新たな旅立ちの朝へ
試合場に取り残された人々。
イマイチ状況の飲み込めないサイラス。
そして無理やり連れ去られたザック。
かくして、事の結末はどうなる事やら・・・。
あたり一面水を打った様な静けさが広がる中、もぞもぞと動く影があった。
「いててて・・・。ここはどこだ・・・?」
そう、太一によって連れてこられたザックその人であった。
当人は気絶していた為に一連の騒動は眼にしておらず現状がイマイチの見込めていない。
「ザ、ザックおじさん!?」
「へ?サイラスじゃねぇか、って事はマジで学園まで来たのか・・・?」
「おじさんは、王都で留守番してたはずだよね?
さっきの黒髪の兄ちゃんは何者だよ?
俺の名前を知っていたのもそうだけど、爺ちゃんはどこだよ?
何度か声がしたと思うんだけど姿が見えなくて・・・。」
サイラスは突然の事で、太一と賢者様が同一人物と言う事に全く気が付いてなかったのであった。
「なんだ、あの野郎。何も話さなかったのかよ・・・。」
「おじさん?一体どういう事?」
「その、なんだ・・・。話すと長くなるんだが・・・。」
『あの~。一体どういうことででしょうか?
突如現れた黒髪の少年がサイラス君の対戦相手を連れて何処かへ行ってしまったようです・・・。
これは、対戦相手の不戦敗となるのかはたまたサイラス君の反則負けになるのか???』
「あー。試合中だったな。
俺はSランク冒険者のザックだ。
諸事情により今回の大会は一旦中止にさせてもらう。
後日、学園長から通達が行くように手配するから、一旦解散してくれ。」
「「「「えー!?」」」」
「「「「説明も無しに中止なんてありかよーーーー!!!」」」」
当然の様に周りから非難の声が上がる。
「いい加減にしろよ餓鬼共!
てめぇらに構ってる暇なんて無いんだよ!
文句があるなら叩き切ってやるからかかって来い!!」
先程と同じ様にあたり一面に静けさが戻る。
それと共に次々に席を立つ観客達。
「おい、サイラス一旦王都へ戻るぞ。ここで話して良い話じゃねぇんだ。」
「え?戻るって一体どうやって?
ウチまで帰るのにすぐ帰れる訳じゃ無いじゃん。
旅の準備だってしなきゃだし。」
「時間がねぇんだ、四の五の言わずに行くぞ!」
そう言いながら、ザックはサイラスの首を掴み先程自分が通って来た魔力の渦に飛び込む。
「うわーーーー。何だよコレ!何か嫌な予感がする!」
「早くしねぇと消えちまうんだよ!暴れんな、さっさと入れ!」
「だって消えかかってんじゃん!やばいよコレ!」
「だから、早くしろって言ってんだ!ホラ、逝くぞ!」
「本気で嫌な予感しかしねぇ!」
「黙ってさっさと逝きやがれ!」
言うが早いか、ザックはサイラスを蹴り飛ばすと共に自分もソレに飛び込む。
「たすけてくれーーーーーー。」
サイラスの魂の叫びと共に二人の姿が消え、それと同時にソレも消えていった。
一体何が起きた事かと、会場に残されたもの達は首を傾げるが、それに答えてくれる者は残っていない。
そして、一方のサイラス達がどうなったか見てみるとしよう。
「おっさん、一体どういう事か説明してくれよ!
それに、ウチに居たはずの爺ちゃんは何処に行ったんだよ!!」
「おいおい、慌てんなよ。
俺だってさっき聞いたばかりで気持ちの整理が全く出来てねぇんだよ!」
声を荒げるサイラスに対してザック自身もまだ状況の把握が出来ておらず混乱の最中に居た。
「良いか、良く聞けよ今から俺が聞いた事の全てを話。
それが真実かはお前が決めるんだ。」
「なんか、重そうなはなしだなぁ・・・。」
「冗談で話してんじゃねぇよ。
おめぇに話した後は国王やら獣王、それに俺だって入り口しか行った事のねぇ妖精界やドワーフの偏屈野朗共の所へ話しに行かなきゃいけねぇんだよ。
それだけで、一体どれほどの年月と苦労があるかおめぇに解るのかよ!」
「なんだよ、一体どれだけ思い話なんだよ・・・・。」
次から次へと文句を言いながら捲くし立てるザックにサイラスも気おされ
そして、事の重大さに気が付くと共に姿勢を正すのであった。
「いいか、良く聞けよ。
事の始まりはお前の試合への参加が決まった事の報告に来たときの話だ・・・。」
そして、ザックは自分が聞き及んだことの全てをサイラスに伝えたのであった。
「そ、そんな爺ちゃんがあの兄ちゃんだったって事か・・・・。
おっさん、国王様と学園への報告は任せた。」
「おい、サイラスおめぇどうするつもりなんだよ?」
「爺ちゃんには時間が無かったんだ。
俺は爺ちゃんが作ってくれた今この時がある。
俺が他の種族達の国を巡って力を借りてくる。
爺ちゃんの話が本当なら、ドワーフやエルフ、そして獣人達だって魔王に立ち向かう為に何かしていたはずだ。
俺は、爺ちゃんが止められなかった時はその意思を継いで俺が元勇者だった奴を止める!」
「おめぇ、一体どれほどの苦労が待っているのか解っているのか?
Sランクと言われた俺ですら尻込みする様な話だぞ?」
「あぁ、解っているつもりだよ。
でもね、爺ちゃんが何千年と言う途方も無い時間たった一人で戦って来た事だ。
俺一人で何とかなるとは思っていない。
でも、爺ちゃんの気持ちも痛いほど解るんだ。」
「そうか、俺からはもう何も言う事はねぇよ。
賢者様の姿が偽りだったとしても、俺が賢者様やお前と過ごした時間に嘘は無かったと信じている。
そのお前が言うんだ、俺はサイラス、お前を信じるぞ。」
「あぁ、おっさんならそう言ってくれると信じてたよ。
おっさんには人間達を頼むよ。
過去のしがらみに囚われず信じてくれる奴らはきっと少なくないはずだ。
昔から何度も過ちを繰り返してきたかも知れない、でもここでやり直せないなら俺は人を信じる事が出来なくなる。
あの厳しい爺ちゃんですら見捨てなかった人間だ、きっと何とかなるはずだよ。」
「そうだな・・・。
こんなちいせぇお前に任せる不甲斐ない俺だが、こっちは任せろ。
おめぇに顔向け出来るように、お前が笑顔で戻ってこれるように
世界中を巡って話をつけてくる。」
こうして、二人は朝まで語り合うと、サイラスは眠るザックを横目に世界の異種族の国へと向かい旅立つのであった。
それから数十年の時を経て一人の壮年の人間が多種多様な種族を引き連れ旅をしている姿が各地で見かけられるのであった・・・。
つたない文章のなか最後までお付き合い下さいました方々本当にありがとうございました。
更新が途切れても気長に待っていただいた方々何とか完結する事が出来たのも
皆様のお陰と思います。
この続きの話が出来るかは解りませんが、作品の投稿に着いては時間の許す限り続けていこうと思います。
また何処かでお会い出来ればと思います。
長くなりましたが、感想など頂けると次回作への励みになります。
それではごきげんようノシシ




