表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ホラー短編作品集

イドノナカ

作者: 候岐禎簾

「おじいちゃん虫取に行ってくるね!」


「あぁ、洋一よういち行っておいで。5時までには帰ってくるんじゃぞ」

おじいちゃんは笑顔でそう言った。


ボクは夏が好きだ。なぜなら田舎のおじいちゃんちに行けるからだ。

地平線まで続く田んぼと森。ボクはこんな世界が大好きだ。


「洋一ちょっと待ちなさい。これを…。」

そう言っておじいちゃんはボクに何かを手渡した。


「おじいちゃんなにこれ…?」


木人札ぼくじんふだじゃよ。この地方に伝わるお守りじゃ。無事に帰ってくるようにという思いが込められているから捨てたりしちゃダメじゃぞ」


「捨てたりなんかしないよ。おじいちゃんありがとう!それじゃ行ってくるね!」


そう言ってボクは走りだした。



「う~ん、どうしよう…」

ボクはため息をついた。

珍しそうなトンボを追ってかなり森の奥まで来てしまったのだ。


「5時までには戻らないと…。開けた場所にさえ出れれば…あぁ、のどがかわいた。水筒すいとう持ってくるんだった…」

そうつぶやきながらボクは歩きだした。



「ん?あれは…?」

20分ほど歩いた時だ。目の前に井戸がある。

古そうな井戸だ。

井戸を見た時、もしかしたら水が飲めるかもしれないという思いがボクの脳裏のうりをよぎった。


「きれいな水なのかな…?」


そう思いながら井戸に一歩ずつ近づいた。


井戸の前まで来た時だ。急にボクは井戸に恐怖を感じた。

なんだかのぞいてはいけないような気がする。

「ただの井戸だ。怖くなんかないさ」


そう自分に言い聞かして井戸の下を見た。

暗い…。かなり深い井戸なのか底が見えない。


「こんなに深いんじゃ水飲めないな…」


ボクは諦めてまた歩きだそうとしたその時だった。


「イドノナカ…。イドノナカ」


聞こえた。空耳なんかじゃない。

低い…。低い声だ。とてつもなく…。


「だれ?」


ボクは恐る恐る振り返った。


誰もいない。この場所にいるのはボクだけだ。

ひょっとしたら気のせいなのかもしれない。

いや、気のせいであって欲しい。


「イドノナカ…。イドノナカ。ミテミテミテ」


まただ。聞こえた。

確かに聞こえた。


「井戸の中見て?誰かいるの?」


ボクは井戸をのぞきこんだ。


「ミタネミタネ。キテキテ…イドノナカ。ズットズット……ネ?洋一君!!!」


その時だ。暗い井戸の底から緑色の手が伸びてきて勢いよくボクの頭をつかんできた。


「ギャー!」

ボクは叫んだ。そして井戸に落ちまいと全身の力を足に込めた。

冷たい…。冷たい手だ。

まるで井戸水のような冷たさだ。


「いやだ…。はなせよ!」

その時だ。一瞬、手の力が弱まった。

ボクはそのチャンスをのがさまいと思いっきり手を振り払って一目散に走って逃げた。


その後のことはあまり覚えていない。

気が付くとボクは道に迷った最初の場所に立っていた。



「おじいちゃん~!」

ボクは泣きながらおじいちゃんに抱きついた。


「どうしたんじゃ?洋一?ケガでもしたのか?」


ボクは今日体験したことをおじいちゃんに話した。


「そうか…。洋一会ってしまったんだな…。木人札もってるか?」


おじいちゃんに言われてボクはズボンのポケットに手を伸ばした。


ない…。どこにも。走ってる時、落としてしまったんだろうか?


「ないのか。良かった…。仏様に感謝しないとな。さっ中に入りなさい。おなかいたろう?」


おじいちゃんは笑顔でそう言った。



あの出来事から25年がたった。ボク、いやオレは今年で35歳になった。

大人になって知ったことだが今から50年前、ある男の子が森に虫取に行って行方不明になったそうだ。

村の人総出で山を探したのだが結局男の子は見つからなかった。

村の人々は噂しあった。

神隠しにあったのだと。

その話を聞いた時、オレの脳裏にあることがよぎった。

いや、これ以上考えるのはやめよう。


なぜならどのみち考えても答えはわからないのだ。



「お父さん!虫取に行ってくるね!」

息子のさとるが玄関で靴を履きながらそう言った。


「いや…。悟!今日は家で遊びなさい!父さんとテレビゲームでもしよう…。な?」


「え…。なんで!?田舎のおじいちゃんちに来てるのに?外で遊びたいよ!」


「ダメだ。木人札もないし…」


「お父さん木人札って何?オモチャ?」


「ハハハッ…。父さんの独り言だよ。さぁ、テレビのある部屋にいこう」


オレは息子の悟に笑顔でそう言った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ