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レベル16 準備は完璧だヨ

 太陽が昇り始めた頃、俺たち四人はレベ村を出発し、ゴブリンの塔へと向かい始めた。


 本当は昨日の内にダンジョンへと向かう予定だったけど、予想以上にアイテムを揃えるのに時間がかかってしまったために予定を変更したのだ。


「まさか出発が翌日になってしまうとはな」

「仕方ないだろ。道具屋が閉まってたんだから」

「あっ、ごめんなさい。私、鍵開錠のスキルを覚えていたのを忘れてましたわ。私がしっかりしていれば昨日の内にアイテムを揃えられましたのに」


 それはアイテムを揃えるとは言わない。ただの窃盗だ。


 ゲームとは違って勝手に人の家に入ってアイテムを漁るのは犯罪だからな?

 危うくゴブリン討伐の前に俺たちが村人に討伐されてしまうところだった。


「ゴブリンの塔はこれまでのダンジョンとはわけが違う。みんな、準備はいいか?」

「私はクエストの前には最低でも一度は持ち物をチェックする主義だ。忘れ物などない」

「私も準備は完璧ですわ!」

「私もだヨ」


 みんなも俺と同じように、今回の攻略にはかなり気合を入れているようだ。なんと言っても初めての罠付きのダンジョンだからな。油断はできない。


「朝食代わりにパンを用意したからよかったらみんな食べてくれ」

「気が利くじゃないかアキラ。頂こう」

「朝ごはん食べてないからお腹空いてたんだヨ」

「私ももらいますわ」


 腹が減っては戦はできぬ。俺たちは歩きながらパンを食べる。


「私も朝食としてパンツを用意したんですけど、皆さん食べますか?」


 今何かおかしな言葉が聞こえたような気がする。聞き間違いかな?


「ユリカもパンを用意していたのか?」

「とてもおいしいですわよ。皆さんも食べますか?」


 なんだ、やっぱり聞き間違いだったようだ。いくらユリカが変態だからって、そこまで手遅れじゃないよね。


「一つもらおうかな」

「わかりましたわ」


 腰にぶら下げているアイテム袋に手を入れ、中に入っている物をとり出す。アイテム袋から出てきた手に握りしめられていたもの、それはパンツだった。


「パンはどこにあるんだ?」

「パンなんて持ってませんわ」


 やはりユリカは完全に手遅れだったようだ。


 嫌な予感がしたのでユリカのアイテム袋を調べてみる。すると、中には見事にパンツしか入っていなかった。


「ユリカ、昨日買い込んだ薬草やら解毒薬やらはどこにいったんだ?」

「パンツを入れたらアイテム袋にスペースがなくなったので、泣く泣く宿屋に置いてきましたわ」

「準備は完璧なんじゃなかったのか?」

「完璧ですわ!」


 俺はまだユリカを過小評価していたようだ。まさかここまでバカだったとは。


「安心してくださいアキラ。私のシミュレーションでは、このアイテム構成がもっとも安全にダンジョンを攻略できますわ」


 どこに安心できる要素があるというのか。そして何をどうシミュレーションしたのか。俺にはまるで理解出来ない。


 もう大分村からは離れてしまっている。このままダンジョンへと向かうしかないだろう。


「他の二人は、ちゃんとアイテムを持って来ているよな?」

「愚問だぞ。私を変態ユリカと一緒にしてもらっては困る」

「一応確認させてくれないか?」

「いいぞ。存分に確認してくれ」


 カンナは大丈夫かもしれない。そう思っていた俺だったが、その考えは二秒で打ち砕かれた。袋の中には、謎の白い粉がギッシリ詰まっていたのだ。麻薬Gメンもびっくりの量である。いや、まだだ、これは粉状の回復薬かもしれない。わずかな希望にすがるように、俺はアイテムを鑑定する。


【謎の白い粉Gグレート】非常に高い回復効果を持つが、幻覚症状もグレートである。依存性:中


 グレートな幻覚症状か、さぞ気持ちよくなれることだろう。俺は気分が悪くなってきたけどね。


「苦労したんだぞ。このアイテムの調合材料であるハチミツがなかなか手に入らなくてな」

「昨日買った回復薬と解毒薬はどこにいったんだ?」

「調合の材料として使ったぞ」

「……」


 落ち着け。これはまだマシだ。少なくともパンツよりかは役に立つ可能性がある。プラス思考で行こう。


「キナコのアイテム袋も見せてくれないか?」

「うん、いいヨ」


 どうせダメだろうなぁと思いつつも、袋の中を確認する。中に入っていたのは、大量の食糧だった。


「食べ物ばっかりだな」

「ピクニックといえばおいしいご飯なんだヨ」

「ピクニックじゃなくてダンジョン攻略なんだが」

「塔の屋上でみんなで食べようネ」

「薬草と解毒薬はどこにいったんだ?」

「宿屋に置いてきたんだヨ」


 だ、大丈夫だ。これも役に立つかもしれない。そうだ、ユリカとカンナが食糧を持って来ていない以上、この食糧は必要なものだ。量が多すぎる気がするけど、そこは気にしないでおこう。


「今回のダンジョンには罠があるということだが、具体的にはどんな罠があるんだ?」

「……色々あるぞ。定番の落とし穴や、毒矢が飛ぶ壁、ゴブリンが寄ってくる警報装置とかもあるらしい」


 ちなみに仲間のアイテム袋という罠もなかなかに強力だった。俺の精神力を半分くらい持って行った。


「一番危険なのはどれだ?」

「攻略本を見た感じだと落とし穴かな。落下先に大量の槍が仕込んである。落ちたら即死かもしれない」

「即死トラップか。中々に難易度の高いゲームだ」

「ゲームじゃなくて現実だぞ。セーブ機能もリスポーンもないだろうから、気を付けないとな」

「わかっている」


 話しぶりを聞いた感じだと、カンナもこれがゲームではなく、現実だとわかっているみたいだ。ダンジョン攻略をゲームと表現したのは、緊張を和らげるためのカンナなりの冗談なのだろう。


「警報装置の罠ですか。県外のお嬢様学校の寮を攻略しに行った時のことを思い出しますわ」


 これもユリカなりの冗談なのだろう。頼むからそうだと言ってくれ。


「あの日の無念、今日こそ晴らして見せますわ。卑劣な警報装置なんかには負けませんわ」


 戦う相手がピンポイントすぎるなおい。それに卑劣なのは盗みに入ったユリカの方じゃないか。


「そんな顔するなアキラよ。ユリカが変態なのはわかり切ったことだろう?」

「ああ、そうだな。今更悩んでもしかたないことだったな」

「失礼しちゃいますわ。今の私の話のどこに変態的な要素があったというんですの」


 むしろ変態的な要素しかないと思うんだが、ユリカの中では女子寮に侵入するのは変態ではないのだろうか? だとしたら変態のハードルが高すぎる。


「ユリカにとっての変態行為ってのは、どういうものを指すんだ?」

「そうですね、人前で男女で手をつなぐのは変態だと思いますわ」

「その基準だとパンツを盗みに行くユリカはモロ変態じゃないか?」

「いえ、女の子のパンツは生活必需品なのでセーフですわ」

「アウトに決まってるだろ!」


 他人のパンツを生活必需品だと言い張る時点でどう見てもアウトじゃないか。ユリカの思考回路は相変わらずわけがわからない。


「考えても無駄だ。ほらよく言うだろう。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ、とな」

「それはどういう意味の言葉なんだ?」

「私にもよくわからない。カッコいいから一度言って見たかっただけだ」


 ダンジョンにたどり着く前から疲れてきたんだが?


 見晴らしの良い草原を歩き続け、そろそろ話題も尽きてきたころ、俺たち四人はようやくゴブリンの塔へと到着した。


「これがゴブリンの塔か。なんというか、予想外のサイズだな」


 石のような、レンガのような、なんとも言えない材質で出来たその塔は、六階立てのマンションに匹敵する大きさだった。俺は初めて見た塔型ダンジョンの雰囲気に押されていた。


「すっごく高いネ。屋上で食べるご飯が楽しみだネ」


 この威圧感のあるダンジョンを見て感想がそれって、キナコはなかなか図太い精神を持っているな。


 女将さんに聞いた話だと、昼頃には何組かの冒険者のパーティが、このダンジョンを目指して村を出発するらしい。なのでなるべく早く攻略に取り掛かる必要がある。


 ステータス画面に表示された時計を確認する。現在の時刻は十一時三十分だ。急がなければいけない。


 俺たちは手早く昼飯を済ませ、ダンジョンの中へと足を踏み入れた。


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