レベル18 アキラは仲間ですわ!
この部屋に三つある扉から、次々に湧き出してくるゴブリンたち。
「ふむ、中々の数だ。どうする? 戦うか、それとも一度一階に撤退するか?」
「撤退は出来ませんわ。階段は先ほどアキラが埋めてしまいましたわ」
「ごめんなさいごめんなさい。すべて俺が悪いです」
「気にしないで下さい。お互いの失敗をカバーし合うのが仲間ですわ!」
なんて優しい言葉だ、ユリカが天使に見えるよ。
「ああ、私たちは仲間だ。例えアキラが女の子のパンツに興味津々の変態でも、私は受け入れよう」
「だからそれは勘違いだってば! 俺はそんな趣味ないから!」
「ええっ! アキラは私の仲間じゃなかったんですの!?」
ユリカの言ってた仲間ってそっちの仲間かよ! だとしたら俺は仲間じゃないぞ。
「……三人とも、ゴブリンのこと忘れてないかナ?」
はっ、そうだった。今はゴブリンを迎撃しなければいけないんだ。パンツの話をしている場合じゃない。
見ると、左右の扉と正面の扉からは数えきれないほどのゴブリンがあふれ出している。すべて倒すのは骨が折れそうだ。
武器を構え、ゴブリンとの戦闘に備える。来るなら来い、レベルの差を思い知らせてやる。
扉からこの部屋へとなだれ込んできたゴブリンが、一歩、二歩と俺たちへ歩みを進める。そして三歩目を踏みしめたその瞬間……なんと落とし穴の罠が発動しゴブリンたちは穴に吸い込まれていった。
「……」
三つの扉を囲むように設置されている、三つの落とし穴。穴に気が付いたゴブリンが扉へと引き返そうとするものの、扉の向こうからやって来た状況を把握していないゴブリンたちに押されて次々と落とし穴へと落下していく。
警報装置の罠が部屋に存在するのに、発動したところでゴブリンがこの部屋に侵入することができないなんて。なんというガバガバ設計のクソダンジョンなんだ。
この塔の設計者はどうしても冒険者を落とし穴にハメたかったのだろう。だからすべての扉の真ん前に落とし穴を設置したに違いない。その結果がこれである。
「……私たちの勝利のようだな」
「……そのようですわ」
仲間と協力してピンチを乗り切ろうという、あふれ出す戦意はどこにぶつければいいんだろ。
こんなこともあるか、そう思い攻略本を開こうとしたその時だった。
*レベルアップ! アキラはレベル9になった!*
えっ、経験値入るのかよ!
「どういう状況ですの?」
「おそらく、警報装置のスイッチを押したことがゴブリンの死につながったので、経験値が入ったのではないか」
つまり他人の作った罠であったとしても、その罠にハメるためのサポートを行ったならサポートをした人にもちゃんと経験値が入るっていうシステムなのかな?
それならば、やることは一つ。
ビー! ビー! ビー! ビー! ビー!
ビー! ビー! ビー! ビー! ビー!
ビー! ビー! ビー! ビー! ビー!
*レベルアップ! アキラはレベル10に上がった!*
◇
「ふー、ボタンを連打しすぎて指が痛いな」
俺たちは、部屋にある警報装置のスイッチを連打しまくった。ひたすら押しまくった。三十分ほどそれを繰り返してたらゴブリンが来なくなったので、二階にいるゴブリンはほとんど倒したのかもしれない。
「私の頭脳を持ってすれば、敵に囲まれた状況を切り抜けることなぞ造作もないことだ。また一つ、私の強さが証明されてしまったな」
「今回は俺たち何もしてないだろ」
ダンジョン製作者が墓穴を掘ってくれたおかげでの勝利である。ちなみにその墓穴に入ったのは大量のゴブリンたちだ。
「それよりもこの後はどうするんだ? 扉の前の落とし穴をジャンプで飛び越えていくのか?」
「……攻略本によると、この部屋にはボスの部屋に直通の隠し通路があるらしいぞ」
「フフッ、冗談だろう? ボス部屋へ速攻たどり着ける隠し通路とか、クソダンジョン以外の何物でもないではないか」
「あのアホみたいな落とし穴を見て、このダンジョンがまともに見えるのか?」
「……見えないな」
隠し通路は、ボス部屋にいるボスが罠に引っかからずに一階に降りるための通路らしい。親切設計だね、ダンジョンのボスゴブリンにとって。そして俺たち冒険者にも。
隠し扉があるのは部屋の隅っこみたいだ。部屋の隅に移動して隠し扉がある場所の壁を見ると、
『ぼすのへやへのみち めじるし』
と書かれていた。
「アキラよ、この通路は罠ではないのか? 流石に露骨すぎるだろうこれは」
「攻略本を見た感じだと本物だな。ちなみにこの通路には罠も一切ないみたいだぞ」
「昨日の夜念入りに回復薬を準備したのは一体なんだったのだろうな。この程度のダンジョンなら手ぶらでもクリアできたのではないだろうか」
確かにその通りだと思ったものの、よく考えたらカンナは怪しげな粉を袋にたっぷりと詰めただけだろ。使いどころがなさすぎるアイテムなので、実質手ぶらみたいなものだ。
「一つ聞いていいか? カンナはどんな状況を想定して怪しげな粉をあんな大量に持ってきたんだ?」
「村の冒険者が私たちの攻略を邪魔して来た時に投げつけてやろうと思っていたのだ」
まさかの対人戦想定かよ! というか準備したのは回復薬じゃなかったのかよ!
「まあ、対人戦に関してはアキラとキナコが一枚上手だったようだがな」
そう言いながら落とし穴の方に視線を向けるカンナ。ぐおおおお、その話題を出すんじゃない。俺も結構後悔してるんだからな。
「さて、こんなところで話し込んでいても仕方ない。ボスの部屋のやらへ行こうじゃないか」
「そ、そうだな。こんなダンジョンさっさと攻略してしまおう」
カンナの一言で俺たちは攻略を再開した。
隠し通路の壁には窓があるので、明るさは十分だ。今更ながら、俺はたいまつを持って来ていないことに気がついた。もしも明かりが必要な真っ暗なダンジョンだったら、村へと引き返す必要があったかもしれない。
入念に準備したと言いながら、俺たちのアイテム構成はこのダンジョン構成並みにガバガバだ。まあ、今のところ順調に攻略できているのだから良しとしておこう。このダンジョンは俺たちが本気を出す必要もなかった。そうだ、俺たちは手加減をしているんだ。そういうことにしておこう。
隠し通路をしばらく歩いていると、正面から一体のゴブリンが歩いて来た。すぐに鑑定のスキルを発動する。
『ゴブリンファイター レベル:5』
今までに出会ったゴブリンたちよりも一段上の強さを持ったモンスターのようだ。
「グギギギ、ニンゲンヨ、ココガ、オ前タチノ、墓場ダ。オレハ、コノ……」
「包囲しろ! 生きて帰れると思うなよ!」
「セイヤっ! ハァっ!」
「ぐおおお、待て! セリフの途中に攻撃してくるんじゃない!」
「突然流暢にしゃべり出してんじゃねぇ!」
さっきまでの片言なじゃべり方はなんだったんだよ!
ツッコミを兼ねた俺の拳がゴブリンの額へとヒットし、ゴブリンのHPをゼロへと削る。
「ぐううう。例え俺を倒そうと、第二、第三のゴブリンが現れ必ずやお前たちを倒すだろう」
「よし! それじゃあゴブリンは絶滅させないとな!」
「あ、いや、待ってくれ。今のは勢いで言っただけだ。嫁のことは見逃してくれぇ。ごふっ」
最後の力を振り絞り奥さんのことを庇うなんて、敵ながら天晴なヤツである。
ふと見ると、一冊の本がゴブリンファイターのドロップアイテムとして地面に落ちていた。拾い上げてその本のタイトルを読んでみる。
『彼女いない歴=年齢の男でも出来る! 簡単婚活パーフェクトガイド』
えっ、あれ? 嫁がいるんじゃなかったのか? そうか、きっと昔使っていた婚活本なんだな。そうに違いない。最後のセリフが空想の嫁の命乞いなんていう悲しいゴブリンファイターなんて存在しないんだ。俺はそっと本を元の位置に戻した。
「先を急ぐか」
その後俺たちは一本道の通路を歩き続け、ボスの部屋の扉の前へと到着したのだった。




