魔法使いの見分け方
魔法使いの見分け方を君は知っているか?
希望を与えるのがいい魔法使い、絶望を与えるのが悪い魔法使いさ、簡単だろう? 覚えておいてくれ。
せっかく魔法が使えるんだ。人のために使ってこその魔法ってもんだろう。
もちろん俺はいい魔法使いになりたいと思っていた。誰だって悪くなりたいとは思わないよな。
ある日勇者が俺の前に来て言ったんだ。
「魔王を倒すために力が必要だ。誰か仲間になってくれ」
名乗りを上げたのは戦士、魔法使い、遊び人。
魔法使いが俺だ。若さってやつか、大した実力も無いのに勇者様のお伴になっちまったんだ。魔王を倒すことが、いい魔法使いへの道だとも思っていたせいもあるかも知れない。
最初の頃はひどいもんだった。スライムにすら苦戦して、戦士の奴に役立たずと言われたもんだ。遊び人は戦闘中終始ギャグと芸を披露してるだけだった。愉快な奴だよまったく。
しかし旅を進んで行くうちに俺の実力も上がって、一端の魔法使いになっていた。パーティーとしての強さもまずまずと言った所だ。勇者様と呼ばれる奴は他にも何人か見たけど、うちの勇者が一番勇者らしかったな。
貧しい者弱い者を優先して助け、いくつもの村を救っていたんだ。これを勇者と呼ばずに誰を勇者と呼ぶんだ?
「私は本当に勇者として行動ができているのだろうか……」
勇者はいつも言っていた。周囲の評価とは違い、本人は苦悩していた様だ。
筋肉バカの戦士には言葉の深い意味が分からず、遊び人は踊りにハマって踊り手になると言っていた。愉快な奴だよまったく。
そんな訳で勇者の話し相手はいつも俺が引き受けていた。
「よくやっているさ」
そう言うしか俺にはできなかった。事実勇者はよくやっていたのだ。
「本当に魔王を倒せると思うか?」
勇者に聞かれた。俺達は旅を進めるうちに気がついてしまっていたんだ、人間と魔族の圧倒的な能力の差に。
「倒せるさ」
これもそう言うしか無かった。なぜなら、俺はいい魔法使いってやつになりたかったから。勇者に希望を与えたとしたら、最高の魔法使いと呼ばれてもいいんじゃないか? そんな風に考えていた。
「そうか……」
勇者はそれ以降何も言わなかった。
俺達の旅は続いた。
諸国を救う旅だ。中には強い敵もいた。世が世ならこいつが魔王になっていたかもな、なんて思うほどに強い敵も命からがらやっとこさ倒した。遊び人はこの頃に転職して賢者になっていた。一気に魔法使いの上の存在さ、不愉快な奴だよまったく。
でもそんな奴に救われたこともあるんだから、毒づいてもいられないな。
「本当に魔王を倒さなければ、世界は救われないのだろうか?」
「当たり前だろう、何のために旅を続けてきたと思っているんだ」
戦士はそう言うが、勇者が納得することはない。
勇者の考えはとうとう正義とは何か、平和とは何かという所に達していたんだ。まぁ仕方が無いだろう、何年も世界を救うために命をかけてれば思う所もあるさ。親しい者を失ったことだって無いわけじゃない。
『最後の希望』
いつしか勇者はそう呼ばれるようになっていた。と言うのも俺たち以外のパーティーが次々と魔王軍の奴らに殺されていなくなってしまったんだ。
今や魔王軍と人間の比率は九対一になっていて人間様は大ピンチ、四面楚歌? 絶体絶命とでも言えばいいのだろうか。
そんな中唯一残った勇者は、まさに『最後の希望』って訳だ。
人類の希望を背負う中、勇者が言ったんだ。
「なぁ魔法使い、頼みたいことがあるんだ」
勇者に頼まれたことは、信じられないことだった。
「できない、やめよう!」
俺はそう断った、しかし勇者は俺の弱点を知っていた。
「いい魔法使いになるのだろう?」
その一言に俺の心は決まった。
次の日、全世界に『魔王と勇者の決戦』を放送したんだ。
魔王を相手に勇者は戦士と賢者と共に勇敢に戦い、勝利した。
そう、魔王に扮した俺を勇者達が倒すという、嘘の最終決戦を全世界に放送したんだ。放送を見た人は魔王が死んだと信じるだろう。
「みんなに悪い事をしちゃったかな?」
勇者が言った。しかし勇者の想いを理解していた俺はこう答えた。
「いいや、希望の中死ねるんだ、絶望を与えるよりはいいさ」
まだ本物の魔王は生きている。魔王に勝てない事を悟った勇者は、人間に一瞬の希望を与えるために嘘をついたんだ。
これから先も魔王軍は人間を襲い続けるだろう。
「ありがとう、ごめん」
そう言って、勇者は自害した。人類に希望を与えた勇者は最高の魔法使いさ。誰が勇者を責めることができると言うのか。
しかし最後まで人間のために生きたあいつは、絶望の中で死んでしまった。
「人のために死ぬのが勇者ではない、人のために生きるのが勇者なのです」
賢者が言っていた。
「その通りだよ、まったく」
勇者の犠牲によって、人類は希望の中で滅ぶことになる。
魔法使いの見分け方はもう知っているよな、君に問いたいことがあるんだ。
――俺は、いい魔法使いになれたのだろうか?