レベル13 新しい武器を買おう
「このゴールドリングを買い取って下さい」
「どれ、ちょっと見せてみろ」
俺たちは今、武器屋へと訪れていた。
ゴールドリングを買い取ってもらい、そのお金でカンナの新しい武器を買うためである。
「鍛え上げられた鋼の肉体……たまらん」
「こら、余計なことを言うんじゃない」
カンナがふざけて昨日の防具屋のおっちゃんのセリフを真似するので、俺は急いで口をふさいだ。
今の聞こえてないよね?
ゴールドリングを鑑定するおっちゃんを見ると、一見何も聞こえていなかったかのように見える。しかしよく見ると、その顔は脂汗にまみれており、目線は明後日の方を向いている。
「このリングは千ゼニーで買い取ろう」
「ありがとうございます」
ガシッ。俺はお金を受け取るために伸ばした手をおっちゃんに捕まれた。
正面を見ると、この世の終わりのような表情をしたおっちゃんの顔が目の前にあった。
「お前ら、どこまで知っている?」
「何も知りません。聞いてもいません」
「とぼけるんじゃねぇ。お前たち聞いてたんだろ、広場での俺とハニーの会話をよぉ」
「ハニーって誰だ?」
やめろカンナ、聞くんじゃない。その質問は開けてはならぬパンドラの箱を開くようなものだ。
「そんなの防具屋のヤツに決まってんだろ。アイツは俺にとって世界一のラブリーハニーだ」
熊のような体形のおっちゃんが、同じくクマボディーなおっちゃんをハニーって呼ぶなんて……。そこには俺の想像が及ばない世界があった。
今まで誰にも言えなかったからか、一度話し出したおっちゃんの勢いは止まらない。
聞いても居ないのにハニーとの出会いを語り出したのだ。
「あれは俺がいつも通り婚活パーティに参加した時のことだった。その時は参加者全員がなかなかのいい男でな」
なぜ婚活パーティなのに男しか参加していないのかは非常に気になったが、積極的にそれを聞く気にはなれなかった。
「その時俺はアイツに言ったんだ。俺はもうお前を離さねぇッてな」
完全に自分の世界に入り込んで語りまくっていた。ていうか最初のこの世の終わりのような表情はなんだったんだよ。
「ドラゴンにさらわれたハニーを追って、俺は秘境にある洞窟に入り込んでな」
「さりげなく創作を混ぜないで下さい。なんでドラゴンがおっさんをさらうんですか。普通さらうとしたらお姫様でしょ」
「ヤツは鼻息を荒くしていたからな。ハニーのパーフェクトボディがヤツの性欲を刺激したに違いない」
どう考えても刺激したのは食欲だろう。そう考えるとつじつまが合う。
それにしても話が終わる気配がない。おっちゃんはドラゴンを倒すとこまででプロローグは終わり、次は第一章だなとか言っているけど、その話はいつまで続くのだろう。
早く武器を購入して立ち去ってしまいたい気分だ。
「俺たち武器を買いたいんですけど」
「まあ待て、これからがいいところなんだ」
「今日はこの後やることがあるんでまた今度にして下さい」
やる事とは、もちろん武器屋から立ち去る事である。
「そうか、それなら仕方ないな。今度来た時は第一章から第五章までをまとめて話してやるから楽しみにしてろよ」
俺は二度と武器屋に近寄らないと心に誓った。
「それで、どんな武器が欲しいんだ?」
「カンナ、予算は千三百ゼニーだ。好きなのを選んでいいぞ」
「了解だ」
カンナが武器を選び始めたので、俺たちは少し後ろに下がり待つことにした。
ようやく解放された。まるでスキップできないクソゲーのオープニングムービーを延々と見せられ続けた気分だ。しかも内容はおっさん同士の十八禁。地獄だぜ。
「内容が濃すぎて少し疲れましたわ。私、しばらく武器屋に来たくないですわ」
「俺の中では武器屋は立ち入り禁止区域に指定された。もう二度と来ることはないだろう」
キナコは早々にリタイアして足元にあるアリの巣を砂で埋めていたらしい。流石の危機察知能力を発揮していた。
「さて、今のうちに今後の予定でも立てるか」
「武器は強いのがそろったよネ? これからどうする?」
「うーん、そうだなー」
「防具は買わなくていいんですの?」
「防具屋は現在、俺の脳内で立ち入り禁止区域に指定するかの会議中だ」
「行かない方がいいと思うヨ」
よし、たった今、防具屋も立ち入り禁止区域に指定された。二度と行くことはないだろう。
敵の攻撃なんて当たらなければいいんだから、買う必要なんてない。防具を買う金があるなら俺は武器を買う。まあ、この町ではもう武器を買えないわけだが。
「いくつか適当にダンジョンを攻略したら、次の村に行くのもいいかもしれないな。みんなはどう思う?」
「私は構いませんわ」
「いいと思うヨ」
「決定だな」
今後の予定も決まったことだしそろそろ昼飯を食べに行くか。武器屋のおっちゃんの話が長すぎたせいで、朝に武器屋に来たのにもう昼だ。
カンナは武器を買えたかなと思って武器屋の方を見ると、どうやらまだ買えていないようだった。
いくらなんでも時間がかかり過ぎじゃないか?
どうやら武器屋のおっちゃんと話し込んでいるようだ。何を話しているのだろうか。こっそり聞き耳を立ててみる。
「このブロンズメイスが欲しいのだが」
「第一章プロローグ。再びさらわれたラブリーハニー」
「いや、早く武器を売ってくれないか」
「卑劣なオークの集団を討伐するため、俺は森の中に入り込んだんだ」
地獄が再開していた。
「おいユリカ、カンナがピンチだぞ」
「私は何も聞こえませんわ。私、耳が遠いんですの」
「嘘つけ! 昨日めっちゃ盗み聞きしてたじゃねーか!」
例によってキナコはアリを埋めるのを再開している。これはどうにもならなさそうだ。
あ、カンナが助けて欲しそうな目でこちらを見ている。助けてあげたいけど、敵は強敵だ。ここは仲間と力を合わせないとな。
ユリカの方を見ると、コイツは手を合わせて成仏して下さい、成仏して下さいと呟いている。カンナが力尽きる前提で話を進めるんじゃない。
キナコはアリの巣に砂を盛り、我関せずの態度を貫いている。
そして俺は静かに後ずさり、武器屋から距離をとっている。
(おいみんな! 私を見捨てるつもりか!)
な、なんだ!? 脳内にいきなりカンナの声が……!
(かつてないほどのピンチに遭遇した結果、私の眠れる力が開花したのだ。テレパシーというスキルらしい)
どうやらこちらの声も聞こえているようだ。なかなか便利そうなスキルだな。
(フッ、ピンチに陥ったときに力に目覚めるとは、流石私だ。まさに主人公!)
(おっさんにホモ話を聞かされて目覚める主人公、カンナの冒険が今始まる……!)
(やめてくれ、それだとよくないものに目覚めたみたいだ。いや、今はそんなことはどうでもいい。みんな早く私を助けてくれ)
(英雄カンナ、ここに眠る)
(ひえっ! カンナの声が耳元から聞こえてきましたわ。成仏して下さい、成仏して下さい)
(次はあっちのアリの巣を埋めるんだヨ)
(早く助けてくれ! あれ、なんだ……声…聞こ……ない)
後ずさり続けた結果、スキルの範囲から出てしまったようだ。そこまで有効範囲は広くないらしい。
今は声は全く聞こえず、カンナの視線が突き刺さるのみだ。
諦めてくれカンナ。もとはといえばカンナが防具屋のおっちゃんのモノマネをしたのが原因だ。だからここは我慢してくれ。
そんな感じの視線をカンナに向けると、仕方ないな、元はといえば私のせいか、という内容の視線が返ってきた。
あれ、視線で会話できるならテレパシーのスキル要らなくない?




