レベル12 盗み聞きだネ
今日はよく晴れた、絶好の調査日和だ。女将さんの依頼を受けた俺たち四人は、防具屋のおっちゃんがよく現れると噂の村の広場へとやって来た。
情報の出どころは女将さんだ。「ヤツは暖かくなると広場に出没する」とかなんとか言っていた。
出没って、そんな変質者じゃあるまいし、その言い方は少しかわいそうだと思った。
「少し早く着き過ぎたようですわ」
「広場の隅のベンチにでも座って待っているか」
女将さんによると、防具屋のおっちゃんは昼頃になるとこの広場へとやって来て、武器屋のおっちゃんと昼食を食べるているらしい。なので俺たちは、おっちゃんたちの会話を盗み聞きするために広場にやって来たのだが、まだ二人は来ていないようだった。
「しかし会話の盗み聞きとは、私たちはどこに向かっているのだろう」
「俺たちは女将さんから貰える報酬へと向かっているんだ。そうだろう?」
冒険をするには装備を整える必要がある。そしてそのためにはお金が必要だ。だからこれは仕方がないことなんだ。
「ふむ、金のためなら手段は問わないか。よく言ったアキラ、やはり物事は効率よく進めるべきだ」
それだとまるで俺たちが金のためならなんでもやる無法者みたいじゃないか。俺たちは女将さんが困っていたから依頼を受けたのだ。決して高い報酬につられたわけでは――。
*【称号】ウソツキを手に入れました!*
ごめんなさい報酬につられました。
「効率よくクエストを周回するためにアドバイスをしていたら、やれ指示厨ウザいだの効率厨ウザいだのと色々言われてしまってな。まったく、あいつらは何もわかってない」
カンナが昔やっていたというオンラインゲームの愚痴を右から左へと聞き流しながら待つ事十分あまり、ようやくターゲットが広場へやってきたようだ。
「ようやく現れたか」
女将さんの情報通り、おっちゃんたちは二人そろって広場へとやって来た。手にはその辺の屋台で買ったと思われる昼食を持っている。
「そのようだな。ところでアキラ、私の話を聞いていたか?」
「聞いていだぞ、チートを使ったせいでアカウントを削除されたんだろ? 自業自得だな」
「全然聞いてないじゃないか! それは私のパーティメンバーの話だ。 私はチートなど、つ……使っていない!」
なぜ一瞬言いよどんだのか。
「大丈夫だカンナ、人間あやまちの百個や二百個くらいあるものさ。気にするなよ」
「酷いぞアキラ! 大体そんなに何百個もあやまちがある人間がいるわけがない」
「そうですわ、言い過ぎですわアキラ」
「いるかもしれないな、あやまちだらけの人間」
「アキラの言う通りだ。いるかもしれない」
「ちょっと、なんで二人して私の方を見るんですか!」
パンツを一枚盗むことを一つの過ちとしてカウントするなら、ユリカは今までいくつの過ちを繰り返して来たことになるのだろう。
「ねえ、盗み聞きはやらなくていいのかナ?」
そうだ、俺たちは女将さんからの依頼でここにやって来たのだ。ユリカのあやまちを数えている場合ではない。そもそも数えきれるとも思えない。
おっちゃん二人組は、俺たちからある程度距離のあるベンチに座ったようだ。この場所からでは会話を聞くことは出来ないので、何か策を考える必要がある。
「ここは私の読唇術の出番のようだな」
読唇術とは唇の動きから会話の内容を読み取る技術である。
「そんなもの使えたのか」
「もちろんだ。私は耳をふさいでいても母上が何を言っているのかわかるくらいだからな」
耳をふさぐような話か。間違いなく説教だな。
つまり、ただ単に同じ内容の説教をされまくったから内容を覚えただけで、読唇術は一切関係ない。
「ちなみに母上が喋り出す前に会話の内容を当てることもできる。私には超能力の才能があるのかもしれない」
ただ単に(以下略)
「よし、私が武器屋のおじさん役をやろう。ユリカは防具屋のおじさん役を頼む」
「わかりましたわ!」
カンナとユリカの二人でおっちゃんたちの会話に声を当て、俺たちに会話の内容を教えてくれるらしい。
精度の方はまったくあてにならないが、何もしないよりはマシなのでしばらく様子を見よう。
「俺の店では最近武器がよく売れていてな。そのおかげで贅沢な晩飯を食えて最高だぜ」
「お前相変わらず最高なケツしてるじゃねぇか、ちょっと触ってもいいか?」
いきなり会話の内容が最低すぎる。なんでいきなり公衆の面前でケツを触ろうとしてるんだ。
「流石にその会話はおかしいだろ。いくらダメ元とはいえ、ユリカはもう少し真面目にやってくれ」
「防具屋のおじさんは本当にこう言ってますわ」
あくまでも真面目にやっていると言い張るユリカ。どうあっても防具屋のおっちゃんをその道の人にしたいらしい。
「仕事終わりに飲む酒は格別だな。どうだ、今日一杯やりに行かないか?」
「鍛え上げられた鋼の肉体……たまらん。今日お前の家行ってもいいか?」
「昨日例の飯屋に新メニューが出てるのを発見してな。そこに行かないか」
「見れば見るほど新たな魅力を発見してしまう。やっぱりお前は最高だぜ」
会話が成立していないにもほどがある。これではとても参考にならない。
俺は早々に会話を聞くことを辞めた。二人はまだ楽しそうに吹き替えをやっているので、取りあえずは好きにさせておこう。
今日はもう諦めて、また明日盗み聞きに挑戦してみよう。それまでに何か作戦を考えておかなきゃな。
「キナコ、今日の夜は何食べたい?」
「報酬でおいしいお肉を食べに行きたいナ」
キナコは今日中に女将さんからの依頼が終わると思っているらしい。まさかユリカの吹き替え内容を、そのまま女将さんに話すつもりじゃないよな。
「どうやって報酬を手に入れるんだ?」
「ユリカが言ってることを女将さんに伝えてあげるんだヨ」
そのまま話すつもりだった。
「嘘を伝えるのは良くないぞ。防具屋のおっちゃんがかわいそうじゃないか?」
「あれは真実だヨ。報酬のためなら仕方ないんだヨ」
あれが真実だとすると、防具屋のおっちゃんは村の広場で男のケツを触ろうとする変態ということになってしまう。
「防具屋のおっちゃんにも立場というものが……」
「お肉楽しみだネ」
キナコの中ではおっちゃんを犠牲にして報酬を得ることが確定しているらしい。おいしい肉は確かに魅力的だが、嘘を伝えるのは嫌だ。どうしよう。
俺がおっちゃんの今後について考えていると、いつの間にか二人の吹き替えは終わっていた。
二人の方を見ると、その表情は大仕事をやり遂げた俳優のようだ。
「久しぶりにいい仕事をやりましたわ」
さわやかな表情で語るユリカだが、お前後半は淫語を連発していただけだろ。しかも俺に聞かせるように耳元で。なんの嫌がらせだ。
「ふぅ、大仕事だったな。これで依頼達成だろう」
カンナは途中で話題が切れたのか、後半はずっと同じ話をループしていた。何回防具屋のおっちゃんを居酒屋に誘うつもりだ。やはり読唇術は使えなかったようだな。
「さて、依頼も終わったことですし、報告に行きましょう」
「何を報告するつもりだ」
「そんなのさっきの会話の内容に決まってますわ」
「嘘を報告しようとするんじゃない!」
「嘘じゃないですわ。私、会話の内容が聞こえてたんですわ」
「だから嘘を……、えっ、それ本当か?」
「本当ですわ。キナコも聞こえてたんじゃないかしら?」
そう言ってキナコの方を見るユリカ。
「うん、聞こえてたヨ。私耳いいからネ」
「私はスキルのおかげで聞こえましたわ」
えっ、えっ、ということは、防具屋のおっちゃんは昼間から村の広場で男のケツを触ろうとしながら男に向かって隠語を連発し、さらによこしまな目的で武器屋のおっちゃんの家に泊まりに行こうとする男ということだったのか。
「あと、どうやら武器屋のおじさんとデキてるみたいでしたわ」
おおっと、ここで新事実発覚。俺の脳内はオーバーヒート寸前だ。
これをそのまま報告してもいいのだろうか。やはりプライバシーにかかわる事なので、黙っていた方がいいんじゃないか?
高い肉料理最高! もう一度食べたいぜ!!




