ。カンナが警備兵の人に怪しげな白い粉を販売しているところを。


 周りを気にしながら、人気のない裏路地へと消えていくカンナと警備兵のおっちゃん。何をやっているんだと思いコッソリ着いて行くと、怪しげな白い粉を警備兵のおっちゃんへと見せるカンナの姿が。


 薄暗い裏路地、怪しげな粉、そして目の焦点が合っていないオッサン。すべてが怪しかった。


 いや、最初から疑ってかかるのは良くないな。きっとあれは合法な白い粉、そう、入浴剤か何かに違いない! オッサンの視線がまともじゃないのは、異常に疲れているからだ。疲労がたまっている警備兵に疲れが取れる入浴剤を売ってあげているんだろう。


 そう信じて、俺はカンナと警備兵のおっちゃんにこっそり近づき聞き耳を立ててみた。


「この粉は、一度使うとヤミツキになる事間違いなし。心地の良い高揚感と幻覚に包まれます。要らないかい?」

「うへへ、素晴らしいブツだな。買った!」

「毎度あり」


 異世界の入浴剤はすごいなぁ。テンションが上がってくる上に幻覚まで見られるのかぁ。


 俺はその時の出来事を心に封印し、そして今に至る。


 昨日のことを思い出したせいで無意識の内に表情が険しくなっていたようだ。カンナが心配そうな視線をこちらに向けてくる。


「何かあったのか?」

「いや、何でもない」


 そう、昨日の出来事は夢だ。俺は何も見ていない。何もなかったんだ。

 そう自分に言い聞かせていると、カンナが懐から重量感のある袋を取り出して渡してきた。


「これは?」

「中には百ゼニー入っている。今日やたらとテンションの高い警備兵の人から貰った」


 一瞬カンナの表情がドラッグ密売人のような悪い顔になったように見えたが、きっと気のせいに違いない。


「はあ、なんか頭痛がひどくなってきた」

「いい薬があるぞ。飲むか?」

「絶対要らん」





 それからしばらくして、三人目の仲間であるキナコが帰ってきた。ボブカットの金髪をピョコピョコ揺らして今日も元気一杯だ。


「戻ってきたヨ。角うさぎのお肉三つ手に入れたヨ!」

「いつもありがとう。助かるよ」


 角うさぎは弱い割りに意外とおいしい肉をドロップするから、金に余裕のない俺たちにとってはまさに救世主のような魔物だ。


 今でも初めて肉をドロップした時の光景を思い出す。かなりの衝撃だった。


 キナコが仕留めたウサギの死体が光となって消えて、そして死体のあった場所に漫画のような肉が落ちていたのだ。ゲームでは見慣れた行動だったが、違和感しかなかった。この世界の意味不明さを実感した瞬間だった。


 驚いたと言えば、キナコの狩りの腕もすごかった。気配を消して音もなく獲物に近づく様は、まさにアサシンのようだ。


 ちなみに、ユリカも気配を消して音もなく獲物(パンツ)に忍び寄るのが上手い。アサシンとは別の方向性で危険な人物である。


「キナコは元の世界ではアサシンだったのか?」

「うーん、アサシンじゃなくて狩人かナ」


 そりゃそうか。キナコが元居た世界は俺と同じ現代の地球らしいし、アサシンなんて早々いるもんじゃないか。


「はいはい! 私は女子高に通うお淑やかな女の子でしたわ!」


 キナコとの会話にユリカが勢いよく割り込んできた。


「お淑やかな女の子かー。民家でツボやタンスを漁る女の子がお淑やかだと認識される世界ってことは、俺たちとは違う異次元の地球からやってきたのかな?」

「異次元ってなんですか! 私は皆さんと同じ世界からやってきましたわ」


 ユリカから詳しく話を聞くと、どうやら本当に俺たちと同じ世界からやってきたようだった。


 異次元なのはユリカの頭の中だったようだな。


 そんなことを話しながら、俺たちは宿屋の厨房を借りて角うさぎ三匹を適当に調理して食べた。毎日厨房を貸してくれる女将さんは本当に良い人である。


 昼ご飯を食べ終わったたため、俺たちは村の隅に移動して今日の活動内容を決めるための話し合いをすることにした。


「話し合いなら村の広場ででもすればよかったんじゃないか?」


 カンナが不思議そうな感じで問いかけてくる。確かにその問いはもっともだが、これは仕方のないことなのだ。


「指名手配犯を連れて広場で堂々と話し合いをするのはちょっとな……」

「?」

「?」

「???????」


 上からカンナ、キナコ、ユリカである。


「なんで指名手配犯本人が一番不思議そうにしてるんだよ!」


 俺の言葉を聞いてカンナは何かを察したらしい。ジト目をユリカへと向けている。


 ユリカは相変わらずキョトンとした表情だ。


 キナコは飽きてきたのかちょうちょを追いかけるのに夢中になっている。


 徹底的に追及したいところだが、今日は他にもやることがあるため話題を切り替えることにした。


「とりあえず今日は道具屋のおっちゃんから受けた薬草採取と解毒草採取の依頼をやろうと思うんだけどいいかな?」


 この二つの依頼は毎日受けられる上に、攻略本にモンスターの出ない採取ポイントが載っているため超簡単である。まるで初心者はこの依頼で稼げよっていう意図があるかの様な簡単さだ。


「妥当でいいと思うぞ」

「はぁはぁはぁ、アキラのパンツいい匂いですわ」

「今日はとってもいい天気だネ!」


 よし、反対意見はないようなので決定だな。


 それとユリカは後で説教だ。


「それから、攻略本に載っている小さな洞窟型ダンジョンにも行ってみたいんだけどどう?」


 攻略本によると、レバ村から西へ少し行ったところに洞窟があるらしい。攻略本を広げて洞窟のことが書いてあるページをみんなに見せる。


「確かに小さな洞窟で簡単そうですわ」

「うーむ」


 ユリカは割と乗り気だが、カンナは迷っているようだった。


 キナコはバッタの様な虫を追いかけるのに夢中になっている。


「俺としては村周辺のモンスターにも慣れてきたから行っても大丈夫だと思うんだけど、どうかな?」

「ふむ、そうだな。私としてはこの推奨レベル3っていうのが気になる」


 確かにそこは俺も気になっていた。ステータスを表示すると俺のレベルは2となっている。レベル的にはちょっと不安である。


「ダイジョーブ、当たって砕ければいいんだヨ!」


 この世界に来てから俺の精神は砕け放題だ。その上肉体まで砕けてしまったら跡形も残らない。


「やっぱりこの洞窟に行くのは辞めよう。安全第一で行こうじゃないか」

「大丈夫ですわ。きっと何とかなりますわよ」

「そうか。まさかユリカが一人で偵察に行ってくれるとはな。助かるよ」

「えっ、私そんなこと言ってませんわ」

「安心してネ。お供え物はちゃんと準備しておくからネ」

「なんで死ぬこと前提なんですか! 酷いですわ!」

「そんな事よりも、私としては依頼が終わった後の予定を話し合いたいのだが」


 俺たちのふざけた会話を無視して、カンナが提案して来た。いかんいかん、真面目な話し合いの最中だったな。


「カンナは何かしたい事とかあるのか?」

「ふむ、ここは魔物がいる世界だから、最低限自分の身を守れるだけのレベルが必要だ。と言うことで、経験値稼ぎをやりたいと思う」


 一理ある。いざという時に自分の身すら守れないというのはこの世界では危険かもしれない。それに、勇者になるという個人的な目標もある。経験値はなるべく稼いでいくべきだ。


「俺は良い考えだと思うぞ。みんなはどう思う」

「私は賛成ですわ」

「私も狩りがしたいんだヨ」

「決定だな」


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