だから彼は刺激を求める
ヒトは誰しもが刺激を欲している。
ヒトは変わらない日常の中に自分の存在意義を見出すことができずに、非日常に憧れを抱く。
故に、そんなことから逃れるために周囲のモノから距離を取って予防線を張る。それ自体は悪くない。だがそれが行き過ぎた結果が良くない。
通常そういう事態になった場合、ヒトは気付くものだ。このままではいけない、と焦り始めるはずなのだ。
歴史上でいう『発展』の根幹には、『ヒトの欲』と言う存在が欠かせない。
硬い言い方であるが、日常的に、端的に、分かりやすく言えばこうなるだろう。
――無関心、と。
――――
高校入学。
それは、義務教育から離れた教育機関への初通学を意味する、大多数にとっては大きな意味を持つイベント。
ある人は、新たな生活に胸を輝かせる。
またある人はイメチェンをし、高校デビューを果たす。
そしてまたある人は中学からの憧れを胸に秘めて高揚した気分を押さえつけながら来る。
入学式とは、そんなイメージが大きいのではないだろうか。
生憎俺はその反対、真逆の少数派の意見が持論だ。
周りがそんな雰囲気だからと言って同じように合わせようともせず、己の型に合った生活を送る。
俺にとってこの立田岡高校への進学理由は家が近い、学力が高い、特にこれと言った校風がない――つまりは自由――といったところだ。駅よりも近いのだから、よほど学力が低くない限りはここを選ぶつもりだった。まぁ結局ここだったが。で、そんな立田岡高校もそんな新年度のときめいた空間で満たされている。
正直なところ、俺は周りが何故そんな浮ついた雰囲気になるのが分からない。いや、桜や花のにおいが混じった風が趣深いとかなら分からなくもないが、何故自分の思いまで捻じ曲げてリア充になろうとするのか。
俺ならば、自分にあった生活を貫き通す。
それは即ち、周りとは違う生活を送るということ。
いや、これは言いすぎか。つまるところ、周りに合わせずに生活するということは、必然的に自己中心的な奴だとみられるということだ。
そんな生活を送ってきた俺は、いつからか周りのことに対して興味を持たなくなった。
故に俺は周りから無知な空気、とか言われているようだ。
因みにそれが呼ばれ始めたのが、高校入学から一週間が経った四月中旬ぐらいから。まぁどうでもよかったから正確には憶えてないが。
そして現在、花びらが散って趣のなくなった桜が見える四月下旬。
「いい加減、お前は何かしようと思わないのかよ?」
「愚問だな。部活動に興味が湧かないし、リア充のお前に言われたくない」
「……そう言うと思った」
肩を竦めて箸を動かすのは、この学校、いや生涯唯一と言っていい友人。しかし、その動作は慣れたように軽く、寧ろワザとらしくも見える。大方予想はついていただろうに。
そんな友人、久保田和希とは所謂リア充と呼ばれる人種である。またその言葉から察せるように、こいつはクラス中から人気者である上に巷では告白されたという話が出回るほどの奴だ。コミュ力高い、イケメン、リア充。ラブコメ三点セット、ここにあり。
対して俺、仙台涼馬は無知な空気、という厨二病をこじらせたせていうのかと思わず突っ込みたくなる渾名を頂戴している模様。ここからもう察せるだろう。
だが俺は別に後悔などはしていない。自分の信念を捻じ曲げてまで周りに合わせることに対して苦しか感じられなかったからだ。まぁ協調ができるほどの器用さを持ち合わせていなかっただけであるが。それを巷ではそれを頑固者という。
「で、お前はどうすんだ。部活に入るべし、というのが校則なのによ」
「思い出させんな。胃が痛くなる……」
この学校には部活に入らなければならない、という校則が存在する。
俺がこの高校に進学して唯一後悔していることだよ、チクショウ。
――――
この高校において、何か活動に勤しむべし。
入学すると貰える生徒手帳に書かれている校則の一部だ。
この立田岡高校では最初にも言ったが、これといった校風がない。割と開放的であるが、その代わりに、先ほどの条文に従って部活動への参加が義務付けられている。ほかの高校にはあまりない校風だ。だが普通の高校でもほとんどの連中は部活に所属するため、この条文の内容は半ば無視されていた状態だったのだろう。
これは戦争時代を体験した校長が無理を言って捻じ込んだものらしいが、詳しくは知らない。多分、戦時中は自由云々みたいなものなのだろう。だが俺にとっては余計なお世話だ。
調べればよかったと後悔したものの、この高校へ進学した先輩とパイプを持っていたわけでもなく、PCもあまり使ったことがない。というかほぼ使えないという現代っ子としては致命的欠陥を抱えている俺にとっては調べようがなかった。
オープン・ハイスクールなるものもあったが、進学がほぼ確定している俺にとっては空気に等しいイベントだった。いつも通り勉強していれば受験で落ちるようなことは起きないだろうし。
そのため、酷く後悔の念にとらわれている。
和希曰く、違反者は自由を持つべからず。
つまり男ならば女子ばかりのところへ、女子ならば男子ばかりのところへ。例えるならば、男子であれば茶道部に、女子であれば化学部に入れられるようなものだ。完全に先生からの嫌がらせだ。何か生徒に恨みでもあるのか。(それを逆手に取るものもいるようだが、変なところで廃スペックな教師がむさ苦しい空気の中へ投げ入れるらしい)
そして月一で顔を出すことまで義務付けられており、月一で地獄を体験する羽目になる。なんでこんな校則が制定してある高校へ入ったのか、自分でも疑問を抱かざるを得ない。あ、単に知らなかっただけか。
で、一応興味を持てる部活を探しているわけなのだが……。
「見つからない……」
絶賛苦悩中だ。
頭脳系な俺に運動部は論外。かと言って女子が多数の部活も論外。別に女子が嫌い、というわけではないが、普通がいい。
それ故に化学部やPC部、茶道部(無理矢理連れていかれた)、放送部など、男子が比較的多そうなところを見学してみたものの、興味湧かず。というか放送部ってほとんど女子しかいないじゃないか。
なんというか……、馬鹿にしているわけではないが面白みに欠ける、と言った感じだ。和気藹々としているが、自分がそこへ入れそうにない。そんな感じがする。
故に言う。
苦悩中だ。
大事なことなので二回言いました。
「……散々だな」
この学校へきて散々な目にしかあっていない。特に部活。これは放課後の時間を奪うだけでなく、疲労も貯める害悪だ。ほかの中ではしらないが、俺の中ではそう思っている。まぁ口には出さないが。
首をかしげて、部活紹介の紙を見る。目ぼしいところにはすべて行ったので、その中から選ばなければならない。迷う。もちろん、悪い意味で。
明日にするか、と結論付けてカバンを肩に掛け直す。
そして踵を返した、そんな時だった。
「……あれ? 仙台君?」
面倒事が増えたと感じた瞬間だった。