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レベル19 新たな力に覚醒する時がきたようだな

 扉を開けて中に入ると、そこは十メートル四方くらいの部屋だった。

 ベッドが一つに本棚が一つ、床には魔物の毛皮のようなものがしいてある。机の上には飲みかけの水が入った瓶としおりが挟まった本が置いてあった。なんて生活感あふれるボス部屋なんだ。


 生活感はそこら中にあふれているのに、ボスの気配は皆無だった。どうやら現在この部屋にボスは不在のようだ。


「ボスはどこに行ったんですの? もしかして誰かが先に倒しちゃったのでしょうか」


 その可能性もあるかもしれない。取りあえず攻略本を開き、ボスの情報を確認してみる。


『ゴブリンの塔 BOSS

 ゴブリンファイター レベル:5

 ゴブリンにしては高い知能を持つ。その高い知能で武器を使いこなす、近接型のファイターである』


 このダンジョンのボスはゴブリンファイターというのか。おや、おかしいな。どこかで見覚えのあるような名前だ。


 さっき隠し通路で出会ったモンスターの名前は、ゴブリンファイター。そしてこのダンジョンのボスの名前も、ゴブリンファイター。

 もしかしなくても、さっき倒したゴブリンがダンジョンのボスだったみたいだ。

 ボスの地位まで上り詰めても独身なのか……。悲しいなあ。


「さっき出会ったゴブリンがボスだったみたいだぞ」

「あの婚活男がボスだったのか?」

「そうみたいだ」

「ふむ、まさかボスまであっさりと倒してしまうとはな」


 元々このダンジョンで警戒していたのは罠であって、モンスターの方ではないのだからこんなものか。


「この部屋にある使えそうなアイテムを回収したら、村に帰るか」

「了解ですわ」


 攻略本で見た限りでは特に何もなさそうだが、折角来たんだから少し調べてみるのもいいだろう。俺は本棚を見てみた。


『女性にモテる趣味百選』『婚活において成功する男、失敗する男』『失敗しないお見合い』『イマジナリーフレンドの作り方』『理想のエアワイフ作成ガイド』『空想の嫁に人格を与える方法』『やさしい黒魔術・基礎編』


 結婚願望があり過ぎる男の本棚だった。黒魔術の本は何に使うつもりだったのだろう。あまり深く考えない方が良さそうだ。


 一通り見てみたけど、この辺に使えるものはないみたいだな。ユリカたちは何か見つけたのだろうか。声をかけてみよう。


「ユリカ、何かいいものはあったか?」

「全然ありませんわ。この部屋、女の子のパンツが一枚もないんですの」


 あるわけないだろう。独身の男の部屋に女性用下着があったらドン引きだ。


「俺は使えるアイテムを探してくれって言ったよな? なのになんでパンツを探してるんだよ」

「使えるアイテムを探してますわ」


 何に使うつもりだ。


「キナコとカンナは何か見つけたか?」

「何もなかったんだヨ」

「右に同じく」


 やはり何もなかったようだ。攻略本にもこの部屋には何もないって書いてあったしね。こんなもんだろう。


「部屋の奥にある扉の奥には屋上に行ける階段があるみたいだぞ。で、屋上には木の弓と木の矢が入った宝箱があるみたいだ。それを回収したら帰るか」

「どうやって帰るのだ? 階段は埋めてしまっただろう?」

「ロープを持ってきたから安心していいぞ」

「ふむ、ロープか……。私に考えがある。弓と矢の回収が終わったら、ロープを貸してくれないか?」

「いいけど、何をするつもりだ?」

「なに、悪いようにはしない。私に任せてくれ」


 よくわからないけど、任せて欲しいのなら任せよう。あまりにも簡単なダンジョンだったから、時間はありあまってるからな。


 俺たちは屋上へと上がり弓を回収した。弓はキナコが欲しがったのでキナコに装備させてあげた。


「さて、私の出番だな。アキラ、ロープを貸してくれ」


 言われたとおりにカンナへとロープを渡す。ロープを受け取ったカンナは、屋上の隅へと歩いて行った。何をするつもりなんだろう。


「スキルと言うのは、必要に迫られたときに覚えやすいような気がする。だから、このロープはこうだ!」


 思い切り振りかぶり、ロープを塔の外へと放り投げるカンナ。勢いよく投げられたロープは放物線を描き、地面へと落下していった。


「おいいいい! 何してんだよ帰れなくなるだろ!」

「なに、ダンジョンから瞬時に帰還するスキルか、村へと瞬時に帰還するスキルを覚えれば何も問題はない。そうだろう?」

「問題しかないだろ! 覚えられなかったらどうするんだよ!」

「大丈夫だ、覚えられないなんてありえない。私は女神に選ばれた存在だぞ?」


 駄目だ不安しかない。そもそも女神自体がうさん臭すぎる。


「あー、キナコ。明日階段を塞いでる土を掘るのを手伝ってくれないか?」

「しょうがないネ。おいしいお肉で手を打つんだヨ」

「カンナがオゴってくれるそうだ」

「やったネ!」


 今日はもう色々と疲れたから、さっきのボス部屋で一泊して明日帰ればいいかな。


「心配するな私に任せてくれ。必ずやスキルを覚えて見せるぞ! 覚えられなかったら肉でもなんでもオゴってやる!」


 明日の夜ご飯が楽しみだなぁ。



 ――五時間後――



「ぐぬぬぬ、何故だ、何故覚えられないのだ」


 そこには予想通りの結果を迎えたカンナの姿があった。むしろなぜスキルを覚えられると思ったのか。


「明日はドラゴンのかまど亭で思いっきりお肉を食べようネ!」

「ん? 確かその店はレバ村一の高級店じゃなかったか?」

「そうだヨ」

「待ってくれ! そんなとこに行くと一生懸命貯めた私の金が吹き飛んでしまうぞ!」

「楽しみだネ」


 吹き飛んでしまってもいいんじゃないかな。どうせ怪しげなことをして貯めた怪しげなダークマネーなんだから。


「あと少し、あと少しで新たな回復薬の材料費が貯まったというのに。新薬を村で売りさばいて大儲けする私の計画が……」


 おっと、 はからずも村を怪しげな売人の魔の手から救ってしまったようだ。村人は俺に感謝して欲しいね。


「ちなみに、その新薬はどんな薬だ?」

「どこに人の目があるか分からないため詳しくは言えないが、非常にクセになる回復薬だとだけ言っておこう」


 効果を詳しく説明できない回復薬ってなんだよ。本当に回復薬か?


「あんまり変な薬を売るなよ。警備兵に捕まるぞ」

「大丈夫だ、問題ない」


 本当に問題ないのか怪しいところだな。どれくらい怪しいかというと、カンナの回復薬くらい怪しい。いや、カンナもその辺のことは気を付けているのかもしれない。決めつけるのは良くないな。前に聞いた時は合法で健全な薬しか作らないと言っていたしね。


「本当に大丈夫なんだな?」

「うむ、世の中金があればなんとかなるものだ。後はわかるだろう?」


 わかりたくない。わかりたくないけど、わかってしまった。こいつ警備兵の連中にワイロ送ってやがる! 回復薬を売るのにワイロが必要って、それもう回復薬じゃないだろ。


「合法で健全な薬しか作らないんじゃなかったのかよ」

「作っているぞ。合法で健全な薬をな」

「健全な薬を売るのにワイロが必要なのか?」

「まあ……そういうこともあるさ」


 あるわけないだろ。あと、露骨に目をそらし過ぎだ。高級店をオゴってもらうことに少しは罪悪感があったが、この調子なら明日は遠慮なくイケそうだな。


「キナコ、ユリカ、明日は好きなだけ食べていいぞ。なんならお持ち帰りも頼むといい」

「ワーイ。みんなでいっぱい食べようネ」

「楽しみですわ!」

「待ってくれ! 何故それをアキラが決めるのだ! 金が、私の金がぁ」


 ワイロに消えるくらいなら俺たちの胃袋へと消える方がよっぽど良い。

 ダークな活動資金がなくなる上に、俺たちは美味しいものを食べられる。一石二鳥だな。


「くっ、決まってしまったことは仕方がない。私も腹をくくろう。なに、よく考えれば明日からより一層金策に励めばいいだけじゃないか」

「よく考えなくてもいいんだぞ。金なんてゆっくり貯めればいいじゃないか」

「何を言っているのだ。金はあればあるほどいいに決まっている。まずは金を増やさないことには始まらないだろ」


 金と一緒に前科も増えそうなのが問題なんだよなぁ。


「なんでそんなにお金が欲しいんですの?」

「効率よく冒険をするなら金が必須だろう。良い宿屋に泊まるためにも、強力な武器を買うためにも、金は必要だ」

「世の中にはお金では買えない大切なモノだってあるんですわ。お金に囚われるのは良くないですわ」


 ユリカは非常に良い事を言っているが、アイテム袋に入ったパンツを見ながらなので台無しだ。確かにそれはお金では買えないモノだけど、パンツに囚われるのも良くないぞ。


「まあ、それは置いといて」

「置いとかないで下さい。今からお金で買えない大切なモノについて、具体的にカンナに説明するのですから」

「パンツの話なんて聞きたくないだろ。見ろ、カンナがすごく嫌そうな顔をしているぞ」

「これは教育が必要ですわね」


 なんの教育だ。


「そんなことよりも、そろそろ暗くなってきただろ? ボス部屋に戻らないか?」

「あら、もうそんな時間ですのね。続きはボス部屋でたっぷり話しますわ」

「おう、それならいいぞ。俺は先に寝るから静かにな」

「待ってくれアキラ。私を見捨てないでくれ」


 今日は朝早く起きたからかなり眠い。それに、明日は土をどかすために穴を掘らないといけないから早く寝るとしよう。


「無視しないでくれ。ユリカからいつになく本気のオーラを感じるんだ。このままでは変態に染められてしまうかもしれない」


 さーて、明日も一日頑張るぞ!


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