第三話『魔眼……だと……?』
あれからしばらく――体感的に一時間くらい――歩いて少女の住む村へとついた。ちなみにあの変な空気はずっと続いている……
「つ、つきました」
「お、おう。ありがとう」
こんな感じで二人ともオドオドしている。
まあそれはさておき、ようやく村についたか。いや、いつもに比べれば全然早いほうか。
村の雰囲気は、ザ・村って感じだった。
一戸建ての木で作られた家がバラバラにあり、畑と思わしきものが点々とあった。
目立つものと言えば、村の真ん中辺りにある二階建ての家くらいだ。
さて、
「来たはいいものの、どうすっかな~」
俺は顎に手を当てて考え始めた。
さっきの少女に言葉が通じたから日本であることは間違いないだろう。あ、でも見た目は完全に外人だったよな。日本に留学してたとか?
でも今まで海外に捨てられたことはなかったから大丈夫だろ。
……今回初めて捨てられたりして……
などと考えていると、
「よ、よかったら私の家に来ませんか?」
「え?」
考え出してネガティブになっていたら少女がこちらを見てそう言ってくれた。
俺はてっきりこの空気から早く脱したくてもうどこかに行ったかと思っていた。
てかそれよりも、今この子家に誘わなかったか?
「い、いいの?」
俺は恐る恐るといった風にもう一度たずねた。
少女はニコッと笑って首を縦に振る。
「なにか困っているようだし、ちょっと落ち着いたところで話したほうがいいと思います」
「マジか! ありがとう!」
ニコッと笑ってくれた少女に俺も笑い返して礼を言った。
じゃあ行こ、と言って少女は歩きだす。俺もそれについていく。
少女は村に戻ってきたからか、最初より全然体の強張りがなくなっていた。笑顔も見れたしなんか得した気分だ。
スタスタと歩く少女に俺もついていく。時折こけるがそれはご愛嬌。気にしない。
俺は笑いあったことであの変な空気がほぐれたので話しかけてみた。
「そういえば誰も外に出てないね?」
今は太陽が真上にあってまさにお昼時だ。
なのに外には人っ子一人いない。
畑にも動く影はない。
前を歩く少女は分かりやすいくらいにビクンッとなり、オロオロし始めた。
「あぅ……えっと、あれです! みんな疲れて休んでるんです! け、決して隠れてたりしないのでしゅ。はぅぅ……」
可愛い…………
なんだこの天然記念物は?! 可愛すぎだろ!
最後の噛んだあとの、しゅんってなったとこなんて最高だったぞ!
俺は今すぐ叫びだしそうになる興奮をなんとか気合で押し込めて一応問いただす。
「村のみんなは余所者の俺を警戒してるってこと?」
まあ、時代が時代だからな。
こんな村なんてさっさと壊してゴルフ場にでもしよう、とか言ってるやからと間違われてんのかな? …………さすがに古いか?
とにかく警戒されてたら満足に道も聞けないな……
……よし、ここは開き直るか。
俺は手をピンッと挙げて大声で叫ぶ。
「道に迷ったんで誰かお願いしま~す!」
…………………………あるぇ? だ~れも出て来ないぞ?
前を歩いていた少女もいきなり叫びだした俺にびっくりして固まってるし……
と、そのとき背筋にぞわぁ、となにかが這うような感じがした。
「ちょ、みんな待ってください! この人の言ってることは本当です!」
背筋に悪寒が走ったと思ったら少女が辺りを見渡して両手をパタパタと振りながら懸命になにかを言っている。
すると、家からぞろぞろと出てくる村人らしき人たち。なぜに隠れてた?
え~っと人数は……二十人くらいかな?
見た限り、普通の人っぽい。
唯、髪の色がはっちゃけてる。
金どころか、赤や青、ピンクに紫とまさに十人十色だ。逆に黒髪はいなかった。
ちなみに全員なぜか武装している。鍬とか鉈とか持ってるよ? はっちゃけすぎだよ?
その中からつるっぱげで銀色の髭を蓄えたよぼよぼの爺さんが近寄ってきた。
「旅の者よ。おぬしはこんなところで何をしておるのじゃ?」
ザ・爺だな。じゃ、とかまさに。
別に人見知りでもない俺は普通に返事をする。え? 女の子? 女の子は人見知りとは別なのだ。
「いやぁ、恥ずかしい話迷っちゃいましてね」
俺は後頭部を片手で掻きながら茶目っ気たっぷりに言ってみた。
チラッと爺を見てみると爺は俺を連れてきた少女を見ていた。
少女はなにかを言うと俺の方を向いて口を開いた。
「あのぅ、正直に言って欲しいです……」
「うっ……」
う、上目遣いは反則だろう……
俺は息を吐いて正直に告白した。爺の目がきつかったからだ。
まあ、そこまで隠すことじゃないしね。
「俺気づいたらこの子と会った場所で寝ていたんですよ」
そう言うと爺はまたも少女を見る。なんだ爺、ロリコンか?
少女はまたなにか言うと爺が目を見開いた。
爺は、一つ質問するぞい、と言ってきた。もちろんだぜベイベー! と言うと変なものを見るような目で俺を見てきた。打ち溶けようと頑張ったのに……
「ゴホン、おぬしはわしらに敵対心はないか?」
「え? 逆になんで初対面なのに敵対心を持たないとダメなんですか?」
心の中ではバシバシ言いまくってるが、年長者だし、道を教えてもらうのでちゃんと敬語で話す。でもこんな風に聞くとたまに気分を悪くさせちゃうんだよね。なんでだろう?
爺はこの回答に驚いたようで目を見開いた。
そして少女を見る。どんだけロリコンなんだよ。
爺は少女からなにかを聞くとまたこちらを向いて喋りだす。
「本当のようじゃな。よし、わしらはおぬしを歓迎するぞい!」
「よかったですね!」
今までの張り詰めていた空気は嘘のように緩くなり、みんな俺に近寄っては、よろしくな! などと言ってくる。
あれ? なんか俺がここに滞在するような雰囲気になってない?
「…………俺道を聞きたいだけなんですけど……」
俺の呟きはガヤガヤと喋りだした村人たちの声にかき消されて誰にも聞かれなかった。
(何言ってるのこの子。イタイよ……)
俺たちは今少女ことルルの家で村長を合わせた三人で談笑している。
いろいろ話しているうちに、常識のことについて話すようになった。
なんでも、俺の出身地『日本』が聞いた事もないような国だったらしいからだ。
そしたらルルが、魔眼って知ってる? と聞いてきたのだ。
なんか、こう、可愛い子がこんなんだといろいろ残念だよな。
ルルは続けて喋りだす。
「魔眼っていうのはですね、いろんなことが出来るのです!」
ルルはエヘンッ! とわずかに膨らんでいる胸を張って説明した。
いや、説明になってねぇよ?
すると、村長が俺の心境を解してくれたのか補足してくれた。
「例えばですな、このルルは【審議の目】と言って相手が嘘をついているかどうかある程度分かるのじゃ」
村に来た時にわしが質問したじゃろ? と言われて俺は渋々納得したフリをしておいた。
まあ、世界は広いからな。魔眼を信じている宗教みたいなのとかあってもおかしくはない。…………いやおかしいわ。
ルルを見ると頬をプク~と膨らませて俺を睨んでいる。睨んでいるつもりなのだろうが、ただ可愛いので逆効果だと思う。萌える。
「ユウタさんは私のこと信じていないんですか?」
「いやいや、そんなことないよ」
俺はニッコリ笑って普通に言った。
が、
「嘘ですね」
「な、なに!」
あっさり見破られてしまった。
「おいおいおぬし、信じていないならここで『嘘だという証拠でも?』くらいはいいそうなのじゃがな……」
ハッ! しまった! これじゃ肯定したようなものだ!
俺は慌てて取り繕う。ま、手遅れだが。
「しょ、塩でもあ、歩くんかいな?」
慌てすぎだ俺。何言ってるかわけが分からないぞ。
「え? し、塩は歩かないと思いますけど……」
そして困り顔で普通に返答するルル。
いや、俺も困るんですけど……
「と、とりあえず仕切り直そうか。魔眼って他にはなにがあるの?」
また空気がおかしくなりそうだったので仕切り直す。
ついでに魔眼についてもう少し詳しく聞いてみた。なんだかんだ言っても中学三年生。ラノベ大好き少年だ。魔眼とかもう大好物! これは聞かなきゃ損だろ。
ま、内心では全く期待はしていないがな。面白い話が聞ければいいな~、くらいにしか思っていない。
そういえば帰ること忘れてたな。あまりにも普通に喋っていて本来の目的を忘れていた。これ聞いたら道を聞こう。
そう思っていると村長が口を開いた。
「他にはじゃな……この村ならある程度の距離までなら物体を発火させたり、石ころ程度の大きさの物を手を使わずに投げたり出来るな」
「へ~………………へっ?」
なんかおかしな説明が入った気がする。
「まあ、おぬしのいたところでは魔眼自体なかったようだしの。ちょっと実演してやるわい」
村長はそういうと席を立って歩き始めた。俺も村長に続いて席を立ってついていく。
外に出ると村長は木の枝を取り出し放り投げた。
Y字の木の枝は不規則に転がっていき、五mくらいのところで止まった。
「今からやるから見ておるんじゃぞ」
村長はそういうと黙りこくってしまった。
空気がピリピリしてくるのを感じる。
村長の顔を覗いて見ると真剣な表情でとてつもなく集中している。
そして木の枝を見ている目は先ほどまでブラウン色だったのだが、今や真っ赤に染まっている。充血しているのかと思ったが、違う。綺麗な赤だ。
そして数秒経ったころ。
木の枝のほうからパチッと音が聞こえた。
村長から視線を外して木の枝にやるとやはり木の枝からパチッと音が聞こえた。
次第にパチッと聞こえる間隔が狭くなっていき……
ボンッ
「ええっ?!」
一際大きな音を立てて火がついた。大きな音と言っても指パッチンほどの大きさだが。
火は小さいながらもメラメラと蠢いていた。
「どうじゃ、これで、信じるか?」
そういう村長は両手を膝について呼吸も荒く、今にも倒れそうだ。
それくらい集中していたということだろう。
俺はうんうん、と頷いた。あんなのを見せられたら信じるしかないだろう。
あ、マジックっていう可能性が……いや、そう思うのは止めよう。男というものは夢を追い続ける生き物なのだから!
「やっぱりすごいです……」
隣ではルルが目をキラキラさせて村長を見ている。
その純粋な尊敬の眼差し……ベリーグッド! それが俺に向いていたら一発KOだったね!
俺はもう一度村長に向き直り、喋りだす。もう一度見たい!
「村長! 他にも……」
と言おうとしたところで口が止まった。
村長の具合が本当に悪そうだ。
魔眼なんてものは、大体人体に負担がかかる(俺の知識では)。
村長はもう爺だ。かなり体に負担がかかったのだろう。
これを見たら他にも! なんて頼めなくなった。
俺は無言で爺の前にしゃがむ。
「はぁ、はぁ、どうした?」
「いや、つらそうだからおぶってあげようかと……」
俺は顔だけ振り返ってそう言う。
爺は、ニッと笑うと俺の背中に体を預けてきた。
「よっこいしょっ!」
俺は爺の太ももをしっかりと掴み、立ち上がる。
爺もちゃんと俺の肩に手を置いて力はないが、掴まっている。
俺はルルを見て問う。
「なぁ、村長どこで休ませる?」
「へっ? あ、はい! えっと、あっと、ひゃうっ!」
ボーッと爺を見ていたルルに声をかけると間抜けな声を出しながら俺の方を見て、顔を真っ赤にして慌て始め、最後になにかに躓いてこけた。
両手を顔の前でわたわたと動かしながらバタバタと慌てる姿はとても可愛らしかった。って俺可愛いしか言ってないな。でもしょうがないじゃん! 可愛いんだもの!
結局俺たちは村長の家へと向かった。
村長の家は二階建てと言うところ以外少女の家と大差なかった。
全体が木で作られており、質素な感じがする。
俺は爺をおぶったまま中に入った。鍵はかかったなかった。てか鍵自体なかった。
「おじゃーしやーす」
とりあえず挨拶をしながら、ルルが開けてくれた扉をくぐる。
ルルは、おじゃまします、と控えめに言って入ってくる。
「いやはや、わしももう年じゃのぅ。たった一回、しかも小枝に火をつけただけで心力がなくなるとは……」
まあ、つっこまないね。
だってあれを見てしまったのだから。
あれはマジックとかそんなんじゃねぇよ!
これはさすがに認めるしか…………
と、そのときヒラヒラと紙が目の前を落ちていった。
「よっと。ってまたか……」
俺は爺を背負ったまま軽く膝を曲げて紙を掴む。
爺を片手で支えながら、もう片方の手で紙を持って読み始める。
【おひさ~、なんかやっと認めてくれた感じぃ?】
相手からそう言われると否定したくなる不思議。
【ま、心は正直に言ってるけどね~。そんで、忘れてるっぽいから言っとくよん】
あれ?確かに説明係が何か言ってたような……
【あ、手紙だから、言っとく、じゃなくて、書いとく、じゃん爆笑】
「うぜぇ!早く説明しろや!」
ったく!こいつはいちいちクッションを挟まないといけないのか!
【俺っち堅苦しいの嫌だからさぁ、こんな感じで一回クッション挟んどきたいんだよね~】
だから心を読むな!てかこれどんどん内容変わってきてない?
【うん】
「…………はい」
なんかたった二文字で気力が削げたというか…………
まあ、いいや。
そんで忘れてることってなんだっけ?
【いやいや、そんなことより横見てみなYO!】
急にラップ口調とかなんでもありか!
と思いつつ横を見てみる。
左を向いたがなにもいない。ただの壁だ。
左を見たら次はもちろん右だ。しかし…………
(いや、これは無理だな。心が折れる)
まあ、正直に言うと、うぜぇ!のところで気づいてたよ。やっちまったって。
多分右を見たらルルが冷ややかな目で俺を覗き込んでいるだろう。
そして、そんな俺にトドメと言わんばかりに、キモい、などと言われるやもしれん。
………………いや、案外ありかも?
ってふざけるな、俺!
俺は爺を、よいしょ、とわざとらしく声を出しながら背負い直すと、ルルの痛い視線から逃げるように奥へと入って行った。
週一とか言っておきながら次の日投稿。
まあ早い分にはいいんですけどね(;^_^A アセアセ・・・
てかお気に入りのないこっちより『異世界で~』を書けって話ですよね。
……すいません
ギャグが寒すぎる・・・・・・・・