一時間目
朝はお母さんに起こされる。目覚ましをセットした事はない。ちょっとでも長く寝ていたい。準備の時間が短くなるけれど、最近体重を気にしているし朝ご飯は抜きでも全然大丈夫。そんな風に思いながら、そんなどうでも良い事は心に留める。結局は、起きる。起きなさいの言葉で、起きる。そんな素直な私はまだ13歳。中学一年生。
今年の4月、中学入学を機に地元長野の田舎から、東京に引っ越して来た。お父さんの仕事の都合で。どうして引っ越さなきゃいけないんだろう。友達と離れたくない、なんて一度も思わなかった。なぜかなんて説明しなくてもわかるだろうけど、東京の方が楽しそうだから。長野なんて何にもないもの。小学校の頃、好きな人がいて、両思いだった。たかしくん。後から聞いた話だけど、たかしくんは私が引っ越す事を聞いて、悲しいなって話してたみたい。私は悲しいなんて思わなかったけど。私ってね、未来に興奮するの。多分、人一倍。どんな未来が待っていたとしても、これから起こる全ての事に興奮しちゃうの。過去に戻りたいとか、ここに留まりたいとか、今いる特定の場所や今関わっている人に執着しないの。むしろ誰もいらないとさえ思う。別に俗に言う厨二病とかじゃない。私が最強で私が正義だなんて思わない。私は、私以外の人にあまり執着できない私を可哀想だと思うから。
そんな事を考えてたら学校に着いた。遅刻、ギリギリセーフ。余裕を持って学校に着くより、2分前に教室に入りたい。その方が時間を有効に使っている気がする。2分前に着いて、上着を掛けて、スクールバッグから本を取り出す。本を開いて、その時、チャイムがなるの。読書の時間、始まりますよって。学校に早く来れば来るだけ、成績が良くなるなら早く来ますよ。でも、先生方は自分で目覚ましをセットして早起きしている子を高く評価してくれるの?してくれないじゃない。
一時間目は数学。誰も聞いてないんじゃないのってくらい静か。先生が質問をしているのに、誰も手を挙げないの。仕方ないから私が挙げる。私が正解を答える。私は数学で最高評価を得るために手を挙げる。あとね、クラスの男子からの高評価を得るためにも。真面目で頭が良くて、つまらない授業も真剣に受けている良い子だなっていう評価ね。他の女子たちはどうして手を挙げないんだろうとさえ思うわ。こんな絶好のチャンスに。大半はこんな簡単な問題もわからない頭の弱いバカか、男子の評価を得ようとしない女としてのバカね。