レベル14 称号獲得作戦ですわ
「……ようやく買うことができた。まさか武器一つ買うのにここまで苦労するとはな」
「お疲れさま」
武器一本買うのに五時間以上かかってしまうとは、流石に予想外だった。それもこれも、武器屋のおっちゃんの話が長いせいだ。
「まったく、なぜ私があんな目に遭わなければならないのだ」
「自業自得だからな?」
原因はカンナのモノマネだからな?
「まったく、なぜ私があんな目に遭わなければならないのだ」
「原因はカンナだから。目をそらしてないでこっちを向け」
「まったく……」
「自・業・自・得だ!」
現実から目をそらすのをやめて自分の非を認めなさい。
「ていうか、視線で会話してた時に『元はといえば、私のせいか』みたいな事言ってただろ」
「うむ、言ったな」
「もう答えは出てるよな?」
「アレはその方がカッコいいと思ったから言ったのだ。自分の過ちを認め悪のモンスターにただ一人挑む主人公。カッコいいだろう?」
「さりげなく武器屋のおっちゃんを悪のモンスターにするんじゃない。それから主人公は俺だから」
「まったく、なぜ私が……」
「それはもういいから!」
話が進まないだろ!
なおも話をループさせようとするカンナだったが、ユリカとキナコのジトッとした視線を受けて何も言わなくなった。
どうやら少しは罪悪感があるらしい。
「キナコ、スカートが土で汚れているぞ」
長時間アリを潰すためにひざまずいていたので、土がついてしまったのだろう。
「ありがとう。アリを全滅させるのに夢中になりすぎちゃったんだヨ」
土を手で払いながら、可愛い笑顔をこちらへと向けてくる。表情は可愛いのに、言ってることは可愛くない。全滅させたのか……。アリがちょっとかわいそうだ。
「まったく、時間を無駄にし過ぎだぞ、キナコ?」
飽きれた表情でつぶやくカンナ。その両サイドに素早く陣取る俺とユリカ。
「ああ、確かに時間を無駄にしたよ」
「ええ、とっても時間を無駄にしましたわ」
そしてカンナへとささやきかける俺とユリカ。
「朝一で武器屋に行ったのにもう昼間だな」
「今日は朝から一狩行く予定でしたのに、もうお昼ですわね」
「うぐぐ、ぐぐ……ごめんなさい」
少し言い過ぎたかな? 別に俺も本気で怒っているわけではないので、この辺にしておこう。
「無駄にしてないヨ?」
昼飯の提案をしようとしていたが、それよりも先にキナコが話し始める。
「無駄にしてないって、アリを潰していたことか?」
「うん、そうだヨ。アリを全滅させたら、アントキラーっていう称号を手に入れたヨ。効果はアリ族(モンスター含む)に1.2倍のダメージだヨ」
えっ、何そのまともで実用性のある称号。しかも名前も結構カッコいい。俺も欲しいんだけど。
こうしちゃいられない、俺もアリを潰しにいかなきゃ!
「すまんが用事ができた。今日はここで解散にしよう」
この辺のアリはキナコが全滅させたようだし、別の場所を探さないといけない。確か昨日広場でアリをたくさん見たような気がするぞ。
「待つのだアキラよ」
「抜け駆けは許しませんわ」
感づかれたか。人を引きずり込む泥沼二人組が俺の前に立ちはだかる。
「アリさんがかわいそうですわ! 潰すのはやめるべきですわ!」
「邪魔をするんじゃない。大体、二人もアリを潰せばいいだろ? 称号は一人しか手に入れられないわけじゃないんだし」
「今更良い称号が一つ手に入っても焼け石に水……、くっ」
「過去は消せないんですわ」
コイツらどんだけ悪い称号持ってんだよ!
「それじゃあアリのついでにその辺の虫も潰せばいいだろ。ムカデキラーとかダンゴムシキラーとか手に入るかもしれないぞ」
めんどくさいので投げやりに適当なことを言ったが、それを聞いた二人は目の色を変えてやる気をみなぎらせる。
「なるほど、その手があったか」
「潰しまくりますわ!」
そして猛ダッシュでそれぞれどこかへと走っていく二人。
アリさんがかわいそうってのは俺の空耳だったのかと思う位の勢いだ。
「俺も負けていられない。キナコ、アリ退治のコツを教えてくれないか?」
「任せテ!」
こちらにはベテランのキナコがいるのだ。先にクソ称号の泥沼から出るのは俺だ。あの二人には絶対に負けたくない。
「早速広場に行くぞ!」
「おー!」
武器屋から広場まではあまり距離が離れていないので、十分も歩いたら到着した。この広場にはユリカとカンナの姿はないようだ。別の場所にアリを潰しに行ったらしい。
天気が良く暖かいこともあって、村の広場にはそれなりに人が居る。
俺は地面を眺めながら人を避け、広場を歩いて行く。無駄に真剣な表情をした俺に村人たちが怪しげな視線を向けてきたが、今はそんなものを気にしている場合ではない。俺の目標はただ一つ、勇者っぽいカッコいい称号だ。
広場の端まで歩いた時、俺はようやく目的のモノを発見した。アリの巣である。
「ターゲットを発見。せん滅を開始する……!」
「気合入り過ぎじゃないかナ?」
ようやくまともな称号が手に入るのだから、それは仕方がないことだ。
「さてキナコ、やり方を教えてくれないか?」
「うん、これを使うのが手っ取り早いヨ」
キナコが取り出したのは、透明な瓶だ。中には怪しげな紫色の液体が入っている。
「それはなんだ?」
「カンナが持っていた怪しげな草を水に溶かしたモノだヨ。これを巣にかけると一発だヨ」
カンナのヤツ、やはり怪しげな草を使い怪しげな薬を作ってやがったか。しかし今はそのおかげで称号を手に入れることができるのだ。今だけは感謝しておこう。今だけは。
俺はキナコから瓶を受け取り、それをアリの巣へと注いでいく。液体をかけられたアリはピクリとも動かなくなった。効果は抜群のようだ。
「よし! ドンドンかけて行くぞ!」
「おー!」
広場を歩き回り、巣を見つけては液体をかけて行くということをひたすら繰り返した。最初は称号のためにやっていたけど、気が付くと途中からだんだんと楽しくなってきていた。俺は満面の笑みでアリの巣に液体をかけまくった。
なんというか、童心に帰った気分だ。昔じいちゃんの家に遊びに行ったとき、山で似たようなことをしてたっけなぁ。じいちゃんは元気にしてるだろうか。子供のころから引きこもりがちな俺のことを心配していたじいちゃんに、立派に成長した俺の姿を見せてやりたいぜ。
(立派な引きこもりに成長したネ!)
(視線でツッコミを入れるのはやめてくれ。あと今の俺は勇者として立派に活動してるから!)
「それじゃあこの世界に来る前は立派な引きこもりだったのかナ?」
「……、ノーコメントで。それはそうと、なんで俺が考えていることが分かったんだ?」
「声に出てたヨ?」
いつの間にか俺は独り言をしゃべっていたみたいだ。アリの巣に紫色の液体をかけながら独り言を喋る高校生。冷静に考えたらかなり危ない人物かもしれない。
(しかも引きこもりだもんネ)
(引きこもりじゃないから! 勇者だから!)
このままでは引きこもりのレッテルを貼られてしまう。なんとかして話題を変えなくてはいけない。何か話題はないかと辺りを見回してくると、距離を保ちながら俺たち二人のことを観察している村人たちの姿が目に入った。ヒソヒソと小声で何か話しているようだ。何を話しているのだろうか。
「キナコ、村人たちの会話聞こえるか?」
「うん、聞こえるヨ」
「どんなことを話しているんだ?」
俺がそう言うと、キナコは神妙な表情を作り、身振り手振りを交えて喋り始めた。
「ヒソヒソ、あいつら何やってんだ?」
「ヒソヒソ、村の広場に怪しげな液体をまいてやがる。一体なんなんだ……」
「俺、聞いた事あるぞ。昔、邪悪な魔導士が液体で魔法陣を描き、その中の生物を根こそぎ石に変えてしまったらしい」
「何!? それじゃあもしかしてあいつらは……」
「ああ、さっきから、広場の隅を円を描くように歩き周り、怪しげなモノをふりかけている。ここにいたらヤバいかもしれない」
「そんな……!」
何か盛大な勘違いをされてないか? 俺が生物を石に変える大魔法なんて使うわけないだろ! ……そもそも初級の魔法も使えないんだから。言ってて悲しくなってきた。
それにしても、村人たちの吹き替えをするキナコはノリにノッっている。もしかして、昨日の吹き替えにキナコも参加したかったのかな?
村人たちの会話は非常に気になったけど、俺にはカッコいい称号を得るという大事な目的がある。
なので村人たちのことは無視し、アリの巣に液体をかけ続けた。
それから三つほどアリの巣を全滅させたとき、俺の脳内にあのアナウンスが流れ始めた。
*【称号】……
来た、称号ゲットのアナウンスだ。ようやく目標達成だ。
邪悪な魔導士(偽)を手に入れました!*
違う、これじゃない。こんな称号は要らない。
隣を見ると、キナコが微妙な表情でこちらを見ていた。どうやらキナコも俺と同じように良くない称号が手に入ったようだ。
「このことはユリカとカンナには秘密にしておこうネ」
「ああ、もちろんだ」
仲間が増えたことを喜ぶあの二人の笑顔が目に浮かぶようだ。絶対にバレないようにしなければいけない。
「何を秘密にするんですの?」
俺の背後から、やたらとテンションの高いユリカの声が聞こえてきた。
「今日はめでたい日だ。二人の仲間入りを祝福しよう。ようこそこちら側へ」
振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべたユリカとカンナがいた。一体どこからわいてきたんだこいつら。
「コングラッチュレーション」
「コングラッチュレーションですわ」
俺とキナコの秘密は五秒と経たずにバレてしまったようだった。なんでこんなにカンがいいんだよこいつら。
「そういうお前たちは何かいい称号手に入ったのか?」
「おっと、もう日が暮れる時間か。速く宿屋へ帰って晩御飯にしよう」
「そうですわ。急いで帰りますわよ」
そう言い、一目散に宿屋へと走る泥沼二人組。その速度はかなりのもので、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
「あの二人がクソ称号を手に入れた方に百ゼニーかけよう」
「私はあの二人が変な称号を二つ手に入れた方に二百ゼニーかけるヨ」
何ともむなしい会話である。
「……俺たちも帰るか」
「……そうだネ」




